異国まとめ(私の分)

※この物語はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありませんしモデルなどいないことにしといてください (完結したつもりでしたが発作が起きたら更新しています)
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生きた犬 @bonguly

赤毛の男は悩んだが、あまりに静かにするすると泣くので起こすのも躊躇われた。そのまま朝になったが、朝になれば手枷の青年は元通りに明るい男だった。ある昼時のこと。白銀の少年はじゃれている青年の手枷の内側に、他とは違う文字があることに気付いた。「にこれ?」「なんだろ、初めて気付いた

2015-06-30 02:08:42
生きた犬 @bonguly

丁寧に彫られた表の呪いの言葉とは違い、明らかに急いで無理に削り付けたような不自然な文字だった。「読める?」「…おれは巫女の文字は習ってないけど、表のは呪詛、内側のこれは「まじない」だと思う」「まじない?」「逃げられないように徹底的に呪ってる言葉の中にあるのは明らかに不自然だけど

2015-06-30 02:19:55
生きた犬 @bonguly

なんて書いてあるの?」「意味はよくわかんないけど、「この変わり者に幸いあれ」、かな

2015-06-30 02:28:29
生きた犬 @bonguly

手枷の青年は泣いていた。少年は初めて見る青年の涙に驚き狼狽えていたが、赤毛の男はおそらくこの手枷に彼の記憶の糸口が、そしてこの文字を使えるならば巫女を攫ったあの大国が絡んでいるであろうことを察していた。「何か思い出したの」「わかんない、でもおれが逃げたから、あいつは」「落ち着け

2015-07-01 14:44:34
生きた犬 @bonguly

解けだした記憶はあっという間にバラバラになり、手枷の青年は昨夜のようにするすると泣き続けた。横で背中を撫でていた少年たちは視線で赤毛の男に説明を求めたが、赤毛の男とて推論でものを話せるほど饒舌な人間ではなかったので、黙って手枷の青年が泣き止むのを待ち、そのまま日が暮れていった。

2015-07-01 15:02:08

   

生きた犬 @bonguly

月が出ていました 一体幾度あの小窓に昇る月を見たのか、数えるのも億劫になっていました かの王に逆らったのですから、命のひとつやふたつ取られる覚悟でした ですが彼はとても力のある呪術師で、従順だったはずの刃の反抗に、王は彼を持て余したのだと思います 呪術師は石造りの塔の中にいました

2015-07-02 01:41:45
生きた犬 @bonguly

巫女たちのことが気がかりでしたが、王は利用価値のあるものを簡単には手放さないことを彼は知っていましたし、逆に言えば利用価値がなければ血は水よりも薄いのです 彼は無事に逃げられただろうか、土壇場で残してしまった言葉が彼の道を阻んではいないか、呪術師はそのことばかりを考えていました

2015-07-02 02:10:00

   

生きた犬 @bonguly

ぽつりぽつり、昇り始めた月を眺めながら手枷の青年は大切な友人に助けられて今ここにいることを赤毛の男と少年たちに話した。聞くうちに赤毛の男はその呪術師の青年が同郷の男であることを確信した。巫女たちと共にあの大国に連れ去られた少年がいたのだ。最後のひとりだとあきらめたはずの同胞が。

2015-07-02 23:54:02
生きた犬 @bonguly

「お前だけでも」と幼い赤毛の少年を逃がした父や母、彼らは敵を討つことを望んではいない。故にひとり生き永らえている。そのことは男も重々わかってはいたが、それでも時たまあの大国への怒りが胸をよぎる。青年の話を聞きながら赤毛の男は思ってしまった。これは敵を取る為の免罪符になる、と。

2015-07-02 23:56:30
生きた犬 @bonguly

助けに行こうよ」凛と声が響いた。白銀の髪の少年だった。「…いけない、怒りに任せた行動は何も生まない」赤毛の男は言った。「わかってるよそんなことは。でもそういうことじゃない。友達の大事な友達がひどい目に合うかもしれないから助けに行く、なにもおかしくないし、いけない事なんてない

2015-07-03 00:01:56

   

生きた犬 @bonguly

何日そうしていたでしょうか。表の騒がしさに呪術師は目を開きました。次いで扉を叩く音がしました。何か大きな諍いでも起きたのか、また力を使うことを強要されるのか、呪術師は身を硬くしましたが、扉の隙間から見えたのは見慣れた巫女の衣装でした。安堵の息を吐き、口を開こうとしたその時です。

2015-07-03 01:36:38
生きた犬 @bonguly

目にも止まらぬ速さでした。「静かにして」口を塞ぐ巫女の声は見知ったものではありません。「あんたを助けに来たんだ、ケイちゃんと一緒に」巫女だと思った女…いえ、白銀の髪の少年が口にした大切な友人の名前に、呪術師は狼狽えました。「どういうことだ、記憶が戻ったのか、なんで戻って来たんだ

2015-07-03 01:38:01
生きた犬 @bonguly

なんでじゃない!そんなこともわかんないの!?あんたのとこの一族マジ頭固い!」「一族…?お前は…」「おれは関係ないよ、あんたの親戚の頭でっかちをひとり知ってるだけ」外からはなおも大きな音がします。火事でしょうか。「火事場泥棒は慣れたもんだけどね、行こう 早く逃げないと気付かれる

2015-07-03 01:38:57
生きた犬 @bonguly

みんな連れてきたよ!」友人の声です。なんで戻ってきた、おれが何のために、そう言おうと口を開いた瞬間、「バカ!」一喝。彼が声を荒げているのを初めて聞いた呪術師は面食らって二の句が継げませんでした。「…そりゃ死にたくないよ、でも誰かを犠牲にして全部忘れて暮らすなんて絶対にいやだ

2015-07-03 14:25:41
生きた犬 @bonguly

…ごめん」「うん、おれもごめん」呪術師はそこでやっと、己の心の有り様を口に出すことが出来ました。「ここから、出たい」「当たり前でしょ、その為に待ったんだよ、隣国が近々侵攻かけるって聞いたから」呪術師は息を飲みました。「…まずい」「え?」「おれを使いに来る、おれは刃で、盾だから

2015-07-03 14:38:26
生きた犬 @bonguly

ユウ」鋭い声がしました。赤毛の男です。「まずい、近衛兵たちがこっちに向かってる」呪術師…いえ、黒髪の青年は、赤毛の男がなにか眩しそうな目でこちらを見ていることに気付きましたが、気を配る余裕はありませんでした。塔の周りは近衛兵の怒号と、燃え盛る炎の音に埋め尽くされていきました。

2015-07-03 14:57:56
生きた犬 @bonguly

燃え広がる炎は音を立ててあたりを飲み込んでいきました。塔は四人と巫女たちを抱いたまま、砂の城のように崩れていきました。近衛兵たちは堅牢であるはずの石造りの塔が無残に崩れ去っていくのを、ただ呆然と眺めていました。隣国との戦いは7日間に渡り、その一帯を舐める様に焼き尽くしたそうです。

2015-07-03 15:03:09

   

生きた犬 @bonguly

さて、塔の燃え跡からは巫女たちはおろか、ただのひとりの屍すら見つかりませんでした。事の次第を知っている人々は不思議なことだと口々に言いましたが、かの大国も王も、それを気にしていられるような状態ではなく、ただ月日は流れ、少しずつ人々の記憶から消えていきました。

2015-07-03 15:13:45
生きた犬 @bonguly

…ええ、本当は不思議なことなど何一つありません。彼らのいたいけな祈りを一身に受けていながら、ただ見ているだけで必要なときに奇跡のひとつも起こせない神なんて、彼らの信仰を受けるに値しないでしょう?…………物語を返しましょう。愛しい子らの旅路に幸多からんことを、神々の祝福の口付けを。

2015-07-03 15:16:10
生きた犬 @bonguly

おわり!!!!!!!!!!!エンドロールの横に小窓でPV流しといてください!!!!!!!!!!!!!!!!!

2015-07-03 15:17:46
生きた犬 @bonguly

叙述トリックみたいのがやりたかったんですけど途中で思いついちゃった感出まくった 先決めてない連載ってめちゃくちゃ大変だな いい勉強になりました

2015-07-03 15:23:07