ぜのんしてぃーTOKYOってバナナさんが。

だいけ @daike0000

『ぜのんしてぃーTOKYO』しゃーぷ１

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【1】『最終日0502』僕の記憶を統合する場所。早朝の科学室はひんやりとしている。「というかむしろ寒くないですか凍ってますよ僕釘が打てちゃいますよ」すると博士は、「試してみるかね？」とおもむろに手を伸ばしてきた。「おや抵抗しないのかね。あの影どもを君で叩こうかと思うんだがね」

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「影って？」僕の疑問に博士は、「おっと、彼らを視認しようとするとまた分裂するね。確率的に１０：１００で」「つまり、見たら見ない場合の１０倍増えるということ？」「基本的にも応用的にもそう思って貰って構わない」これ以上増えてしまっても困るので、僕は黙って目を閉じることにした。

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博士は、「初めに言っておこう。君がこのような状態になってしまったのは間違いなくこのTOKYOという都市のせいであって、断じて君のせいではないと」そりゃそうだ。この都市に来るまで僕はどこにでもあるような黄色でしかなかったのだから。「もちろん私のせいでもない」それは嘘だろ。

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「ではこれよりバラバラになった君達を１つの存在に統合するための実験を開始する」その言葉に不穏な色を見て、僕は尋ねる。「…え、実験？」すると博士は爽快な笑顔になって、「何、失敗した場合は特別改造を加えて大人用の玩具店に売り込む算段になっているから安心したまえ！」

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「痛いぞう！？」尻を押さえて悶絶気味に蹲る博士を見下ろして、僕らは勝鬨の声を上げた。さて、そろそろ博士には真面目にして貰おうか。僅か数秒で復活した博士が、「…しかし、本当に良いのかね？君の分身達が経験した記憶が１つに統合されるということは…」

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見たくない記憶があるかもしれない、ということを僕は理解している。しかし、それを知らなければ前に進めないのも、また事実だ。だから、「ではこれから君達の中にある断片的な過去をランダムに引き出して、統合していく。走馬灯のザッピングだ。せいぜい楽しめるといいね」

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走馬灯は死ぬ時じゃないか、と僕は思ったが、すぐさま走馬灯という言葉の意味が分からなくなったのでどうでも良くなった。ただ、気に掛かるのは、僕をこの都市に連れて来てくれた人達のこと。名前も何も忘れてしまって、何がどうなったのかもよく分からなくなってしまっているけど。

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早朝の科学室、周囲には沢山の影、誰だか分からない白衣の男。僕の周りに横たわる黄色達。僕は彼らがこの都市で体験した全ての記憶を引き継いで、受け継いで。それで何を得られるのだろうか。どうなるのだろうか。迎えに、来てくれるのだろうか。

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【2】『1日目0905』あーるー晴れたー昼下がりー、TOKYOへ続く道ー。荷馬車ーがー、ごーとーごぉとー、バナナを載せて行くー。黄色いバナナー、売られてゆーくーよー。嬉しそうなひーとーみーでー見ーてーいるーよー。どなどなどーなーどぉなー。ナナナを載ーせーてー。どなどなどーなぁ…

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「バナナが嬉しそうというのはどうなんだ」 「何言ってるのシロ君！ほら見てよこの円らな瞳。悦びに満ち溢れてる瞳だよ？」 「それはシュガースポットというんだ。それに『悦』という字を当てるんじゃない」 「ふっふーん？　なぁに考えてるのかなぁ？」

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「それ本当なの？私には信じられないけどなぁ」 「こら、売り物で遊ぶんじゃない。上下に動かすんじゃない。…あ、やめ、そこ」 「あはは。面白いねぇシロ君。…あ、入れてみる？」 「はぁ、はぁ、はぁ…。もうすぐTOKYOに入るぞ。そいつにも、意志が、あ、あぁっ」

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【3】『1日目0925』全身に風を感じて、僕は目を開けた。僕の目の前に、笑顔で金髪の女の子が居た。僕の身体をガッチリと掴んで、「ふぅん。意志を持ったのは、このコだけ、かな？」妙な質問をされた。意味が分からず黙っていると、近くから男の声がした。

だいけ @daike0000

「１つで十分だ。既にこの都市の『博士』と呼ばれる男と契約を交わしてある。このバナナを大量複製して売る。金になるぞ」「そっかシロ君素敵！これで、食べるも煮るも添い寝も使うも良しのバナナとして売り出せるね！」笑っている二人を前に疑問。さて、使うとは一体どういうことだろうか。

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【4】『1日目1124』連れて来られたのはどこかの学校の実験室のような場所で、目の前には白衣の男が居る。「君の疑問に答えよう。ここは科学室で私は博士だ」いえあの、僕は質問した覚えはないんですが。「何、君は心配しなくていい。実験は成功だ」あの、実験って？

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しかし博士はこちらの疑問を無視して、「もう君達は喋ることが出来る。喋ってみるがいい。というか喋って下さいお願いしますそうでないと後ろで待ってる商売人の二人が」ふとそちらに視線をやれば、博士の後ろ、見覚えのある男女がこちらを見ていた。

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「お」「お」「おおおおおおお」声が幾つも響く。その全てが僕の声で、だがしかし僕の声ではない。周りを見る。僕が沢山居た。「どうだ喋ったぞ。分裂実験は大成功だ。これこそが私の科学技術の粋というものだ」誇らしげに笑う博士に、しかし女の子が、「気持ち悪い」

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【5】『1日目1545』駅前。『TOKYOバナナ』と書かれた幟が風と遊んでいるのを眺めながら、女の子の声を聞くともなしに聞いている。「はいはい、今日は凄ぉいものをお売りしますよー。なぁんと、このバナナ、喋んです！味良し性格良し固さ良しで、オヤツにも話し相手にも夜の相手にも――」

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いつの間にか、周りには人だかりが出来ていた。女の子の巧みな話術に引っかかったのだろうか。男ばかりだった。その中の一人、バンダナをしたややエロそうな少年が、「あの、夜の相手って具体的にどーいうことですか！？というか買います、１本下さい！」興奮気味に声を張り上げていた。

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「はい、毎度ー。お好きなのをどうぞー」愛想の良い女の子の声。それを合図に、「俺もくれ！」「俺にも！」声の連鎖が始まった。そして、先の少年のやや小さな手がまっすぐに僕に伸びて来た。掴まれる。その、直前。僕は別の大きな手に掴まれた。「ふむ、こいつが良さそうじゃのぅ」

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「あ、ちょっと、それ狙って…たの、に」少年の抗議の声は、しかし、相手の顔を見た途端に小さくなった。鋭い印象の青年だった。「あの、もしかして、アナタ、物凄い格闘の使い手じゃないですか？」少年の疑問に青年は直接答えず、「そういうおまえは、少しエロそうじゃのぅ」

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「え、何でみんなからややエロって呼ばれてることが分かるんですか！？」「そうじゃろうな。では今からお主の愛称は『ややエロ』これでいいか？」「いいも何も、元からそうですよ！」「では君と知り合いになった記念に、こいつを奢ろう」青年が、ややエロに別のバナナを渡していた。

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「ありがとうございます！あなたには絶対に勝てそうもないんで尻尾振りますね！」ややエロの満面の笑顔に、青年は少しばかり気味の悪そうな顔をして、「さっさと行け」とだけ告げた。しかしややエロは微妙に食い下がり、「あの、アナタのことは何とお呼びすれば？」「…脱落者、かのぅ」

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【6】『1日目2234』僕は籠に詰められて夜の街を連れまわされていた。「ねぇシロ君、今日の宿は？」「待て、今悩んでいる」「悩むことあるのかなぁ？」売り上げもバッチリだったし。まぁちょっと売れ残ったけどさ」籠の蓋が開けられた。女の子の笑顔が見えて、街のピンクな灯りが見えた。

だいけ @daike0000

「ねぇどう思うバナナ君？」女の子に話し掛けられた。「えーっと、泊まる場所の話なら、どこでもいいですよ。僕バナナですし、この籠の中に入ってれば」僕の答えを聞いた女の子は、どーだと言わんばかりに、「ほら、それじゃ決まり。ここにしよう」