稲川淳二の『つぶやき怪談』(2015.05.30)

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稲川淳二 @Junji_Inagawa

こんな状況なんで、「つぶやき怪談」やめようかと思ったんですが、 毎度、楽しみにされてる方もいらっしゃるので、 やっぱり、今夜、「つぶやき怪談」やらせていただきま~す。

2015-05-30 21:17:17
稲川淳二 @Junji_Inagawa

途中で何かあるとお困りますので、スピードアップで行いますね。

2015-05-30 21:17:39
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それでは、早速「つぶやき怪談」始めましょうか。 節電のために、部屋の明かりを消して、 怖ーい噺で楽しんで下さい。

2015-05-30 21:18:05
稲川淳二 @Junji_Inagawa

稲川淳二の「つぶやき怪談」、怖・楽しい時間を、共有しましょう。 何が起こっても、責任はとれませんけど。

2015-05-30 21:18:54
稲川淳二 @Junji_Inagawa

九州のほぼ中央にある高架橋は、近年自殺者が後を絶たない。 と言うのも、この橋が出来たから、自殺者が増えたという。

2015-05-30 21:19:17
稲川淳二 @Junji_Inagawa

清流を見下ろす、深い峡谷をまたいで架かるこの橋の上からの眺めが、 四季折々美しい事から、

2015-05-30 21:20:17
稲川淳二 @Junji_Inagawa

昼間はこの絶景を見ようと遣って来る人もいるんですが、 全てが、黒一色の夜の闇に包まれると、 一変して自殺者を呼び寄せるらしい。

2015-05-30 21:20:36
稲川淳二 @Junji_Inagawa

橋の上から、黒い闇へ向かって飛び降りれば、 何も見えないし、3秒後にはもうこの世にはいない。

2015-05-30 21:20:58
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ただ落下の途中で、 電線か何かのケーブルに接触すると状況は変わってくる。

2015-05-30 21:21:25
稲川淳二 @Junji_Inagawa

弾かれて、岩に叩き付けられるか、首を切断される事もあって、 かつて、下の清流で、渓流釣りを楽しんでいた釣り人が、

2015-05-30 21:21:54
稲川淳二 @Junji_Inagawa

釣り糸に髪の毛が絡み付いたんで、引き上げてみると生首だった、 という話もあって、高架橋の下には誰も寄り付かなくなった。 そして、いつかしら、この橋には幽霊が出るという噂が広まった。

2015-05-30 21:22:27
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そんな或る日、夜遅くにふたりの若者が、 果たして、噂どおり本当に幽霊が出るのか確かめようと、 クルマでやって来た。

2015-05-30 21:22:57
稲川淳二 @Junji_Inagawa

橋の手前でクルマを停めると、歩いて真ん中辺り迄やって来た。 仮にふたりを、A君とB君としておきましょうか。

2015-05-30 21:23:22
稲川淳二 @Junji_Inagawa

欄干から身を乗り出して下を覗くと、底の見えない黒い闇が広がっている。 濃い霧も出て来た。

2015-05-30 21:23:54
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ヒュュ―――ヒュゥゥ―――― 谷間を吹きぬける風の音だけが聞えてくる。

2015-05-30 21:24:22
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、A君が、 「なぁ、ここで、しばらく様子をみてみないか?」 と、言った。

2015-05-30 21:24:48
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「そうしようか」 と、B君が答えて、 ふたりが橋の上で、何か起るのを、待つ事にした。

2015-05-30 21:25:27
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうして、時間が過ぎていったんですが、一向に何も起らない。 と、B君が、携帯電話を取り出して彼女に掛けた。

2015-05-30 21:26:01
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「なあ、今、何処にいると思う? 風の音聞かせてやるよ」 と橋の上から、ぐーっと身を乗り出して、めいっぱい腕を伸ばすと、 谷底に向けて、携帯電話をかざした。

2015-05-30 21:26:38
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ヒュー・・・、ヒィィィ――・・・、ヒュウ――・・・ 峡谷を吹き抜ける風の音がする。

2015-05-30 21:27:06
稲川淳二 @Junji_Inagawa

少し間をおいて彼女に、 「どうだァ・・・、聞えたかァ?」 と言うと、

2015-05-30 21:27:31
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「なに今の? 気味の悪い女の悲鳴が聞えたけど。何所にいるの?」 と聞いてきた。

2015-05-30 21:28:07
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「またァ、悲鳴なんて聞えないぞ・・・」 と笑って、A君に、

2015-05-30 21:28:51
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「女の悲鳴が聞えたってさァ」 と言いながらまた、携帯電話を高架橋の下に向けてしばらくかざしてから、 「どうだ、まだ聞えるかァ?」 と聞くと、

2015-05-30 21:29:27
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「やだァ、怖いよォ、聞えてるよォ、女の悲鳴だよ・・・・。 これ生きている女の悲鳴じゃないよ。ねえ、何所にいるのォ?」 と、声が震えている。

2015-05-30 21:30:01