忘却までのエトセトラ2(黄昏町テキスト化)

縛り要素 ・紅羽という無能力異形で1枠使う(異形としてカウントされる) ・今回から魂の増加量1/2 診断のたびにたろりん→たろりん【1】〜【10】と打ち込んで診断(公式ルールではないです) 【CM】前回 http://togetter.com/li/856287
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たろりん(ニンジャ) @tarorininja

砅は外傷を確認する。外傷は”ない”。身に巣食う異形が、既に出血を止め、血は紅羽が吸い上げ、皮膚は人間らしく復元することまでは完了していたのだ。紅羽の少女の先分かれした”角”に食い荒らされた服までは直らない。しかし、砅を安心させるには十分だった。 #黄昏紅羽

2015-08-06 22:46:07
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

((良かった))砅は安堵したような顔を浮かべ、それから、紅羽の少年を膝に乗せたままポロポロと泣き始めた。「会えましたよ」生きていた。二人とも、生きながらえてまた再開することが出来た。この町でそれがどれだけ貴重なことなのか、砅は身に染みて分かっている。「生きてた」 #黄昏紅羽

2015-08-06 22:49:21
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

砅は爪のある指で、紅羽の少年の鱗の消えた頬に触れようとし、思いとどまった。((この手じゃ彼を傷つけてしまう))そして指ではなく、手のひらでそっと彼の頬に触れた。暖かかった。久しく感じていない、他者の温かみだった。眠る紅羽の少年は、人ならざる者が放つ美しさを放っていた。 #黄昏紅羽

2015-08-06 22:53:51
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「貴方は、人間じゃないんですか?」砅は眠る帽子の少年に問うた。自分が何者かは分からない。彼がこの町で生き延びてきた経験からは、彼のような紅羽を持つ異形とはただの一度も会わなかった。「貴方は誰なんですか」砅は頬を撫でた。帽子の少年は僅かに目を開きかけ、また眠りに落ちた。 #黄昏紅羽

2015-08-06 22:57:39
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

砅はしばらく彼を見つめていた。((此処にいたら危険だ))やがて彼をなんとか抱え、何処かへ運んで行った。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:00:28
TERRγ @TERRy_4643

これからどうなるのかしら、ワクワクね #黄昏紅羽

2015-08-06 23:01:30
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

夢うつつの中で、紅羽の少年は砅の声を聞いていた。ずっと探していた、誰か。名前も顔も忘れてしまったのに、何故彼を探しているのだろう。何度も会っているはずなのに、何故ほんの少しも満足に言葉を交わせないのだろう。砅の涙が頬に落ちる。((泣かないで))声は出ない。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:03:02
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「君は」帽子の少年は身を起こす。誰もいない、黄昏の町のどこか。頬に温かみ。それに手を当てようとして、”爪”に骨質化した指先と”鱗”に覆われた腕を見た。爪先で頬に触れる。温かみは分からない。代わりに鱗の生えていない柔らかな皮膚を、爪が僅かに裂き、微かに紅い血が流れた。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:07:19
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

((きっと僕たちは、再開してもハグも握手もできない))少年はざわつく銀色の蛇を帽子の下に押し込めた。そして、忌まわしい紅い羽を広げ、空へ舞い上がった。巨大な鯨の異形はもう居なかった。そして、鯨の異形のことを、彼はもう忘れてしまっていた。食べ物と贖罪の機会を探し、飛ぶ。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:10:27
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

眼下に公園。白い錆び付いた廃車の中で眠る自分が見えた。住人たちが集まり、廃車を溜め池に突き落とした。”あの自分”は死んだだろう。この町では度々こういうことがある。少年は何も考えず、廃車を見つめる人間たちの前に降り立った。彼らの表情が凍りつく。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:13:40
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「お、お前、今」禿げて太った男が怯え、少年を指差す。「今僕を殺したでしょう?」少年は単なる好奇心から男に問う。「え?」男は不意をつかれたような顔をする。少年に悪意はない。何故自分が殺されたのかを知りたかったのだ。誰かは眠る自分を安全なところまで運んでくれた。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:16:47
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

彼らは安全なところで眠る自分を水の中に突き落とした。何が違うのだろう。何が悪くて、何が良かったのだろう。「ねえ、教えて。今日僕は、眠っているところを誰かに助けてもらったよ。何故君たちは、眠る僕を殺したの」運悪く目をつけられた禿げの男以外の住人たちが逃げ散っていく。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:19:09
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

男は周りを見渡し、観念したように言った。その瞳には恐怖と覚悟が混在していた。「怖いからだよ」「僕が?」「そうだよ。怪物を喰い殺し、血まみれの服は綺麗に戻る。可愛い顔しやがって、立派な怪物じゃねえか」少年は顔を綻ばせた。「立派?」「え?」男は再度不意をつかれた。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:22:53
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「立派なんて褒められたの、初めてだよ」「……え?」男は狼狽える。「ねえ。僕はいい子なんだよ。もっと褒めてよ。何かいいことがしたいんだ。何かないかな?」少年は無邪気に問いかける。男は感情に任せて怒鳴った。「そんなもの、お前ら怪物がみんな死ねばいいに決まってる!」 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:25:56
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「……怪物だって生きてるんだよ」少年は疑問を口にする。「分かったよ。一度死んであげる。僕を殺したいんだよね?」「う、あ」男は怯む。((なんだ。なんだよ。なんなんだ))怪物とは言え、愛らしい少年の姿をしている。殺して。殺していいのか。男の”当たり前”が崩れていく。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:29:16
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「貯水槽があったよね」少年は先ほどの記憶を思い返した。しかし、この”彼ら”はまだ少年を貯水槽に突き落としてはいない。時空が歪んだこの町で、彼らが少年を貯水槽に突き落とすのは”未来の”ことなのだ。「こっちだったかな」少年は迷いなく住人たちのコミューンに立ち入っていく。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:31:57
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

テントの群れ。木で組んだ簡易なかまどには飯盒が掛かっている。女や子供、老人。少年の姿を見とめ、蜘蛛の子を散らすように住人たちが逃げていく。その中を少年が歩いていく。後ろからは禿げた男がついてくる。悲鳴。パニック。「僕は死ぬよ!」少年は叫んだ。静かになる住人たち。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:35:45
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

しん、と住人たちが静まり返った。「僕はいいことがしたいんだ。僕にできることは、死ぬことらしい。貯水槽を開けてよ」禿げた男が、無言で前に出た。そして、蓋を開けた。「ありがとう」少年は貯水槽によじ登った。「今度会ったら、もう少し優しくしてね」そして、悲しそうに笑った。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:38:16
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

そして、貯水槽に飛び込んだ。男が蓋を閉める。その顔は蒼白だ。彼の元に、多くの人が集まる。彼は大声を上げ、彼らを追い払う。禿げた男の胸に説明のつかない罪悪感が巣くった。彼は誰かに言い訳をするように叫んだ。「俺が危険を犯した!俺が罪を背負った!俺たちだって生きたいんだ!」 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:41:58
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

住人たちが叫ぶ。禿げた男が叫ぶ。男を褒めるもの、貶すものがいる。貶すものの中には、この男を見捨てて逃げた者がいる。貯水槽は、少年の死を飲みこんで、静寂を保っていた。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:43:47
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

気がつくと少年は、病室の中央で、たったまま拘束衣を着せられていた。両腕が動かない。広い病室の天井にはステンドグラスがはめられている。黄昏色の光に照らされ、聖人が十字架に括り付けられている。「変なの」少年は呟き、やすやすと拘束衣を破り千切った。「ここはどこだろう」 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:48:52
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

少年はドアを開け、廊下に出た。院内全体を覆う死の香り。((……いい匂い。お腹が空いた))紅羽の少年の帽子から、蛇たちが這い出し”ごちそう”を探し始めている。スタイルの良い、腕の三本ある看護婦が台車を押してあるいている。目は虚ろだ。台車には視力検査の機械が乗っている。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:55:14
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「お姉さん。それは何?」少年は看護婦に聞いた。看護婦はぱくぱくと口を動かし、二本の腕で少年の頭を押さえつけ、視力検査機を覗き込ませた。「え?え?何?Cが沢山あるよ」少年は視力検査を知らない。看護婦はもどかしそうに口をぱくぱくと開いたが、彼女の声は出なかった。 #黄昏紅羽

2015-08-06 23:58:39
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「ねえ、何なのこれ」「……めーぇ」看護婦は何とか声を絞り出した。しかし彼女も忙しい。この病院には”来客”が多い。彼女は他の”来客”に、目薬を差しに行かなければならないのだ。彼女は点眼薬を取り出し、少年の目に差して済ませようと思った。少年はきょとんとした顔をしている。 #黄昏紅羽

2015-08-07 00:01:42
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「めーぇ」少年は看護婦の真似をした。そしてニコニコと笑った。三本腕の看護婦もふっと笑みをこぼし、目薬を仕舞った。そして険しい顔になると、少年に目線を合わせ、指で下を指差した。「……ぃえーえ」少年は繰り返した。「ぃえーえ」看護婦は首を振り、メモ帳に何かを書き始めた。 #黄昏紅羽

2015-08-07 00:05:18
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