グリム・リーパー・オブ・カノヤ・ベース

鹿屋基地には死神がいる。
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「グリム・リーパー・オブ・カノヤ・ベース」

2015-07-08 14:15:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「本当だ、本当にいたんだ」寂れた漁師小屋の隅、くたびれた格好の男はそう呻いた。その顔は赤く、周囲に転がる十数本の酒瓶の存在から泥酔しているのは明らかであった。「俺は見たんだ」男は悪夢にうなされるように譫言を続ける。小屋の中で漁の準備をする漁師達は疎ましそうに男を睨む。 1

2015-07-08 14:19:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「どうしちまったてんだ、辰の奴ぁ」くたびれた男と同じ年の頃の壮年の漁師がぼやく。「何でも、“死神”を見たとか言ってましたよ」若い漁師が答える。「死神?」壮年の漁師が眉を顰めた。「深海棲艦でも見たんかね?」「いや、どうやら違うらしいですよ」「違う?」「ええ」 2

2015-07-08 14:23:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

若い漁師は漁具を点検する手を止めずに話を続ける。「最近、一部の漁師の間で噂になってんすよ。深海棲艦が現れた時に、音もなく現れてそいつらを皆殺しにする奴がいるって」「艦娘じゃねぇか、それ」壮年の漁師は呆れた様に言う。「あんな若い娘っ子達を化け物みたいに扱う何ざ、人が知れてるな」 3

2015-07-08 14:25:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「まぁ、実際の所そうなんでしょうが」若い漁師は苦笑した。だが、その後声をひそめてに言った。「…けどソイツ。深海棲艦を皆殺しにした後、おっかない目でこっちを見るって話らしいですよ」「見られて、どうなるってんだよ」「さぁ、襲われた奴の話は聞きませんね」「んなこったろうと思ったぞ」 4

2015-07-08 14:29:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

壮年の漁師は網を担ぎ、立ち上がった。「大方艦娘の戦闘に遭遇しちまった奴がビビって変な噂流してんだろ。あの娘らは海の安全を守ってくれる守り神様だ。悪いように言わん方がいい」「デスネー」若い漁師も釣り具を持ち立ち上がった。漁師達は次の漁の為に小屋を去っていく。 5

2015-07-08 14:32:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「俺は見たんだ…あの緑の目が俺を見たんだ!信じてくれ!アレは化け物だ!」辰と呼ばれた男はそう絶叫した後、遂に夢の中に落ちていった。寂れた漁師小屋は、静寂に包まれた。 6

2015-07-08 14:33:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

鹿屋基地内食堂。正午を過ぎたこの食堂には多くの艦娘や提督が昼食を摂るために訪れていた。訓練、出撃、書類仕事。午前中の仕事で消費した体力や英気を補い、午後の活力とする。人々はそこで他愛のない情報を交換し、人間関係の円滑化に努める。だがその一角で、一切会話の無い席があった。 8

2015-07-08 14:38:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その席では二人の女性が向かい合って座っていた。白と青の弓道着めいた恰好のサイドテールの女は黙々と焼き魚の身を解し、口に運んでいく。向かい側の女は迷彩めいた色合いの弓道着めいた格好であり、乱暴にカツを掻き喰らう。周囲はその席から僅かに距離を取り、彼女らの周囲は空白となっていた。 9

2015-07-08 14:46:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

二人は黙々と食事を続ける。だが、二人の間に張りつめたアトモスフィアは一触即発の物であり、それが周囲を戦々恐々とさせた。やがて二人は山めいて盛られた白米を胃袋に収め、そそくさと席を立ち、去って行った。周囲は二人の姿が見えなくなるのを確認すると、安堵し、再び会話を開始した。 10

2015-07-08 14:49:18
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

二人の女性は並び歩く。やがて、青と白の女性が口を開いた。「まさか、貴方と同じ任務とはね、瑞鶴」「……それはこっちのセリフです、加賀さん」瑞鶴と呼ばれた女性は不機嫌そうにそう返した。彼女らは艦娘。再び黙り込み、廊下を進む二人。「……何で翔鶴姉じゃないんだ」瑞鶴が小声で呟く。 11

2015-07-08 14:58:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

加賀は呆れた様に瑞鶴を見た。「……何ですか」その視線に気付き、瑞鶴は居心地が悪そうに言った。「別に」加賀は凛と澄ました表情で前を見た。「左:工廠」「右:港」と書かれた看板が見える。二人は右に曲がった。「ただ」加賀は溜息を吐く。「貴方、いい加減姉離れしたら?」「何ですって!」 12

2015-07-08 15:03:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

瑞鶴は憤怒の顔で加賀を睨む。「何だかんだ赤城さんにベッタリなアンタに言われたくないわ!」「私はただ赤城さんを尊敬してるだけよ。依存してるあなたと一緒にしないで」加賀は冷たく瑞鶴を睨んだ。二人は睨み合い、火花を散らした。ともすれば殴り合いにすら発展しかねないアトモスフィアだ! 13

2015-07-08 15:06:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、実際は殴り合いにはならなかった。背後から水を差す闖入者が現れたからだ。「あのー…」「何?」「何よ?」二人は闖入者を睨む。そこに居たのは黒と白のセーラー服を着た少女。「って吹雪じゃない」瑞鶴は睨むのをやめた。加賀もだ。「はい、吹雪です。お久しぶりですお二人とも」 14

2015-07-08 15:12:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「久しぶりね」加賀は短く返した。瑞鶴は吹雪に近づき、その手を取った。「本当に久しぶりね!いつ以来だっけ?」「トラック襲撃以来ですかね?」吹雪は答える。「今4月だし、2か月ぶりかぁ!元気にしてた?」「はい。そちらも大丈夫でしたか?」「大丈夫、元気元気!」 15

2015-07-08 15:20:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「まぁでも…」瑞鶴は再び加賀を睨んだ。「このお局様と一緒じゃなかったらね」「…誰がお局ですか」加賀は僅かに眉を顰めた。「姉が居なければ何もできない軟弱者のくせに」「何ですって」「何か違いますか」「やろうっての?」「そっちが望むならね」再びの険悪なアトモスフィアだ! 16

2015-07-08 15:27:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アー…」吹雪は呆れた様に睨み合う二人を見つめた。ふと、彼女は近くに備え付けられた時計を見た。「あ、そろそろ時間…ちょっと!お二人とも!」吹雪は大声で加賀と瑞鶴を呼ぶ。「そもそも、何でアンタと一緒に作戦行動取らなきゃいけないのよ」「それはこっちのセリフです」聞く耳持たずだ! 17

2015-07-08 15:29:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は焦ったように時計と睨み合う二人を交互に見た。「このままじゃ…」ふと、吹雪は自分の両手を見た。「よし!」「いいじゃないこの焼き鳥女!やってやろうじゃないの!」「やめときなさい。七面鳥になるのがオチよ」「何ですって!」「イヤーッ!」CLAAASH!「「ンアーッ!」」 18

2015-07-08 15:33:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

突然の炸裂音に、二人は尻餅をつき倒れた。「えっ、何」「敵襲?」「お二人とも」困惑する二人に地獄めいて底冷えした声がかけられた。二人は恐る恐る見上げた。「そろそろ時間ですよ」そこには両手を合わせ、二人を見下ろす吹雪の姿があった。二人は悟った。先程の炸裂音は吹雪の出した音だと。 19

2015-07-08 15:37:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「って」「時間…」正気付いた二人は同時に時計を見上げた。そして、慌てて立ち上がった。「ヤバイヤバイヤバイ!そろそろ出航時間じゃない!」「そう言うことです!はい走って!」3人は港へ向け走り出す。「遅刻したらあなたのせいよ瑞鶴!」「いやアンタよ!」「つべこべ言わず走る!」 20

2015-07-08 15:41:16
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「…っとまぁ、今回の作戦目的を纏めるとだ」輸送船「あもり」の一室。6人の艦娘を前にして褐色灰髪の提督・リカルドが作戦詳細を説明していた。「発動が宣言された第十一号作戦に備え、各基地・泊地共にこれまで以上の資材備蓄に励む必要が出てきた」 22

2015-07-08 15:49:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「故に、南方の物資輸送ルートの維持はこれまで以上に重要だ。今回の大規模作戦は西側への打通だからな。不測の事態に備える必要がある」リカルドは艦娘達を見た。吹雪・霧島・鳥海・大淀。そして瑞鶴と加賀。「よって今回、南方の鼠輸送作戦を成功させるための撃滅作戦を敢行することになった」 23

2015-07-08 15:54:31
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