- ryukaikurama
- 831
- 0
- 0
- 0
ツイッター連載小説『深海感染 ―ONE―』 (この作品は『深海感染 ―ZERO―』の続きとなっております。 宜しければ、pixivやハーメルンからお読みいただけるとより一層お楽しみ頂けるかもです)
2015-08-05 19:49:57碁盤の目が有名である街の市内へ向かう、一台のバイクが高速道路を駆けていた。 進行方向の先にうごくめく人影を確認した運転手の女性はアクセルを吹かし、茶色の長髪を風にたなびかせながら速度を一気に加速させる。1
2015-08-05 19:50:44バイクのエンジンが轟音を鳴らすと、引き寄せられるように人影が動く。 女性は顔色一つ変えずに小さく口を開いて何かを呟くと、バイクの両側面に大振りのナイフが何本も飛び出して小さな振動と共に甲高い音をあげた。2
2015-08-05 19:51:02女性はそれを確認した瞬間、アクセルを最大まで捻って更にバイクの速度を上げる。 人影が両手を前に突き出しながらゾンビのようにバイクを捕らえようとするが、女性は巧みなハンドル捌きでそれらを避けつつナイフを擦りつけていく。3
2015-08-05 19:51:17「……ア゛……ッ?」 人影は自らの腕が動かないことに気がつくと同時に、バイクは遥か先へと駆けて行った。 続けてボトリ……と両腕が地面に落ち、切断された面から大量の赤く黒く濁った液体が勢い良く吹き出していく。4
2015-08-05 19:51:36近くにいた別の人影も同じように素っ頓狂な声をあげ、切断された両脛から上体がスライドするようにドサリ……と地面に跪き倒れ込んだ。 ビクン、ビクンと痙攣する身体に合わせて低く曇った小さな声が途切れ途切れに漏れ、辺り一面が真っ赤な池に染まる。5
2015-08-05 19:51:52バイクのエンジン音が聞こえなくなると付近に動いていた全てが地面に倒れ込み、吹き出していた液体の勢いが消えて何事もなかったかのようにそよ風が吹いていた。6
2015-08-05 19:52:06惨殺された人影より暫く進んだ地点に、バイクに跨がりながら片足を着いた女性が停車していた。 女性のサングラスには先程の行動によって飛び散った血肉が付着していたが、全く気にする素振りも見せずに何かを感じとろうとする仕種をする。7
2015-08-05 19:52:21「どうやらこの辺りには居ないようデスネー」 停止させたバイクから降りた女性はサングラスを外して付着した血肉を振り払い、強く息を吹き掛けて綺麗にしてから再び元の位置にかける。 女性はバイクを一通りチェックし、スラリとした足を優雅に上げてバイクに跨がりエンジンを始動させた。8
2015-08-05 19:53:05「けれど、生き残っている仲間はきっと居るはずデース」 独り言を呟いた女性はクラッチ操作を行い、ギアを噛ませた瞬間にアクセルを全開にして一気に加速する。 爆音と共にバイクは走り出し、ハンドルを殆ど操作せずとも女性の意のままに地を駆ける。9
2015-08-05 19:53:19ジェイ・ブルーカラーのボディには至るところにバイクには似つかわしくないものが取り付けられていた。 つい先程、高速道路上をうろついていた元艦娘を切り刻んだ鋭いナイフが収められていたり、どこからどう見ても銃口にしか見えない大小複数の筒がある。10
2015-08-05 19:53:31それら全てが通常のバイクにはあってはならないモノなのだが、今のご時世を考えれば当たり前なのかもしれない。 しかし、それ以前に説明が付くモノが燃料タンクの右側に白い文字で『Kongo』と書かれていた。11
2015-08-05 19:53:45運転手である彼女の名は『金剛』。 例の事件の舞台となった鎮守府に所属していた彼女は、偶然にも事件が起こった際に鎮守府を離れていたおかげで感染から逃れることができた数少ない正常な艦娘である。12
2015-08-05 19:53:57彼女が跨っている同じ名を持つバイクは特別製で、地上に適応するように改修を受けた艤装である。 現在の状況を理解した彼女は自らの舞台を地上に移すため、同じ意思を持った仲間によって特別な改修を受けたのだ。13
2015-08-05 19:54:11そのおかげで、彼女は自らの意思だけでバイク型艤装を手足のように動かすことができるのだが、ハンドルにはしっかりと手が添えられており、気分的な問題というのもあるのだろう。14
2015-08-05 19:54:25彼女の瞳には意思の強さが感じられる光りが灯されており、しっかりと前を見つめている。 荒廃した地上に残る希望を見つけだし、仲間と共にこの国を救う。 そして、彼女には決して立ち止まることができない理由があった。15
2015-08-05 19:54:37全てを終わらせるには必ずぶつかるであろう彼女の名を呟いた金剛は、右手のアクセルを強く捻ってバイクの速度を一気に加速させる。 エンジンから鳴り響く音がまるで金剛の泣き声のように、大きく、寂しげに空気を響かせていた。 続くーー 17
2015-08-05 19:55:37