【ミイラレ第五話:トイレの花子さんのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんかするお話。入学しても、怪異。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/841223
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ第五話:トイレの花子さんのこと】 #4215tk

2015-06-30 20:49:37
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

北都(ほくと)高校。まだ新しい部類に入る高校であり、空から見ると校舎はコの字型をしている。校庭には満開の桜。そして校門には「入学式」の立て札。そう、今日は入学式。大いに緊張しつつも、彼は式場である体育館にたどり着いていた。並びの関係上、側に怜はいない。1 #4215tk

2015-06-30 20:51:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

周囲には見知らぬ同年代ばかり。さすがに心細くもなる……『このへん、結構子供が多いんですねえ』脳裏に響いた能天気な声に、四季は溜息をつきそうになった。彼に『憑いて』きた幽霊の小夜子である。『静かにしててよ、小夜子さん』『大丈夫ですよー、これくらい』2 #4215tk

2015-06-30 20:54:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

けらけらと笑いを響かせる小夜子に、四季は少しだけ眉根を寄せた。彼女が憑いてきたのは、部屋で巡と二人きりになるのが嫌だったから、ということらしい。しつこいくらいにお願いしたおかげで、ひとまず姿は隠してもらえることになった。霊感のある人間がいたら面倒だからだ。3 #4215tk

2015-06-30 20:57:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『四季さんも、もっとお隣の人とおしゃべりしたらいいんですよ』『え〜……』『え〜、じゃなくて』「……続いて、生徒会長の挨拶です」司会の言葉が響く。四季は慌てて意識を壇上へ向けた。そして目を丸くする。生徒会長が美人だったから……ではない。その左右になにかがいた。4 #4215tk

2015-06-30 21:00:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」にこやかに話す生徒会長の言葉は、四季の耳には入らない。それよりも彼はその側に潜む『なにか』に目を凝らしていた。姿を消すのがうまいのか、陽炎のような揺らめきだけしか見えない。霊感の強さによっては見逃してしまうだろう。5 #4215tk

2015-06-30 21:03:32
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

不意に四季は陽炎から視線を感じる。姿を隠しているはずの小夜子が息を呑み、身を竦めたのが感覚としてわかった。それほどまでに威圧的な眼差し!「……以上で、生徒会長の話を終わります」司会の言葉。拍手の音。四季は思わず安堵の溜息をつき、その拍手に加わった。6 #4215tk

2015-06-30 21:06:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あの人は退魔師だね」入学式終了後。合流した怜はあっさりとそう言った。四季は思わず目を丸くする。「知ってるの?」「うん。加茂さんっていって、その筋ではかなり有名な人。……ここに通ってるのは今日初めて知ったけど」彼女は肩を竦める。「家が近いのかもね」8 #4215tk

2015-06-30 21:09:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ふぅん……」四季は腕を組み、唸る。偶然にしては出来過ぎな気もする。どうなのだろう?「それはともかく。四季、教科書は買った?」「え?ああ、うん」「そう。じゃあ早く帰ろう。今日はこれで終わりだし」「そうか、そうだね」頷き、歩き出そうとしたその時だ。9 #4215tk

2015-06-30 21:12:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

グギュルルル!「う゛」凄まじい異音。四季は思わず腹を抑えた。歩き出していた怜が驚いたように振り向く。「だ、大丈夫?すごい音したよ今」「……駄目、かも。ゴメン、トイレ行ってくる!先帰ってて!」言い残し、四季は体育館へ飛び込んだ。そのまま男子トイレ、個室へ。10 #4215tk

2015-06-30 21:15:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は一息つき……異常に気づく。先ほどまで猛烈に痛んでいた腹が、トイレに入った途端に収まったのだ。無論、間に合わなかったわけではない。(これって)四季は冷汗を掻く。似たような仕打ちを過去に受けたような「いつまでボケっと立ってんだ、さっさと入れ!」罵声と衝撃。11 #4215tk

2015-06-30 21:18:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うわっ!」背中から突き飛ばされた四季は、なんとか身を捻り便器の上に座り込む。顔を上げた彼は思わず顔をしかめた。「げ」「なにが、げ、だよこのノロマ。あたしへの挨拶はどうした?あ?」ガラの悪い言葉で威嚇してきたのは、見た目は小学校高学年ほどの少女である。12 #4215tk

2015-07-05 11:48:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

おかっぱ頭にワイシャツ、サスペンダー付きの赤いロングスカート。ただしその醸し出す雰囲気はかわいらしい見た目にそぐわないほどに凶暴だ。「花子さん?」四季は呻いた。「なんでここに!?行き先は教えてなかったはずなのに!」「ほーう」花子の目が細められる。13 #4215tk

2015-07-05 11:51:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「お前、やっぱりわざと黙ってやがったな?いい度胸してんじゃねえか」「あ、いや、そういうわけでは」顔を近づけ凄んでくる花子に、四季はしどろもどろに顔を逸らした。どうにも彼女は苦手だ……こっそりとそう思う。なにをされるかわからないので、声には出せないが。14 #4215tk

2015-07-05 11:54:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あの、四季さん?なんですかこの怪異」「ア?」四季の背後から小夜子がひょっこりと顔を出す。怪訝な顔でそれを睨んだ花子は、片眉を吊り上げて四季を見た。そして舌打ち。「お前、また怪異引っかけやがったのかよ?相変わらず節操のねえ野郎だな」「だから違うって!」15 #4215tk

2015-07-05 11:57:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

反論する四季を無視し、花子が再び小夜子へ視線を向ける。「てめーもてめーだ。なに男子トイレにまで入り込んでんだ?痴女かなんかかお前?さっさと出てけ」「なっ」幽霊が鼻白む。「そ、それはあなただって同じじゃないですか!」さすがにむかっ腹が立ったか、珍しく言い返した。16 #4215tk

2015-07-05 12:00:38
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「わかってねーな、てめーは」一方の花子は余裕気に鼻を鳴らした。「学校のトイレってのはあたしのナワバリだ。自分の居場所に顔出してなにが悪いってんだ?」「だったらなんでここにいるんだよ」四季が思わず口を挟む。「花子さんの元々の居場所は小学校だったでしょ!?」17 #4215tk

2015-07-05 12:03:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そう。彼が元々この怪異……『トイレの花子さん』と出会ったのは小学校のころだ。そのときから高圧的だった彼女は、ある意味四季が恐れる数少ない怪異と言えなくもない。なんとか六年間耐え抜き、中学校に入学してやっと縁が切れる。そう思っていたのだ、当時は。18 #4215tk

2015-07-05 12:06:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ところが実際はどうだ。花子は当然のごとく中学校のトイレにも現れ、傍若無人に振る舞ってみせた。今回は二の轍を踏むまいと、行き先を伝えなかったというのに!「たしかにあそこは故郷みたいなもんだけど」花子が肩を竦める。「別にそこからどこ行こうとあたしの勝手だ」19 #4215tk

2015-07-05 12:10:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『む、むちゃくちゃな人ですね……』『うん、昔からそうなんだ』四季は幽霊と念話でこっそりと会話する。その間、花子は首を傾げて四季を睨め上げていた。「……お前」「な、なに?」「まだ他の怪異に絡まられてやがんな?」四季は思わず絶句する。「とりあえず説明しろよ。な?」20 #4215tk

2015-07-05 12:12:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……「なるほど、ねぇ」四季から説明を受けた花子が腕組みをして唸る。萎縮する四季を見て、彼女は溜息をついた。「あそこを離れて早々、そういう目に遭うかよ。小雨さんが心配してたとおりっつーかなんつーか……」「小雨と知り合いだったの?」彼は驚いて顔を上げる。21 #4215tk

2015-07-06 19:33:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

小雨……フルネームで言うならば八尺(やさか)小雨。四季の実家の裏山を治める山神、らしい。しょっちゅう町で出会うので、山神というのは疑わしいとこっそり彼は思っている。「いや、知り合いっつーか……知り合いだけどよ」珍しく花子が言葉を濁す。「わりと難儀な怪異だよな」22 #4215tk

2015-07-06 19:36:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「どんな方なんですか?」四季の方に肘を置き、小夜子が首を傾げる。「ながれさんもちょっと扱いづらそうな感じでしたけど」「いや、悪い怪異じゃねえよ?ただちょっと……好みが特殊というか」花子が苦い顔をした。「子供が好きなんだよな」「良さそうな怪異じゃないですか」23 #4215tk

2015-07-06 19:39:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

暢気な声を上げる小夜子を花子が呆れたように眺める。「バァカ。お前の思ってる好きとは方向性が違うんだよ。……正直、あたしも狙われてるっぽいからわりと顔合わせんの怖えんだ」「えー、小雨は優しいよ」四季の言葉に、花子が呆れを通り越して哀れみの表情を浮かべた。24 #4215tk

2015-07-06 19:42:24