トゥー・テンプラズ・ゼア・イズ・ノット・フォー・ファーザーズ #4 後編
- tarorininja
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カン、カン、カン。鉄製の階段を上る靴の音。腕に包帯を巻いたコッカトリスだ。彼は全身に包帯を巻いており、さながらズンビーのようだ。彼のダメージは未だ回復してはいない。彼は約束を果たしにワタナベ=サンチにやってきた。異常なまでに強力なモータルとの決着だ。82 #tnjtk
2015-07-23 20:00:06ミマミとナットウをワタナベ=サンチに寄越したのは彼ではない。そのような時間は彼には無かった。彼はリー先生による麻酔無しの手術に耐え、術後直ちにここへ来ている。彼もまたソウカイヤの歯車に過ぎぬ。間も無く彼はソウカイニンジャの最下級へと落とされるだろう。83 #tnjtk
2015-07-23 20:05:05コッカトリスはワタナベ=サンチのドアを開けた。明かりの消えた部屋に、朝の光が差し込む。コッカトリスは顔をしかめた。血。夥しい血が、室内を赤く染め上げている。その中に大男の背中がある。一心不乱に何かを殴り続けている。今や原型を留めない何かの死体を。84 #tnjtk
2015-07-23 20:10:09べチャッ。べチャッ。べチャッ。肉片と化した何かを殴る度、濡れた音が室内に響き渡る。コッカトリスは動じない。「ナブセ」コッカトリスはその背中に呼びかける。オニめいた殺人狂がこちらを振り返る。その口はオハギで汚れている。そして殺人の快楽に歪んでいる。85 #tnjtk
2015-07-23 20:15:05「…ナブセか?」コッカトリスは確認した。「…ナブセ?俺はワタナベだ」ナブセは答えた。「妻と子を探しているんだ。俺が守らないと」その目はオハギのもたらす多幸感により、トロリと濁っている。コッカトリスは凄惨なゴアの広がる室内に足を踏み入れた。臓物の匂い。86 #tnjtk
2015-07-23 20:20:09「何をしている」コッカトリスは無駄だと知りつつも尋ねた。「犯罪者を正当防衛で無力化した」「それか」コッカトリスは顎をしゃくった。「そうだ」ナブセは頷く。「凶悪な犯罪者だ」コッカトリスは、血だまりの中心にある鼠色のコートには、よく見覚えがあった。87 #tnjtk
2015-07-23 20:25:05十数分前。「犯罪者め。インガオホーを受けろ」ナブセめいたオニはカラテを漲らせミマミに迫る。「アイエエエ!」ミマミはNRSを起こしてへたり込み、後ずさる。「正当防衛だ。実際正当防衛…」今やナブセは殺人衝動であり、ナブセが殺人衝動であった。89 #tnjtk
2015-07-23 20:35:06爆発寸前の殺人欲求をミマミにぶつけようとした刹那、誰かの声が聞こえた。((ナブセ=サン。ミマミ=サンとナットウを、お願いします))その言葉は青い炎のように揺らめき、消えた。殺人鬼は動揺し、ふらついた。((殺せ))((ならぬ))((殺したい))((殺したくない))90 #tnjtk
2015-07-23 20:40:11「イヤーッ!」殺人鬼はやおらワタナベの死体の襟首を掴み、背負い投げてタタミに叩きつけた。「ウウウ、ウウウウウ!」獣のように唸りながら、彼はワタナベの死体を殴りつける。顔を、胸を。その鼠色のコートの内ポケットに固い感触。((鍵だ))((それがどうした))91 #tnjtk
2015-07-23 20:45:02殺人鬼の動きが止まる。((鍵なんだ))((殺せ!今すぐあの女を殺せ!))殺人鬼はミマミを見る。「アイエエエ!アイエーエエエ!」重篤なNRSを引き起こしたミマミは泣き叫び、キッチンの隅まで後ずさった。流しにはミニバイオレンゲが飾られていた。92 #tnjtk
2015-07-23 20:50:07「ああ」ナブセは焦点の定まらぬ目で、ミニバイオレンゲの花を見て言った。「ブッダだ。尻の小さなブッダが座っているぞ」その拳がぶるぶると震えた。「俺は俺をインターラプトしなくては」拳が開く。ワタナベから奪ったオハギ入りバイオ笹タッパーが指先に触れる。93 #tnjtk
2015-07-23 20:55:04「ヒッ、ヒッ」追い詰められたミマミは声も出せないまま、必死に息を吸おうとした。彼女の知らぬところで、ナブセは己の本質たる殺人欲求と壮絶なイクサを繰り広げていた。彼は震える指でバイオ笹タッパーの包みを解く。己の本質を、殺人衝動を曖昧にする紫色の甘味の包みを!94 #tnjtk
2015-07-23 21:00:03「ここにワタナベ=サンが居る。ワタナベ=サンがいれば、俺の苦しみは和らぐ」ああ、ああ!ブッダ、そんなまさか!これが貴方の救いだと仰るのか!ナブセはオハギを取り出す。デッカー人生を賭けて戦った仇敵。ワタナベを殺した社会の毒。それを、ナブセは齧った。95 #tnjtk
2015-07-23 21:05:02「…?」ミマミは必死に息を吸いながら、突然オハギを齧り始めたナブセを見た。目からは血の涙。悲しみに満ちた目が彼女を見る。「早く行け」必死に絞り出した声を、彼女は聞いた。ナブセがアグラを組み、座る。ミマミは震えながら潰れた冷蔵庫を伝い、息子の部屋へと向かった。96 #tnjtk
2015-07-23 21:10:09ミマミはナットウの隠れている部屋の押入れを開け、ナットウを抱き抱え、玄関へ向かった。その背中に、ナブセだった誰かから声が掛かった。「キョートへ。キョートへ逃げろ」それは殺人欲求とオハギ幻覚の中から、彼の人間性が絞り出した救いへの悲鳴だった。97 #tnjtk
2015-07-23 21:15:06ミマミは頷く。彼女の知らぬ物語があった。その幾ばくかを彼女は察し取った。「オタッシャデ」彼女は、血の涙を流しながらオハギを喰い続ける男の背中にそう声を掛け、朝靄のかかる住宅街へと駆け出した。外には全身を包帯で巻いた男が居た。98 #tnjtk
2015-07-23 21:20:12彼女は息を飲んだ。「行け。お前らは『死んだ』」包帯の男は言った。ミマミは駆け去っていく。コッカトリスは舌打ちをした。何故自分はこんな気まぐれを?いや、どうでも良い。既に自分は大失態を犯している。セプクもあり得る。ならば身勝手にやらせて貰う。99 #tnjtk
2015-07-23 21:25:07「居るんだな、ナブセ」コッカトリスはニンジャ洞察力から、アパートの二階にナブセが居ることを察知した。火傷で痛む身体を強いて、彼は鉄製の階段に足を掛けた。カン、カン、カン。階段が鳴る。100 #tnjtk
2015-07-23 21:30:08