迷惑な訪問者
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〜迷惑な訪問者〜 * 急な呼び出しを訝しむヒマを与えずにベントーザ、クラーケンボーンはいきなり切り出した。というか遮った。 「地球へ行くぞ。ウルーラ、お前も同行しろ」 どうやって、と尋ねる必要は無かった。
2015-05-19 00:38:26ベントーザの傍らには、なぜか憔悴しきった様子のコルウス、空間属性のエクェス・クロウボーンがいたからだ。 「コルウス殿、一体何事か」 「おい無視すんなっ」 強引な人間とは誰でも向き合いたくない。 クラーケンは先の地球人ボーンとの戦争で未だに回復待ちの状態だったはずだ。
2015-05-19 00:42:31上から何か拝命したとも思えずそもそも地球とは和解したはずだ。 「漢気だよ」 こともなげに答える。 「は?」 「コルウスの奴、地球に女がいるんだってよ」 「…は?」 「連絡がぱったり絶えたんだと」 「は?!…連絡?!」 「ラ◯ンが来ないって」 「◯イン??」
2015-05-19 00:48:44説明はウンザリだという体のベントーザ、 「だから直接確かめに行くぞ!」 (なんで俺が…) ウルーラはいきなり襟元を締め上げられる。 「いいから来い!」 おおかた、時間属性たる彼の能力を保険代わりに使うつもりだろう。別に部下ではないし従う義理もない。
2015-05-19 00:59:21しかし異議の申し立ては空間の闇に葬られた。 * 「あ゛つ゛い゛」 3人は、スクランブルに降り立っていた。 「太陽の位置からして午前だな。に、してもなんて暑さだ」 「軽くローストだな」 ヤキトリ焼きイカの概念はネポスではタブー。ウルーラの脳裏には魚類型星人の干からびるさまが浮かぶ。
2015-05-19 01:04:49しかし人間の往来が全く無い。排気ガス地上車は走っているがその数もまばらだ。 「建物は密集してるが閑散としたもんだな」 「建物には人間がぎっしり詰まっているのだが」 コルウスが探知能力を効かせる。彼のそれはエクェスのうちでも特殊で、いわゆるニンジャのシンピである。
2015-05-19 01:09:04「とりあえず地下にでも移動しよう。コルウス殿、その上で委細を聞かせてもらうぞ」 ウルーラの当然すぎる提案にぎこちなく視線を逸らす。 「う、うむ。地下に二次元交通網がある」 「えっらいローテクだな」能天気にベントーザが言う。 「それにこのニオイ!」 「そこは拙者も全面同意する…」
2015-05-19 01:27:34「え?」 3人は、真っ白い光の洪水のなかに立っていた。 晴れた屋外から“直に”移動してきたばかりだというのに、あまりの眩しさに目が追いつかない。 「どこだ、今度は?」 ベントーザに怒鳴られてもウルーラに答えは出せないし同じくらい眩暈がしてる。 「落ち着けクラーケン殿」
2015-05-19 01:32:24コルウスがたしなめるがあまり説得力はない。 「地下鉄はよくわからなくてでござるな…」 いちおう安全面で配慮したらしい。 なるほど壁こそ無闇やたらに発光しているものの、周囲はすっきりと片付いた通路で、人間もけっこう歩いていた。 「おい、なんか目立ってないか俺たち」
2015-05-19 01:40:40「クラーケン殿の大声のせいでござろう。我等の出現時を見られた可能性はないでござるよ」 「うむ…いや」 ウルーラは、首回りにじっとりと汗が噴き出すのを感じた。 「明らかに地球人どもの衆目が集まっているようだ」
2015-05-19 01:48:50道行く人々がチラチラと伺っている様が知れる。あからさまに指差す者さえいる。 「もしもし」 傍から不意をつかれてベントーザは飛びのいた。肩口の袖を引っ張られたからだ。 「なっなっ」 「あ、スミマセン。すごくキレイな髪の色ですね、何のコスプレですか?」
2015-05-19 21:36:31相手は小柄な女性だったから、どつくわけにもいかず、言葉の意味も解らないベントーザは自分の言葉で叫ぶほかなかった。 「誉めてんだろうが何も出ねぇよッ!」 「?」 ウルーラがベントーザの腕を引っ掴んだ。 そして急旋回、コルウスを先頭に側の小路へ。 短い階段をズルズル引きずり上げる。
2015-05-19 21:47:12「20段足らずでもエスカレータ整備とか。シュトルツ様あたりが喜ぶんじゃね」 「黙っとけ」 引きずられたままでベントーザが訝しむ。 「誰かと間違われたのか?まさか身バレ」 「公式の星間外交は地球には無いはず…」 「結局、洗練されすぎてるからだろうな俺達」 「おい、何か匂わないか?」
2015-05-19 22:00:09動く歩道を含め、短い階段を幾つか昇った先は、巨大な地下バザール会場だった。 「嗅いだことのねぇ妙な…」 「あれは良いものの匂いでござる」 広大な空間をパーティションで無数に区切り、透明ケースの中に商品らしきものが並んだり積まれたりしている。
2015-05-19 22:09:28ネポスも交易の要所である。初めて見るものばかりのベントーザやウルーラにも何を売っているか見当くらいはつく。しかし馴染みがあるかといえば別だ。 「良い…匂い?」 余裕のコルウスが2人をガラスケースの側へと引っ張った。 「失敗した土器のかたまりが山のように見えるんだが」
2015-05-19 22:14:30「日本語でパンと称する食糧の一種でござる」 コルウスは空間ゲートを出現させ、中のパンを取り出して見せた。 「これ食えるのか?!どこにストロー刺すんだよ」 コルウスは齧って見せる。 「固体の経口剤かよ…」 ギャーッと、悲鳴というにはドスの効いた叫び声が背後で上がった 「しまった!」
2015-05-19 22:23:57振り向くと別のガラスの向こう側から年配の女性が指差しながらのけぞっていた。 「見られた?」 「多分…迂闊であった、ついウッカリ…」 3人はそれぞれしっかりパンを握りしめながら人混みをかきわけ走り出した。 すぐに数人の追っ手がかかる。 地上へ出る階段は先程の倍以上の長さだ。
2015-05-19 22:28:55万引き犯にとっては袋小路、地上との連携で応援もただちに駆けつけた。まさに神技。追っ手に落ち度はなかった。 むろん、角を曲がった不審者は、階段から忽然と姿を消したのだった。 *
2015-05-19 22:35:59* 「辛ぇわー日が照ってる庭の掃除辛ぇわー」 翔悟は本日5度目のグチをうめいた。 神主の父親が外出、母親も昼間は家を開ける用事も多く今日も不在。姉も出勤である。 「前はお手伝いしてくれる奴らがいて良かったなー」 翔悟はたまたま振替休日、ハッキリ言って一番ヒマなのであった。
2015-05-20 08:22:13早穂達にショッピングへ誘われていたが、断るしかなかった、というか… (ギルバートと街歩き、だもんなー…むしろ助かったというか…) 早穂、と、ギルバートなのである。 日本の大学も留学先候補だとかで来日し、早穂のヒマをいち早くかぎつけ…いや同行する約束を素早く取り付けたらしい。
2015-05-20 08:26:25(あの2人につき合わされるのはカンベン) 社殿の正面階段から話し声と足音が聞こえたので翔悟は玄関を回り出迎える。 「居たか」 「居たかはないでしょ」 気配でわかったがやはりリーベルトである。 後ろから来る人物は少し意外だった。「タイロン!久しぶり」 「こんにちは」
2015-05-20 08:32:43流暢な挨拶で応える赤毛のトラディショナルパンク大男は、現在も日本で生活を続けているが、さすがに直接会う機会は殆どなかった。 「2人してどうしたの」 「リーベルトさんが、翔悟はここにいると言ったので」 「いやそうじゃなくて」 彼女はネポスに戻っていたはずだ。
2015-05-20 08:36:18先に連絡くれればお茶でも用意したのに、と言いかけて、彼らのただならぬ表情に初めて気づいた。 「感じなかったか、空間の力を」 「いや、俺、そっち方向は未だにピンと来なくて…」 「未だに?!」 ボーン感知に関しては、星の核たる翔悟が誰より、シュトルツ並に鋭いはずなのだが。
2015-05-20 08:41:37正直、自分から探知しようとはしなくなっていた。なんだか、監視しているみたいで気が引けたのだ。 「…いや、て、つまり、ネポスから誰か来てるの?」 リーベルトは顔をしかめたが、それ以上追求せず話を継いだ。 「そうらしいのだが、だとしたら評議会に無断で動いているのだ」
2015-05-20 08:43:18「今?この近所?」 「ああ。ここの単位で20キロ圏内でウロウロしているらしい」 「広いよ!」 翔悟はあらためてボーンの気配を探る。 「ほんとだ、たぶん新宿にいる」 今日は御茶ノ水にいる筈の母親がちらっと気になる。もちろん「感じ」たりしないが、 (知らないうちに小笠原とか行ってそう
2015-05-21 08:12:17