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@kai_bsr しかし、傍観者に徹するには先ほどの青年のセリフは聞き捨てならず、六人の青年たちのうちの二人に感じた既視感は、片倉の思考を縛り付け、類まれなる頭脳を巡らせた。 #kai_bsrnb
2015-08-30 01:31:10![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 白一色の衣を纏った青年が、口元の血を拭って吐き捨てる。 「蒼紅暗殺部隊だなんて、巫山戯たことを言ってくれる。俺の世話になる伊達家を潰してたまるか」 その声に、片倉は心臓に氷水を注ぎ込まれたかのようになった。 #kai_bsrnb
2015-08-30 01:40:32![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 稲妻が弾け飛ぶように点と点が繋がる。 あの隻眼の青年の太刀筋の既視感は己が若き主人に教えた剣術。乃ちは主の剣であり己の太刀筋であった。あの陽光に輝く倶利伽羅龍の彫り物などつい数刻前に眩しく見上げたあの美しき大倶利伽羅と同じものではないか。 #kai_bsrnb
2015-08-30 01:43:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr そしてあの白い青年はなんといった? ――蒼紅暗殺。 なるほど、関ヶ原で東軍の勝利が決し、西軍の残党たる真田を下すこの戦で双方が倒れたとあれば、東軍の混乱は必至。息を潜めた西軍残党もまた混乱し、功を逸り、再び日ノ本は乱世となるだろう。 #kai_bsrnb
2015-08-30 01:46:46![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr その時、片倉が感じたのは、腸が煮えくりかえって溶岩のごとくぐらぐらと煮立つほどの怒りだった。動きは緩やかとはいえ、すでに片倉の手は黒龍の柄を握っている。 #kai_bsrnb
2015-08-30 01:48:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 黒龍が啼いていた。この刀がどうやら人智を離れたことをしてのけるらしいと、小十郎が知ったのは、小田原敗走の後、徳川の見舞いと称した襲撃の夜のことである。 #kai_bsrnb
2015-08-30 01:52:26![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 煌々と黒龍に刻んだ誓の刻印が光を持ち、刃を浮かび上がらせた。 「――政宗様を屠るというのなら……この俺を殺してからにしろ」 口は動かずとも、黒龍がそれを真田丸に響かせた。目に見えて、異形が慄き、美丈夫たちも呆気にとられて小十郎を見た。 #kai_bsrnb
2015-08-30 01:56:42![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 「何故人が介入できる!」 「婆娑羅者というのは本当に驚きだな」 青年が狼狽し白い衣の青年が呆れた顔で笑う。 鬼がずるり、と黒い穴に飲み込まれて消えていった。 「……なるほど」 長い黒髪に長い大太刀を構えた美丈夫が何かを察して微笑んだ。 #kai_bsrnb
2015-08-30 01:59:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 「なるほど……。その程度の理性は、あれらの主も持っているのか」 黒髪の青年はそう呟くと大太刀の血を拭い、慣れた仕草で鞘に収めた。 #kai_bsrnb
2015-08-30 02:05:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 「撤退だ! 行くぞ光忠、大倶利伽羅! この時空は危険域に認定された」 呆然とする二人を引きずるようにして、彼らもまた消えていく。 #kai_bsrnb
2015-08-30 02:05:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr それに呼応するように、黒龍の光が収まり、刃が啼き止む。惚けたのは一瞬だった。 「――旦那っよそ見とは余裕だね!」 猿飛の大手裏剣が、片倉の軍羽織をかすめてとんだ。 #kai_bsrnb
2015-08-30 02:08:09![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 気を引き締め直して、黒龍を握りなおした。猿飛は身軽に跳ね回り先程までの奇妙な時間などなかったかのように軽快に大手裏剣を繰り出す。 「――よそ見をしねえぐらいに、見せ付けてみな」 ふ、と息を吐いて猿飛を挑発する。 #kai_bsrnb
2015-08-30 02:11:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr 以後、伝説となる蒼紅永劫の決戦は戦国時代日ノ本最後の大戦となる。関が原以後うごめいていた西軍残党は、日ノ本一の兵たる真田幸村を下した伊達政宗の存在によって沈静化された。 #kai_bsrnb
2015-08-30 02:16:22![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@kai_bsr そしてこれは歴史にも残らぬ余談ではあるが、その戦以後、伊達政宗・片倉小十郎の存命中に、再び異形の鬼もそれを追う微上部も二度と再び現れることはなかったという……。<完> #kai_bsrnb
2015-08-30 02:18:07