黄昏町にて彷徨う

７日目

　
この町にいて、久しぶりによく眠れた気がする。
なぜだろう？
頭を捻るが思い当たるフシはなく、ただ時間だけが過ぎた。
その場に留まり続けることは経験上出来ないと知っていたので、あてもなく歩を進める。

終わりはあるのだろうか？

歩いていると、気取った格好の男に話しかけられた。
どことなく誇らしげにしていて、この町では珍しいな、と思った。

どうやら、男は抵抗の手段を寄越そうとしているらしい。
抵抗の手段……「食ってしまえる」という言葉は気になるが、もう殺されたくない。
死ぬのは、あんなに恐ろしい目にあうのはもう嫌だ。

頷くと男は満足そうに「そうか」と言い、肩をその見た目からは想像できない強さで掴んだ。
痛みに竦み、男から距離を取ろうとするが、そんな抵抗など歯牙にもかけない様子だったが、抵抗が鬱陶しかったのだろう。
肩に掛かった手が首を締めた。

「安心し給え、痛みはすぐに無くなるさ」

十全な機能を阻害された肺が軋む。
酸素を求め無様に口を開閉する様を嗤う男、歪む唇から覗く人よりも発達した犬歯に吸血鬼という単語が浮かぶ。
首にかかった手が、脈打つ血管を無遠慮に指でなぞる。

選択を間違えたのだ、抵抗するすべなど求めなければよかったのだ。
いやだ、しにたくない

「死んだって、死なないだろう？」

首筋の生暖かな感触。
辺りに広がる鉄の臭い。
生命が奪われていく音。
徐々に冷えていく指先。

　　　　し　に　　　た　　　　く　　　　　　　　な

暗転
　

８日目

　
目が覚めると、口の中が鉄臭かった。
どうやらいつの間にか指を噛んでいたようだ。

傷ついた指で歯を撫でる。
以前と比べて明らかに犬歯が発達していた。
まるであの男と同じような「牙」に……

頭を振って否定する。
化け物ではない、化け物なんかではない。

逃げるように……いや、その場から逃げる為に走った。
闇雲に、迫り来る何かから逃げるために

どのくらいの時間を走り続けたのかはわからないが、目の前にはいつの間にか鳥居があり。その先にはこの町に来て初めて見る夜が在った。
驚きと、嬉しさで何も考えずその鳥居を潜ろうとした。

衝撃と、焦げた臭い。

気付けば鳥居から弾き飛ばされ、尻もちをついていた。
力さえあれば、ここから出られる。
力さえあれば、殺されない。

力さえあれば

力さえあれば

力さえあれば

力さえあれば、また会える

９日目

　
一旦、鳥居の事を諦め町へと戻る。
少しばかり疲れて来たので、どこか休める場所を期待しての行動だった。

ゆっくりと町を眺めながら歩く。
相変わらず怪物たちが蠢く町だが、弱そうな怪物は此方を見るとそそくさと退散していく。
力があるが故の余裕だった。

10日目

１１日目

１２日目