N-Ryo 夏

1
あ阿々。 @rainbow_solara

1 「出かけるで!」 息せき切って部屋に駆け込んできた亮。 『はあ?何?こんな時間に?』 「早よ!何もいらんから行くで!」 『待って!着替えくらいさせてよもう!』 「…あ、ごめん」 もうお風呂も済んだし寝ようかって思ってたとこだからTシャツ短パンにすっぴん。

2015-07-20 09:43:38
あ阿々。 @rainbow_solara

2 しゅんってなった亮から何となく隠しながら着替えて。 もうお化粧はいいや。 鞄に携帯と財布だけ入れた。 『…準備出来たけど…どうするの?』 「行ける?行こ!」 パッと満面の笑みで手を引かれて車に乗り込んだ。

2015-07-20 09:43:49
あ阿々。 @rainbow_solara

3 「明日休みやんな?」 『…そうだけど…昼から会う約束してたじゃん』 「今からかて一緒やん!」 赤信号でキュッと手を重ねて握った。 何…だろう…。 でもまあ、亮が楽しそうだから…いっか…。 私も甘いなあ。

2015-07-20 09:43:56
あ阿々。 @rainbow_solara

4 行先もわからないまま高速に入って流れる景色を見てると瞼がうつらうつら重くなってくる。 「寝ててええよ。もうちょっとかかるし」 『どこ行くの?』 「ん~内緒!」 弾んだ声。 笑みを浮かべてハンドルを握る横顔。 それを見ながら目を閉じた。

2015-07-20 09:44:04
あ阿々。 @rainbow_solara

5 「…あ…なあ…って!」 揺さぶられて目が覚めた。 まだ外は暗い。 亮が運転席から覗き込んでる。 『…おはよ』 「まだ夜やけどな」 笑って、チュッ…って。 耳に響く波の音。 『…海?』 「おん」 『サーフィンするの?」 「今日はちゃう」

2015-07-20 09:44:11
あ阿々。 @rainbow_solara

6 そう言って後部座席から取り出したのはたくさんの花火。 バケツまである。 「行こ!」 手を引かれて階段を駆け下りた。 誰もいない夜の海。 ぼんやり、真夜中の月が照らしてる。 サンダルに砂が入って痛いから裸足になった。 昼間の熱をはらんだ砂はじんわり熱い。

2015-07-20 09:44:17
あ阿々。 @rainbow_solara

7 海から水を汲んで、亮のライターで火をつける。 「わっ!こっち向けんなって!」 焦って逃げる亮を追いかけて、火が消えたら今度は追いかけられて。 花火で∞マーク書いてそれ写真に撮ったり。 ロケット花火を持って海に投げる亮はまるで子供みたい。

2015-07-20 09:44:22
あ阿々。 @rainbow_solara

8 思いっきりはしゃいで笑って、最後には定番の線香花火。 二人しゃがんで揺れる火の玉をじっと見つめる。 『…これがしたかったの?』 「…おん、何か昔思い出してな…」 自然と声も小さくなる。 盗み見た顔はどこか遠くを見つめるような目で微笑んでた。

2015-07-20 09:44:29
あ阿々。 @rainbow_solara

9 「昔…皆で花火やったよな?」 『そだっけ?』 「覚えてへん?皆で祭行った後にさ…近くの海で」 『あー…そんなこともあったね』 「大勢でわちゃわちゃしてさー」 『そうそう。男たち皆海飛び込んで』 「そう!俺の車びしょびしょにされてん!」 『怒ってたね、亮』

2015-07-20 09:44:33
あ阿々。 @rainbow_solara

10 「楽しかったなって」 『うん』 「で、思い出してん」 『ん?』 「自分、あんとき浴衣やったやろ?」 『…そう…だったかな?』 「他にも浴衣の子らおったけどさ…そん時自分だけ、あ…可愛い…って」 『えぇ?』 「可愛いって、あん時初めて思ってん」

2015-07-20 09:44:38
あ阿々。 @rainbow_solara

11 『やだちょっと恥ずかしいやめてよ』 「多分あん時からずっと好きやったんやろうなーって…」 『…』 「懐かしいなーって、思て…」 『…』 「…こっち見て?」 『…イヤ』

2015-07-20 09:44:42
あ阿々。 @rainbow_solara

12 恥ずかしくて身を捩る私の顔を両手で掬い上げる。 目の前の顔は暗くてもよくわかるほど真っ赤で。 きっと私も同じ。 手を握って、吸い寄せられるように触れるだけのキスをした。 「…」 『…』 「…行こっか」 『…うん』

2015-07-20 09:44:47
あ阿々。 @rainbow_solara

13 恥ずかしさを隠すように、二人言葉少なに後片付けをして車へ戻る。 足についた砂は亮が払ってくれた。 「俺んちでいい?」 『うん』 走り出す車。 助手席に身を沈めて目を閉じる。 「クーラーつける?」 『んーん。風気持ちいい』

2015-07-20 09:44:52
あ阿々。 @rainbow_solara

14 水平線の向こうが白い。 火照った頬を窓から吹き込む風が撫でる。 潮風で肌がベトベトするけど、それも夏の風物詩。 「…今度」 『ん?』 「今度また浴衣着て?」 『…亮も着てくれるなら』 「着る着る!」 ニヤニヤしながらハンドルを握る亮。 ちょっとスピード上がった?

2015-07-20 09:45:49
あ阿々。 @rainbow_solara

15 あの時。 あの夏の日。 海に飛び込んだ男の子たちが走り回ってたあの日。 白いTシャツを肌に張り付かせて無邪気に笑ってる亮から目が離せなかった。 多分あの時から、私も。 照れ臭いからまだ内緒。 内緒ね。

2015-07-20 09:45:56