- same_whitetip
- 670
- 0
- 0
- 0
「ニンジャ!ニンジャだぞ!イヤーッ!」騒ぐ幼児とその幼児を放ったらかしにしてスマートフォンをいじる母親をなるべく視界に入れないようにしながら、ミドリはため息をついた。土曜日のお昼時のファミレスなんて、だいたいこんなものだ。 1
2015-06-17 16:28:30ミドリは派遣社員、彼氏いない歴三年の二十九歳。結婚して子供を産んで。そういう絵に描いたような幸せが、自分にやってくるとは到底考えられなかった。せめて契約社員にでもなって、自分一人食べていけるだけの収入さえあればいい。そんな風に思っていた。 2
2015-06-17 16:28:45運ばれてきたパスタは不味くはない。値段の割には、美味い方だと思う。仕事も休みもあるし、ささやかながら貯金もある。とりあえず手のひらに収まるだけの幸せは、手に入れられているのだろう。上を見ればきりがないのだ。 3
2015-06-17 16:28:58「スリケンだー!ヒュンヒュンヒュン!イヤーッ!」幼児が走り回りながら、折り紙でできた手裏剣をあちこちに投げる。ミドリは自分の足元に落ちた手裏剣を拾い上げ、それをしげしげと眺めた。なぜだか懐かしいような気がした。 4
2015-06-17 16:29:12「おばちゃん、それ、ぼくの」ふと見れば、そばに男の子が立って、ミドリを見上げていた。「ここでは投げたら駄目。他の人に迷惑でしょう」母親の方をちらりと見ながら、男の子を嗜めた。男の子はやや不満げな顔をしつつも、素直に頷いた。 5
2015-06-17 16:29:29「グリーンウッド=サン、生きているか」相棒の声が聞こえる。「しっかりしやがれ」グリーンウッドはうっすらと目を開けた。「部隊は」「撤退命令が下った」「他の者は?」「……」両脚と左腕の感覚がない。相棒の背に担がれ、引きずられるようにして進む。 8
2015-06-17 16:30:13「夢を見ていた」グリーンウッドは譫言のように呟いた。「奇妙な夢だ」どこか知らない国の、つまらぬモータルの夢。取るに足らない、退屈な人生だ。ニンジャになる前は、自分もそうだったかも知れないが、それはもう遠い昔。 9
2015-06-17 16:30:28「ソーマト・リコールにゃまだ早いぞ」「そうだな」グリーンウッドは再び目を閉じた。そうしてそれきり、奇妙な夢のことは忘れてしまった。 10
2015-06-17 16:30:43