O-Tadayoshi 7月7日

あ阿々。 @rainbow_solara

1 『あれ？』 「ん？」 『なんかやってる』 雨降ってきたから逃げ込んだ商店街から一本入ったとこ。 細い道やのにえらい人入ってくから覗いてみたら、神社かかな、なんかやっとる。 『七夕まつり…だって』 「天満宮なんか関係あるん、それ」 『知らない。ね、行ってみる？』

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2 「えー人多いし足元ぐちゃぐちゃなるやん」 『いいじゃん、屋台あるみたいだし。行ってみよ』 さっき閉じた傘をまた開いて歩く。 ごった返した参道で前もよう見えんくて。 あーほらぶつかっとる。 小さいねんからあんま先行くなって…しゃーないなー。

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3 さしてた傘を閉じて、あいつの傘を取り上げた。 『え、なに？』 「こんなん中ふたつも邪魔や傘」 『でも見られたら』 「こんな人ごみ連れてきたんお前やろ」 『あ、ごめん。戻る？』 「ええよ、もう。どうせ傘で隠れて見えへんし」 『そんなもん？』 「多分な。あ、こっち持って」

あ阿々。 @rainbow_solara

4 さっきまで俺がさしてた傘受け取って、ふうん？って隣を歩く。 一本の傘の下、ほんの少し空いた隙間。 触れそうで触れない距離。 雨の中、ステージや屋台で賑やかな境内。 オレンジ色の光に照らされて楽しそうな客とずぶ濡れで走り回ってるスタッフ。

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5 何でもかんでもイベント化して大変やな…。 ま、俺が言ってええことちゃうか。 そんなこと考えながら歩いてたら、いつの間にかあいつがおらん。 あーどこ行ったん全く。 人多いし傘で顔見えへんし全然見つからへんし電話も出ーへん。

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6 しゃーない…そんな広いとこでもないし、どっかで会うやろ。 で、さっきから所々にあるあれ何？ 何か草で作られたでっかい輪っか。 皆くぐってるけど、何かあるん？ 【茅の輪くぐり】 「諸願成就」 「学徳向上」 「心身健康」 「家内安全」 「商売繁昌」 「厄除」 「恋愛成就」

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7 7つの輪があって、それぞれ願い事しながらくぐるんやって。 7つもあんの？ 全部くぐらなあかんてめんどくさ。 マルとかこういうん詳しそうやなー。 スルーしようかと思ったけど行くとこないし…それにあいつは全部律儀にまわっとる気がして何となく一個一個探しながらくぐって歩く。

あ阿々。 @rainbow_solara

8 これで最後？ 頭下げてくぐろうとしたとき、ツンって裾を引かれた。 『いた』 振り向くと傘さしてちょっと上気した顔のあいつがそこに。 『やっと見つけたー。背高いからすぐ見つかるかと思ったけど見つからないもんだねー』 言ったとおりだねって、呑気に笑ってる。

あ阿々。 @rainbow_solara

9 『全部くぐった？』 「ここで最後」 『私も。一緒に行こ』 傘二つは入りきらんからまた一つの傘で一緒に輪をくぐる。 『なんか達成感』 「腹減った」 『最後、お参りしてこ』 本殿の近くには大きな笹と短冊が置いてあった。 『短冊書く！』 「えー？」

あ阿々。 @rainbow_solara

10 見ないでーってペンを走らせるあいつ。 願い事言うてもなー…。 『出来た？』 「…ん」 裏っ側の空いてるとこにつけて、一生懸命背伸びしながら短冊を結んでるあいつを見る。 どこ結んだって一緒やろ。 たまーにこういうんテンション上がるよな。 意味わからん。

あ阿々。 @rainbow_solara

11 『お待たせ』 賽銭を投げて手を合わせる。 チラッと横を見ると何や真剣な顔で願い事しとる。 願い事…願い事、なあ…。 さっきの短冊、実は何も書かんかった。 願い事とかないわけじゃない。 例えば？ こいつが俺の気持ちに気付いてくれますようにって…そんなんとか。

あ阿々。 @rainbow_solara

12 仲間内で集まって飲んで遊んでって関係。 そっから一歩踏み出したい。 ずっとそう思ってる。 でもさあ…そんなん神頼みすんのも格好悪ない？ や、ずっとこんな関係のまま進展ないし、今更格好いいも悪いもないねんけど、でもさ。 『終わった？』 声かけられてハッとした。

あ阿々。 @rainbow_solara

13 行こって促されてそこを離れる。 結局願い事せーへんかった。 またしばらくこのまんまかな…。 ふと、さっき一緒にくぐった輪が目に入った。 恋愛成就 そう書いてある。 …気付かんかった。 一瞬止まった足。 その隙にまたあいつを見失った。 また…！ 慌てて見回す。

あ阿々。 @rainbow_solara

14 人ごみの中、今度はすぐに見つかった。 「こら」 『あ、いた』 「先行くなって」 『そっちがはぐれたんじゃん」 くるり背中を向ける。 手を伸ばしてあいつの手を握った。 『ん？』 「またはぐれるし」 『…うん』 そのまま歩き出す。

あ阿々。 @rainbow_solara

15 『みんな待ってるかも』 「腹減ったー」 『早く行こ』 手を握ったまま、足を止めた。 『どしたの？』 何か誰かに背中を押された気がしてん。 神様？織姫彦星様？ 誰でもええけど、背中蹴り飛ばされた感じ。 行ける！ 行け！ 行っとけ！ ちょ、うるさいし黙って。

あ阿々。 @rainbow_solara

16 『大倉君？』 「…このまま二人でどっか行かへん？」 『え？』 「あかん？」 戸惑った顔が赤く染まる。 願いを込めて、小さな手を握り締めた。