【ミイラレ!第六話:???のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。戻ってこない四季を迎えに行く怜が出会ったのは…… こちらは原文のみになります。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/845768
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第六話:???のこと】 #4215tk

2015-07-11 14:36:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

学校から一人先に戻った草江怜は、昼食も取らずに幼馴染の帰りを待っていた。手持ち無沙汰に携帯を取り出し、時間と着信を確認し、しまう。その動作を何度繰り返したことだろう。時が経つにつれ、感じられるのは怒りではなく焦燥だ。もう二時を回ろうとしている。1 #4215tk

2015-07-11 14:39:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

いくらなんでもおかしい。何かあったとしか思えない……その思考に至り、彼女は決然と立ち上がった。箪笥から赤と青の反物を取り出す。「御前さま」『おうよ』呼びかけの答えは内側から返ってきた。両腕から白い霊気が巻きつくように降りていき、反物の中へと溶けていく。2 #4215tk

2015-07-11 14:42:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

すると反物が鎌首をもたげるように動き出し、怜の両腕へ這い登り、巻きついた。これが退魔師としての彼女の武器であり、防具だ。自分に憑いている蛇神、朽縄御前の力を借りることで自在に動かすことができる。あとは……退魔師の修行で培ってきた身体能力でなんとかする。3 #4215tk

2015-07-11 14:45:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

深呼吸し、精神統一。四季の周囲の異常さは、再会してからの短い日々だけでもよくわかった。今回もまた怪異に捕まっているに違いない!『助けに向かわんとするその気概は立派じゃが』御前の念話が脳裏に響く。『無理をするでないぞ』「わかってるよ」『他のものも連れて行くがよい』4 #4215tk

2015-07-11 14:48:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その言葉に怜は顔をしかめた。「他の退魔師に協力を頼む時間も惜しいよ」『ならば隣の青行燈の手でも借りるがよかろ』「それは絶対に嫌」乱暴に切り捨て、玄関へ。わざとらしい御前の溜息は無視。怜は、四季に百鬼夜行の長なる立場を押しつけたあの怪異を信頼していない。5 #4215tk

2015-07-11 14:51:23
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

玄関のドアノブを握る。巻きついていた赤の反物が手首を伝い、ドアノブを覆うのを確認。それからドアを押し開けると、時刻に似合わぬ夕陽で染まった世界が広がる。これが異界。怪異の潜むもう一つの世界だ。常人ならば偶然にしか立ち入れぬこの世界に、退魔師は自在に出入りできる。6 #4215tk

2015-07-11 14:54:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

欄干を乗り越え、二階の高さを一気に下った怜は駆け足で北都高校へ向かう。このアパートから高校までは十分程度。走ればすぐだ。しかし……彼女の額に汗がにじむ。高校へ近づくにつれ、得体の知れない気配が大きくなってきている。これはいったい?その原因は、すぐに目視できた。7 #4215tk

2015-07-11 14:57:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

T字路突き当たりにある北都高校校門。その前に、小さな人影がこちらに背を向け立ち尽くしている。見た目は人間と変わらない。夕日のなかでもなお映える真っ赤な髪がやけに印象的。やがてこちらの接近に気付いたか、『それ』が振り向く。怜は反射的に足を止め、その場で構えた。8 #4215tk

2015-07-11 15:00:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……余計な人間が来やがる」怜の姿を認めた『それ』が苛立たしげに吐き捨てた。怜は答えず、目の前の怪異を分析する。見た目はほぼ人間と変わりなし。それだけで高位の怪異であることが伺える。人形のごとく端正な顔はひどく中性的で、性別の区別すら難しい。9 #4215tk

2015-07-12 19:48:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

金色の瞳が怜を射抜く。『退け、怜』彼女に憑いた朽縄御前が緊張の声で囁く。表に出さねど怜は驚愕し、動揺した。この蛇神がこうまで弱腰になるところを、彼女は経験したことがない。『彼奴、オヌシには……否、人の手には余るぞ』『けど、四季がまだ学校に』「アア?」10 #4215tk

2015-07-12 19:51:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怪異のあげた声に、怜は体を震わせる。傍受された?念話を?「まだ四季のやつ、学校にいるのか?……あそこの連中に捕まってると?調子乗ってやがる……あのクズども」怪異が荒く息を吐く。その呼吸に、炎の煌めきが混ざった。「このボクをコケにしてるのか?フザけやがって!」11 #4215t

2015-07-12 19:54:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怪異が怒りとともに足を踏み鳴らす。その瞬間、怜は異界が揺れたように思った。錯覚か?いや、これは……「シューッ」赤髪の怪異が鋭い呼気を漏らす。「……なに見てんだ、人間風情が。ケンカ売ってんかよ……いや、待てよ?」『それ』が首をかしげた。「お前、四季の知り合いか」12 #4215tk

2015-07-12 19:57:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……だとしたら、どうするの」怜は油断なく怪異を見据え、問う。逃走という選択肢はない。逃げ切れる相手ではないと、直感が告げている。「あー……そうだなァ」首をかしげたままで考え込んでいたらしい怪異が、目を細めた。楽しげに。「とりあえず捕まえるかな。暇だし」13 #4215tk

2015-07-12 20:00:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その言葉を聞いた怜は駆け出した。前へ。逃げるのが無理なら立ち向かうだけだ。いかなる相手であれ、もう無様は見せない。両腕を振るうと、錐状に変形した反物が怪異へ殺到する。「……ははぁ、蛇使い」怪異が嗤った。「かわいいものじゃないか」そして両の掌を前へ差し出す。14 #4215tk

2015-07-12 20:03:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

反物の錐が怪異の掌に突き刺さる。「嘘」怜は思わず声を漏らした。蛇神と自分の霊気を込めた反物は、いかな怪異といえど無傷では済まない威力を誇っている。誇っているはずだ。なのになぜ……傷一つつけられない?「所詮は人間。所詮は土地神」怪異が楽しげに声を上げる。15 #4215tk

2015-07-12 20:06:23
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「力の格が違うんだよ。格がさ」上機嫌に呟く怪異の掌から閃光。爆音が轟く。怜はよろめき、尻餅をついた。脳裏に蛇神の呻きが響く。相手はなにをした?目を開いた怜はがく然とした。反物が無残に焼け焦げ、その半ばから消失している。赤髪の怪異が、ゆっくりと接近していた。16 #4215tk

2015-07-12 20:09:34
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

込み上がる悲鳴を飲み込み、退魔師は接近する怪異を睨みつける。赤髪の怪異は愉快げにそれを受け止めた。「虚勢を張る元気はあるか。けど、キミに打つ手があるとは思えないな」ゆっくりと、一歩一歩確実に。嬲るように怪異は近づいてくる。怜は深呼吸し、駆け出した。前へ。17 #4215tk

2015-07-13 19:25:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怪異が意外そうに目を見張る。その頭部に「てやあああッ!」怜は渾身のハイキックを叩き込んだ。命中の瞬間、霊気を込めることも忘れない。これさえ忘れなければ、怪異に肉弾戦を仕掛けることは決して無意味ではないのだ。……しかし、彼女は予想外の重い手応えに驚愕する。18 #4215tk

2015-07-13 19:27:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

退魔師の蹴りは、怪異に致命傷を与えることはできなかった。衝撃にわずかに首を曲げた怪異は、不快に目を細める。金色の双眸が怜を見据える。「……最後まで抵抗か。ほんと面倒くさいな人間ってのは」怪異は片腕で怜の脚を掴む。強烈な力。怜は苦痛に顔を歪めた。19 #4215tk

2015-07-13 19:30:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「悲鳴をあげたいなら我慢しないでほしいな。人間相手の手加減って難しいんだ」怪異が笑みを浮かべる。怜はそれを睨んだ。怪異の瞳孔が一瞬で、爬虫類のごとく縦に裂ける。「少し大人しく」言葉半ばで、怪異は空いた片手を顔の高さへ。そこに青白い霊気を纏った斧が突き刺さる。20 #4215tk

2015-07-13 19:33:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「新手」憎々しげに怪異が呟くのが聞こえた。「次から次へと……!小蝿風情がっ!」ついで怪異は片腕で一つで怜の体を持ち上げ、背後へと投げつける!成す術なく吹き飛ばされる怜は、校門を通り抜ける前に受け止められた。「っ!すいません!」「謝るのはこちらの方です」21 #4215tk

2015-07-13 19:36:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

落ち着いた声音に、怜は顔を上げる。そして声の主を見て目を見開いた。「準備が遅れました。ごめんね?」北都高校の生徒会長。名うての退魔師がそこにいた。見るものを安心させる笑みを浮かべていた彼女は、すぐに厳しい表情で前方を見やる。「前鬼!無理は禁物よ!」『無論』22 #4215tk

2015-07-13 19:39:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

重々しい声で答えたのは、赤髪の怪異に攻撃を仕掛けた新手の怪異。大柄な体躯を物々しい鎧に身を包み、両手で長柄の戦斧を構えるその姿はまさに鬼神!「邪魔すんじゃねえよォォォッ!」赤髪の怪異が吼える。その周囲に炎が燃え上がり、青色の鬼神へと殺到!「後鬼!」23 #4215tk

2015-07-13 19:42:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

生徒会長に呼応し、彼女の背後から朧に現れた赤色の鬼女が手に持った水瓶を翳す。そこから迸る水流が、怪異の放った炎を迎撃、消火!「オオオッ!」それに合わせて鬼神が得物を振るう!「チィッ!」舌打ちした赤髪の怪異が跳んだ。戦斧はその後を薙ぎ払う。24 #4215tk

2015-07-13 19:45:09