高校生丸山のファーストキス（エイトで学園シリーズ）

∞すみれ∞ @magic88word

1 『隆ちゃんおまつり行くよねっ？』 「んー？明日〜？やめとこかな」 『えー！前行くって言った』 「前は、な こーんな暑なかったもん」 『夜店見に行きたいって…』 「すごい人やで…涼しい部屋で アイス食ってる方がええやん」

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2 ベッドの上で スイカバーくわえながら あいつと電話 朝は部活行って 午後から塾の夏期講習行って やっと解放されたとこで 晩ご飯までひと眠りしよかと 思たときに電話が鳴った

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3 明日は天神さんのまつり 花火も上がるし 何百と屋台が出る それをのぞくのが楽しみで 親に連れられて毎年行ってた そういやいつから行ってへんねやろ 終業式の帰り道 あいつに誘われて 確かに行こか…って言うたけど

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4 あれから梅雨が明けて シャーシャー鳴く蝉の声で 起こされる毎日 うだるように暑いし ちょっとめんどくさいなぁ …それに…この夏は 大人の階段…ちゅうやつを 登りたいっていうか せやからできるだけ 家で遊びたい…っちゅうか そんなことあいつには 言えへんねやけど

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5 『せっかく浴衣買ってもらったのにな …じゃあバスケ部の誰かと…』 「えっ？えっ？なんて？ぅわわっ！」 慌てて起き上がったら スイカバー落としてもうた ベッドの上で物食べなさんな！言うて またおかあちゃんに怒られるわ いやいやそんなことより…

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6 『隆ちゃんなにしてんの？』 「ゆ、浴衣着るん？」 『うん…そのつもり』 それを早よ言えよ 「そら行かなあかんわ せっかく買うてもろたんやしな！」 『ほんとー！？よかったあ』 電話の向こうではしゃぐあいつ それ以上に俺は 舞い上がってもうてた

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7 玄関先に現れたあいつの浴衣姿は 俺の想像を超えていた… 子どもの頃に見たことがある 赤いアサガオの浴衣 そんなイメージやったのに 「はゎ…」 『お待たせ隆ちゃん…』 「…」 『隆ちゃん』 「う？うん」

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8 浴衣は黒地に淡いピンク色の花模様 帯は濃いピンクで 上に透ける黒い布をふんわり巻いてる いつもは肩までおろしてる髪も まとめてアップして 自転車にまたがったまま 動けへん俺のことを 急かす声は確かにあいつやけど 別人みたいに大人びて見えて ただただ眩しかった

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9 『私、浴衣だから自転車乗れないよ』 「そか…ほなおまえとこ置かしといて バスで行こ」 自転車を置いて 先にたって歩き出す 近所やから手つなぐどころか 一緒に歩くのも気はずかしい 俺こんなTシャツにＧパンで… 子どもっぽいかな あいつに釣り合うてるかな

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10 そこそこ混雑したバスの中 ゴトリと揺れた拍子に あいつがつかまってくる 「ちょおー、やめろってー」 『帯しめてて腕が上がらないから つり革に届かないんだもん』 ちゃうねん そんな引っ付かれたら やばいって 違うとこが しびれてきてまうねん

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11 道が規制されてるから バスはここまで 「ちょっと歩かなあかんで」 『うん大丈夫ー』 そう言うて手をつないでくる あいつが触れるところ全部 静電気が起きたみたいに ピリピリしびれて その電流は ある一点に集まってきて… こいつはもう 俺をどうするつもりや

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12 川沿いにびっしり並んだ 屋台をのぞいて歩く 『隆ちゃんなんか食べる？』 「…ん？んーと…」 『あ！私、あれ！』 「えっ！？」 ぼーっとしてたら 思いっきし手ぇ引っ張って 連れて行かれる

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13 「こ、これはチョコが溶けて 浴衣汚してまうで〜」 『そお？じゃあ冷やしパインにする』 冷やしパインを並んで頬張りながら 時々表情を盗み見る 中身は間違いなくあいつなんやけど いつもと違う人がそこにいて …チョコバナナはアウトやろ

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14 『どしたの？隆ちゃん お腹痛い？』 「ちゃうわ」 『やっぱりチョコバナナが よかったんでしょ？』 「ちゃうて！」 こども扱いされてイラつくけど それ以上何にも言えんくて パインをくわえてた

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15 あかん… こんなことぐらいで ドキドキしてる場合ちゃう 今日は決めてきたやん 初めてのチューをするって ふざけてあいつからされた ほっぺにチューしかないねんもん 大人の階段を まず一歩踏み出さな

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16 昨夜寝る前に何度も頭の中で シミュレーションした まつりの人混みでどさくさに紛れて チュッてするぐらい 簡単にできそうに思えた そ、それにしても… パインをかじるあいつの口元は つやつやに光ってて それだけでもう…

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17 まずは肩を抱く…これや 次に歩き出すとき あいつが手をつないでくる前に うまいぐあいに 前から自転車がやってきて 「危ないで」 肩を抱いて引き寄せた

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18 このまま歩いてたら チューできひんな ぎゅっとこっちに引き寄せて わざとゆっくり歩く 隙あらば立ち止まったろと思うけど なかなかタイミングが掴めへん "マルぅー！" そんなとこに声かけられた 「横山先輩！」

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19 横山先輩の隣には 教育実習に来てた先生 このふたり付き合ってるて噂 ほんまやったんやな 先輩はニヤニヤ笑いながら 近づいてくる "おまえ…なんちゅう歩き方…" 肩震わせて 笑いこらえる先輩

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20 傍から見たら 変な歩き方やったんやろな 肩に力は入ってるし あいつの顔ばっかりのぞきこんで… 「先輩も花火見に来たんですか？」 "…んふふ…ん？ ああ、俺今からバイトやから もうそろそろ帰らなあかんねん" 笑いこらえきれてへんし なんや…花火はこれからやのに

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21 "な、マル…もうたこ焼き食った？" 「食うてませんけど…」 "西やんのおっちゃんの店あんねん あの…橋のたもとのとこ" 振り返って指さして それから横山先輩は グイッと俺の腕を引っ張って 耳元でささやいた "境内の裏行ってみ…穴場やで…" 「…え？」

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22 "西やんとこの店行ったって！ あいつも手伝うとるし、ほんなな" 背中をバシッと叩いて 先輩たちは帰ってった 「たこ焼き…食べる？」 『うん西田先輩のとこ行ってみよ！』 お店を探してたこ焼きを買って 横山先輩に言われた通り 境内の裏に行ってみた

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23 向こう岸で上がる花火を見るために 橋の上はごった返してる 今頃こんな所にいてるのは 俺らだけやった… 神社の境内の裏にまわると 思たより広い 細長い池に石橋がかかってて その奥に小さい祠があった

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24 小さい太鼓橋の欄干に腰掛けて たこ焼きを広げる 『熱そう～』 爪楊枝で刺したたこ焼きを ふーふーしてるあいつ 「あ〜～ん」 『…ん？もう！隆ちゃんは』 ダメ元で口を開けてみたら そのたこ焼きを入れてくれた

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25 「あっふ～」 『おいし？』 まだ熱々のたこ焼きを ハフハフしながら頷いた 「俺も食べさしたろか？」 『いい』 「遠慮すんなってー」 爪楊枝に刺したたこ焼きを 持ち上げたとき 花火が上がった