オリジナル小説「呪名終刻」序章

白面真人・命式 @mailbox_is_full

右に二体、左に一体。戦闘用ガイノイド。 武装は偽装型アサルトライフルに拳銃か。 駆動音に不自然なノイズ。おそらくグレネードを仕込むために犠牲にした影響。 ーーーー勝てる。 23

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学園都市はそのポリシー上、その区域の管理者に保安の度合いを一任している。 管理者が望めば、望んだだけの保安用ガイノイド、仕込みサブマシンガン、仕込み切り裂き格子レーザーなどを配備できる。 24

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しかし、ケンジの兄は護衛用ガイノイドを一体連れている他には護衛らしい護衛を付けなかった。 隠し武器のたぐい、自動攻撃装置も見受けられない。 「教練」にのっとり詳細スキャンを終えても、その結論は揺るがなかった。 だから、この日が来る事は分かっていた。 25

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ケンジは人間を憎んだ。 ガイノイドを、ではない。ガイノイドを送り込んだ、兄の大義を理解しない愚かな人間を。 兄の理想を暴力的手段によって破壊しようとする者達を。 「KKKKKKKYYYYYYYYKKK」 ガイノイドが一体倒れた。 26

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ケンジの肘がガイノイドの頚椎を破砕し終えていた。 視界が悪いのは敵方も同じ、電気的チャフを散布したのは戦略上のミスだ。 めくらめっぽうの射撃音。そこか。 27

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学園都市の生徒は皆全て、何らかの戦闘的強化を受けている。 それらは補助電脳によって運用され、完全に外界からの干渉を受けない閉じた系として、通信、エネルギー供給、全てにおいて外部から隔絶されている。 与太者共のように遠隔クラックされる事は無い。 28

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ケンジの殺人ソバットが二体目の首を跳ね飛ばすと同時に、マリが叫んだ。 叫んだ。 叫んだ……？ 29

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ケンジは混乱した。シナリオにない動きだ。何らかの異常事態が発生している。 このまま制圧動作を続ける事に支障があると判断される。 補助電脳はそう告げている。 30

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「動くな！両手を高く上に上げて、壁を背にせよ！」 耳慣れない女声、刺すような緊迫した声がラボに反響した。 残り一体のものであると判断。殲滅しますか。Y/n 31

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「我々自由人権同盟はアンドウ博士の身柄を拘束した！これは要求ではない、命令である！直ちに脱出用の飛空挺一席と、三日分のガイノイドメディキットを用意せよ！繰り返す、これは命令である！」 32

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インプラントに依らない、純粋に肉体から分泌されたアドレナリンがケンジの理性を覆って行く。 許せない。潰す、殺す。ケンジと兄の理想世界を否定する連中を。その尖兵を。この拳でーーーー 33

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「駄目」 その声は怒りに呑まれかけたケンジを顕界へと引き戻した。 マリが、蒼ざめた表情でホールドアップしている。 彼女とて学園都市の戦闘員である。この程度のテロルに動じるようなヒツジではない。 34

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その時の記憶が定かでない。 純粋アドレナリンの過剰分泌による一時的な健忘、PTSD、爆破衝撃によるインプラントの損傷ーーーー 可能性は多数ある。どれも、微々たるものだったが。 35

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基準時間1分後。 ケンジは飛空挺で逃走をはかる女性型ガイノイドの無防備で訓練されているとは思えない背中を観ていた。 36

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敵が、行ってしまう。 敵が、逃げている。 兄を、抱えている。 補助電脳が激しく最高級のレッドアラートを鳴らしている。しかし、ケンジの肉体脳は、奇妙な違和感とともに、ぬかるんだコンクリート生地の中に沈んでいた。 37

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「我々は宣言する。必ずやこの邪智暴虐にして差別肯定主義の不逞の輩、アンドウ博士を再教育し、人類の未来にあるべき姿を！弱者が何よりも優先される優しい世界をもたらさん事を！」 38

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限界だ。 耐えられない。 兄の、そして僕の未来を？どうするって？ お前達が？ 39

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「教練」の最終プログラムが発動。 視界が真っ赤に染まりーーーー 最後に覚えているのは、頸動脈から出血し、何故か満足そうに目を伏せた、アンドウ・ソウジ博士の姿。 敵を撃破した。 確かに、この手で、敵の声帯を摘出し、模擬脊髄ごと首を引き抜いて、五臓六腑を手刀で破砕した。 40

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あのモデルのガイノイド、それも火器のカムフラージュのために重量検査までパスするほどに軽量化された暗殺兵ごときに遅れを取るはずが無いーーーー 41

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ケンジは、肉親を失い呆然として言葉を探す遺族を装いながら、記憶の探索を終えた。 赤い記憶。教練の最終プログラム。記憶の断絶。 如何に非常事態であったとはいえ、自分の知らない事があまりにも起こりすぎている。 これは、「兄のやり方」として、おかしいーーーー 42

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泣き腫らしたマリがやってきた。負傷。 流れ弾、最初の炸裂、あるいはマスコミ向けのカムフラージュか。 学園都市生徒の間では戦闘教練は共通語であったが、その外側に奥義を漏らす事は禁忌であった。 その為、むしろガイノイドよりも生徒達の戦闘力が学園の主力である事は知られていない。 43

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マリは。彼女は。信用するに足るのか……？ ケンジは迷った。 ケンジとマリの世界を、きのう、きょう、あすを構築し維持しているものの堅固さ、正しさ、そういったものに対する疑念。 これを共有するに足る相手なのだろうか？ 44

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マリは。彼女は。信用するに足るのか……？ ケンジは迷った。 ケンジとマリの世界を、きのう、きょう、あすを構築し維持しているものの堅固さ、正しさ、そういったものに対する疑念。 これを共有するに足る相手なのだろうか？ 44

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補助電脳が誤動作した。 少なくとも、ケンジにはそう感じられた。 45

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補助電脳が誤動作した。 少なくとも、ケンジにはそう感じられた。 45