フレデリク&二クラスの大禍災

大禍災イベントのまとめです。 予兆と練習:元君主で現在は隠居中のフレデリク 本番:フレデリクの息子二クラス
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リ雲 @kumogumogu

フレデリクはゆったりと剣先を垂れる。まるで力が入っていないように見えるが、それが彼の構えだ。 「…!」 決して目を離したつもりは無かった。が、ニクラスの目には、構えの後、彼が剣を振り抜いた後の姿しか映らなかった。 こうやって死ぬのか。と、ニクラスは肌で感じとる。

2015-09-23 01:46:01
リ雲 @kumogumogu

「クソったれ!」 突然フレデリクが暴言を叫び出したので、何が何だかわからなくなった。気付かれた! と思い身を縮こませる。怒られる事よりも、もっと剣舞を見ていたい悔しさが大きい。決して届かない、剣の高みを。 だが、ニクラスの予想は違っていた。罵声とともに、甲高い音が屋敷に響き渡る。

2015-09-23 02:09:50
リ雲 @kumogumogu

騒音に気付き、ネギーや使用人達が倉庫へ駆け込んでくる。 「どうしたんです、フレデリク! …うっ、これは」 「!」 養父に、何かあったのか。もしや怪我を? ニクラスは棚の影から飛び出す。怪我なら、この聖印で… 「なんだ、いたのか小虫」 立ちつくす養父の冷たい目がニクラスを見ていた。

2015-09-23 02:11:31
リ雲 @kumogumogu

フレデリクの足元で、大剣が折れていた。フレデリクが叩き折ったのは明白だった。 なぜ。 ニクラスはそう訊ねる事が出来ず、フレデリクは自分が起こした騒ぎを置いて立ち去った。

2015-09-23 02:12:59
リ雲 @kumogumogu

養父は聖印の譲渡とともに、剣を諦めたのだろうか、と思った。だが、しばらくして武器庫を見ると、あの大剣が置いてあった場所に、この剣…薄く持ちやすい、特注品の業物が置かれていた。 フレデリクが杖をつくようになってもなお、その剣は折られずそこにあった。…彼が剣を諦めていない証として。

2015-09-23 02:15:41
リ雲 @kumogumogu

「ああ…」 ニクラスを乗せ、走り続ける馬車。揺れが傷に響くが、ゆっくりと座席に横になった。 この剣を養父に返したい。 オレはまだ、手斧と、魔剣ポップコールでいいよ。ポップコールもこの剣ほどは斬れないけど、鈍器としては優秀だしさ。

2015-09-23 02:26:47
リ雲 @kumogumogu

薬草屋のフニットちゃんが、励ましながら担架に乗せてくれた。惚れる。 ニクラスを乗せた馬車は、古い石造りの町に到着した。すぐさま担架に載せられ、薬師の家に運ばれる。家の前には一頭の馬。 「おやっ、フェーリーン…」 ドが乗っていた、屋敷の馬だ。怪我をしているが、すでに処置されている。

2015-09-23 04:37:26
リ雲 @kumogumogu

期待してしまう。ドが、フレデリクを見つけたんじゃないか、彼女ならば可能なのでは…と。 薬師の家の内部は、毒を受けた怪我人でごった返していた。ニクラスが入るや否や、様々な声が湧く。寝ていた者も身体を起き上がらせ、ニクラスの名を呼ぶ。 労いも叱責も、全て受け入れるつもりだ。

2015-09-23 04:39:59
リ雲 @kumogumogu

だが、こうも一斉では、誰が何を言っているのやら。 「ちょっと、順番に喋ってくれよ! じゃあそこの端の人から! 全部聞くからモガ!」 「後にしなさい!」 薬師に、苦い薬草を処方…もとい、口に放り込まれる。しかしそのせいで、仕切る者のいない室内はさらなる喧騒に包まれる事となった。

2015-09-23 04:42:43
リ雲 @kumogumogu

「黙れ」 低い声。 「俺は眠いんだ」 しん…、と、室内が静かになった。それこそが証明だった。この声の主のことを、誰もが知っているのだ。元・鬼領主のご隠居を。 「フレデリクさん!」 止める薬師を振り払い、ニクラスは声の元へ走る。転ぶ、走る。布の仕切りを払いのけた瞬間に飛んでくる矢。

2015-09-23 04:46:36
リ雲 @kumogumogu

ニクラスは身を屈めて矢を避け、なおも進む。 高級ベッドの脇に、腕に装着した弩を構えたドが立っていた。細心の注意を払い、音もなく弦が巻かれていく。 「マスターは眠いと言っている」 「オレだよ! 息子のニクラス!」 「それが、何」 第二射。近すぎるので、さすがに当たった。

2015-09-23 04:47:52
リ雲 @kumogumogu

ものすごく痛かったが、刺さってはいない。先の丸い矢だった。 「…マスターの寝所を汚さないためよ」 ツンデレかな? 惚れる。 ベッドで布団を被っていた人物が身じろぎ、片目だけをうっすらと開けた。 「いたのか、小虫」 「うん」 ニクラスが持っている剣をちらと見る。 「そこに鞘がある」

2015-09-23 04:49:30
リ雲 @kumogumogu

「うん」 壁に立てかけてあった鞘に、フレデリクの剣を戻した。 「返すよ。役に立ちました。よく斬れますね、これ」 「…要らん」 フレデリクの眠たげな返答に、殴られたような衝撃を受けた。 「な……えっ…」 言葉が出てこない。毒のせいかもしれないが、頭がくらくらする。

2015-09-23 04:53:03
リ雲 @kumogumogu

こんなにショックを受けている自分にもショックだ。もうわけがわからない。 頭では納得できる。今回の事もあり、もう引退する時期なのかもしれない。そもそもご隠居だし。 でも、だって、まだこれからなんだ。手の届かない剣技ではなく、やっと、届きたいと思う事が出来そうなところだというのに。

2015-09-23 04:56:11
リ雲 @kumogumogu

気付けばニクラスは、再び剣身を空気に晒していた。ドが身構えるが、フレデリクが視線で抑える。 「剣を、棄てるのかよ」 「なんだと?」 まるで心底疑問であるかのように聞き返すフレデリクに、ニクラスはかっとなった。 「剣を棄てるのかよ! フレデリク!」 澄んだ金属音が響き渡った。

2015-09-23 04:59:52
リ雲 @kumogumogu

ニクラスの持つ剣は弾き飛び、背後の石壁の隙間に刺さっていた。 まるで見えなかった。 「その剣"は"要らん。お前が乱暴に扱うから、妙な癖がついている」 手が、心が、痺れていた。 フレデリクはベッドの上に立ち、新たな剣をニクラスに向けていた。いや、この剣は見覚えがある。柄に…長さに。

2015-09-23 05:03:21
リ雲 @kumogumogu

「仕込み杖だったのそれ!」 「でかい声で言うな馬鹿が。仕込みの価値が無くなる」 剣を、鞘である杖部分に収めながら、フレデリクは再びベッドに横になる。毒をくらっているようだが、怪我はニクラスよりもずっと少ない。ドとともに易々と切り抜けてきたのだろう。 「フレデリクさん!」

2015-09-23 05:05:26
リ雲 @kumogumogu

「オレに剣技を教えてください!」 「おい。ここに虫が残っているぞ。つまみ出せ」 ニクラスは別室に移動させられ、治療を受けた。

2015-09-23 05:06:25
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