「清き森水を求め」後日談

サブ職業レベルアップのために森へ向かった五人の冒険者。 彼らと彼女のその後の話。
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ゆーり @neo_fullswing

「清き森水を求め」後日談

2015-05-24 10:54:12
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「……よし! 出来たわね」 工具や加工用の設備が乱雑に広がる部屋で、弥彦は満足げに呟いた。 先日フィールドに森の秘宝を取りに行ったのはいつであったか。正確な日付を即座に思い出せない程度には無我夢中で作業していたらしい。

2015-05-24 10:58:18
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 目の前には無事に加工が終わったまばゆい秘宝が輝きを放ちながら鎮座している。 精製を終えたからか、宝石の名称も切り替わっていた。 「ここからどうしようかしらね……あら? 念話だわ」 【おっやっと出たか弥彦。昨日から何度かけても音沙汰なしだったのに】

2015-05-24 11:01:47
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 【あらクロン、ご機嫌よう。集中してたから気付かなくて】 【気付かないって……。帰ってきて5日は経ったけど、飯食ったのかよ】 【空の食器が落ちてるし食べたんじゃないかしら】 【(人に無茶するなとかよく言うよな)】 【クロン? それで用件は何かしら】

2015-05-24 11:05:17
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 【ああうん、俺、無事にサブ職のレベルアップができたから、その報告とそっちはどうかなって気になって】 【ちょうど今しがた終わったところよ。やれやれだわ】 【そりゃよかった。おめでとう】 【ええ。ありがとう。クロンもおめでとう】

2015-05-24 11:08:42
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 【んじゃ邪魔しちゃ悪いしそろそろ切るわ。あっそうだ弥彦】 【何かしら?】 【あとで職業ステータス画面確認してみろよ。じゃあな!】 「慌ただしいわねえ……」 別にもう少しくらい話していても構わないのだけれど、と呟きながら弥彦は念話のメニューを閉じた。

2015-05-24 11:11:19
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing そしてそのままステータス画面を開き、サブ職の欄を見て固まった。 「…………上位宝石職人」 徐々に誇らしげな気持ちが沸き上がる。努力が目に見えて認められるのはいくつになっても嬉しいものだ。成人を過ぎてからは言葉にされることは少ないので尚更のことある。

2015-05-24 11:17:43
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 弥彦はクロンのように誰かに念話をかけたくなり再び画面を切り替えたが、すんでのところで手を止めた。 「……流石にそれは大人気ないわね」 というよりも、泣いて叱りつけて平手を繰り返したので、喜びを伝えるのが気恥ずかしいのだが。

2015-05-24 11:20:46
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing そのやり場の見つからないふわふわとした気持ちをぶつけるべく、弥彦は散らばった工具の中から玄能を見つけ出して手に取った。 そして利き手に握り直すと、精製された秘宝へと力いっぱい降り下ろす。 「……さて」

2015-05-24 11:24:28
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 閉じかけたメニューを三度開いて、先ほど想定した人物とは別の相手へ念話をかけた。 【あら若旦那? ご機嫌よう。ちょっと都合つけて欲しいものがあるのだけれどよろしいかしら。……ええ、ええそうね、イエス以外は聞かなくてよ?】

2015-05-24 11:26:36
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「今日は平和で散歩日和だなあ」 睡楚はダンステリアの紙袋を下げながらアキバの街を歩いていた。 口にした通り今日は面倒事の予感もなく、のんびりと一日を過ごせそうである。 「あっ睡楚くんだあ。やっほうなの!」 ……前言撤回。平和は今終わりを告げた。

2015-05-24 14:42:00
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「うわあアサミだ。なんか用?」 「ないよう! 今アサミおつかいの途中なの!」 にこにことしながら隣を歩き始める少女に、睡楚はやれやれと溜息をついた。 「おつかいとやらに集中したら?」 「だって睡楚くんに会うの久しぶりだもん。えへへ」

2015-05-24 14:45:07
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「はいはい。まあいいや。おつかいって誰の?」 面倒だといいながらもそう話しかけずにはいられないので睡楚もたいがいお人好しなのである。 「弥彦だよう。出掛けるの億劫だから行ってきてって言われたの」 「ああ、アサミと姉さんって一緒に住んでるんだっけか」

2015-05-24 14:48:33
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「そうだよう。サードイックもいれて三人暮らしなの!」 そのもう一人の同居人にとめどない同情の気持ちを覚える睡楚であった。がんばれ。ちょうがんばれ。 「姉さん元気?」 「んー、工房から出てこないからわからないの。おつかいも念話で頼まれちゃったし」

2015-05-24 14:51:48
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「睡楚くん、暇ならお話ししにいってもいいよう? アサミ部屋に入れてもらえなかったし」 「すごく行きたくない」 「いってよう! 弥彦集中するとご飯も食べな……あっ第8商店街ついた! じゃあねなの!」 そうしてアサミは嵐のように走り去っていった。

2015-05-24 14:54:40
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 残された睡楚は、手に持っている紙袋を眺めた。優雅なおやつタイムを堪能すべく購入したダンステリアの新作ケーキである。 「……うん、いや、これはオレのだし」 改めて差し入れでも買って夜にでもいくかなあ、そう呟いて睡楚は再びぶらぶらと散歩することにした。

2015-05-24 14:58:45
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「ゆうと、今日はちょっと遠出してフィールドにいこうっす」 「ノイ、昨日もそうだったじゃないか。今日は連携の訓練のために、円卓の会議室でも借りて勉強会しない?」 「そういうのはインドアに任せるっす」 「たまには頭を使おうよアウトドア」

2015-05-24 15:08:19
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 守護戦士と付与術師の少年二人はそう話しながらえんむすびの店の前を通り過ぎてゆく。 正反対の二人は優先すべきところが相変わらず違うようだ。 「もっとお互いができることを知った方がいいと思うんだよね」 「いいや、実践あるのみっすよ!」 平行線である。

2015-05-24 15:12:17
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「ゆうとも頑固っすね。……あっ、じゃあこれならどうっすか?」 ノイギーアはにいっと笑みを深めて続けた。 「さっきクロンからサブ職のレベルアップの報告があったじゃないっすか」 「うん、そうだね」 「そのお祝いになるものを取りに行くのはどうっすか?」

2015-05-24 15:16:24
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「ノイにしてはいいアイディアじゃないかな?」 「ひどいっすよゆうと!」 「あはは、ごめんごめん、冗談だよノイ」 二人は顔を見合わせて、吹き出すようにしてけらけらと笑いあった。同年代だと気兼ねなくてしょっちゅう言いあいをしては笑っている気がする。

2015-05-24 15:19:39
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「じゃあ睡楚さんにも声かけてみようか。僕たちだけじゃ火力がないし」 「そうっすね。暗殺者心強いっす」 「……無茶はもうしないんだよ?」 「あれだけビンタされたら無茶なんかできないっすよ。何回やられたと思ってるっすか!」 「あれはノイが悪いよ」

2015-05-24 15:22:28
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「ただいまあー! 弥彦、買ってきたよう」 「あらありがとうご苦労様」 弥彦は工房から顔だけ出して、アサミから袋を受け取ると再び部屋に引っ込んだ。驚きの早さである。 「お昼食べないの? おうどんあるよう」 「あとでいいわ。今忙しいもの」

2015-05-24 15:40:09
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 「睡楚くん心配してたよう?」 「……大きなお世話だわ」 しかしそう呟く弥彦の耳はかすかに赤い。アサミはにっこりと笑みを返した。 「アサミ、ついでだけど頼まれてくれるかしら?」 そう言ってメモ用紙を差し出してくる。 「いいけど何をあっドア閉めたあ!」

2015-05-24 15:43:07
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 最後まで教えてよう! と叫ぶアサミの声を聞き流しながら、弥彦は取りに走らせた包みを広げた。厚みのある高級そうな牛革である。 「……上位とやらになったのだし、付属品くらいの加工はさせてくれるわよね?」 弥彦は腕捲りをしながら、作業台と向き合った。

2015-05-24 15:46:06
ゆーり @neo_fullswing

@neo_fullswing 半日後。ゆうと、ノイギーア、睡楚の三人は香ばしい匂いをさせた包みをそれぞれ手にもって弥彦の家の前にいた。 クロンにもすでに声をかけているのだが、例のごとく少し遅れてくるようである。

2015-05-24 15:50:55