ラバウル少佐日誌特別編:千年王国の残滓

艦これ二次創作小説です。 一部艦娘のキャラ崩壊・独自設定・過去捏造注意です。
1
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

未だ日の昇らぬ宵闇の空に臨む一人の女。 彼女の眼はハーケンクロイツの腕章にそぐわぬ虚ろな其れだ。 耳に当てていた受話器はもう、ザリザリというノイズしか喋らなくなってしまった。 (2) #ラバウル少佐日誌

2015-09-26 23:08:00
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

……彼女はその受話器を一度、黒電話の台の上へと静かに置いた。 それから数秒して後、再び彼女は受話器を取ると何処かへ電話を掛け始めた。 相変わらずの虚ろな目をして、希望の糸口さえも見えない様子で。 (3) #ラバウル少佐日誌

2015-09-26 23:11:45
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

『もう情報は、此方にも入っている』 「随分と穏やかな様子ね、もっと取り乱しても良いんじゃない?」 静かな苛立ちを湛えた声で彼女は問う。 「もう何もかもお終いよ。私とあなたの全ては折れ砕けたの。もう直ぐあなたの所へも狂信者共が押し寄せてくるでしょうね」 (4) #ラバウル少佐日誌

2015-09-26 23:18:36
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

『私はコレで終わりだとは思わないよ』 「往生際の悪い人ね」 『昔から悪運だけは強いんだ。それはワルシャワでの時に、君も身を以て知らしめられただろう?』 「だから何なの? 思い出話はヴァルハラで幾らでも聞いてあげるわ」 その言葉へ、男は笑い声を返した。 (5) #ラバウル少佐日誌

2015-09-26 23:52:05
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

『時にfraulein(お嬢さん)、我々は此処で死ぬのが本望なのだろうか? 主人の後を追い炎の中へ飛び込み死する、左様な莫迦犬の人生で終わって、何が楽しい?』 「少佐を地獄へ捨て置けって事?」 『我々は未だ遊び足りないから、待って貰うというだけだ」 (6) #ラバウル少佐日誌

2015-09-26 23:58:07
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

「……私に、何を望んでいるの?」 『私は「良い戦争だった」と言って死ぬ為に、未だ足掻くつもりだ』 「あなたの事を訊いてるんじゃ……」 『分かっているクセに!』 今度は受話器の向こうの男が語気を荒げる。 (7) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 00:02:55
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

「……それで少佐殿は喜んで下さるのかしら」 『喜ばないお人だったと思うかね』 (8) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 00:15:12
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

「そう、ね」 女はぐい、と顔を上げた。 もうその眼には終の色も無く、鮮やかで黒い光に満ちていた。 『では御機嫌よう』 受話器を置いた女は、段々と近付いてくる爆発音や悲鳴を認識した。 そして、 「ふッ!」 目の前の窓ガラスを割り、密林の闇へと飛び降りた。 (9) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 00:25:05
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

――――――16年後、日本海軍ラバウル基地。 (10) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 00:29:36
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

白い詰襟の服を纏うでっぷり太った男が、ヘリポートの端から未だ日の昇らぬ宵闇の空を睨んでいた。 「おやおや、こんな時間に何をしている?」 傍らへ音もなく現れたのは、異様に背の高い褐色肌の女だ。 (11) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 00:56:17
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

「夜更かしは身体に毒ですよ、武蔵様。元帥閣下に教わりませんでしたか?」 「少佐殿、よもや土座衛門共と内通している等ということは……」 デブの男が眼鏡の奥の目を動かし、武蔵を睨みつけた。 「分かっているなら早う答えよ」 「直に分かる。見ておけ」 (12) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 01:02:01
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

と、その時だった。 「うん?」 「くくくく!」 西からヘリが一機、徐々に少佐達のいるヘリポートへ向かって近付いてゆく。 「アレか。機体を見るに、独軍の司令官仲間か何かか?」 「いいや、そんなものではないさ。もっと親しく、そして愛おしい華だ……!」 (13) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 01:09:39
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

やがてヘリは上空で制止すると、一人の女がブロンドの長髪を靡かせながら飛び出した。 ダンッ! と重い金属音を響かせ、着地した女。 それを確認し終えたヘリは、また西の方へと去ってゆく……。 「……艦、娘、なのか?」 怪訝そうに武蔵は女を見やる。 (14) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 01:14:10
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

「元気そうで何よりだ」 そんな武蔵をよそに、少佐は女へ歩み寄る。 「そういうあなたはダイエットした方が良いわね」 「それは無理だ」 「身体が機械でもないのに?」 「『デブは一食抜いただけで餓死する』と仰っていただろ?」 二人はケラケラと笑い合った。 (15) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 01:27:49
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

「それにしても、戦争を求めて陸から海へ……私も君も、考えついた事は同じであったという事だな?」 「かつて威勢の良い事を言っていた戦友が女を侍らせて腐りきっていると聞いて、一度その面を拝みたくなっただけよ」 「仕方ないだろう。兵が女しかいないのだから」 (16) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 01:33:11
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

「おい、少佐殿」 二人の話に、武蔵が嘴を突っ込んだ。 「その女は何者だ」 「見ての通り、我が艦隊に今日たった今より着任する艦娘のビスマルクだが?」 言い捨てて、少佐は武蔵へ手を振りながら基地へと戻ってゆく。 ビスマルクに至っては武蔵を気にも留めない。 (17) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 01:39:53
Ryu Nyarlathotep(暫定) @NGWCTG

「それにしても一体どうやって海軍へ潜り込んだ?」 「潜り込むも何も2011年に総統閣下が御戻りになられたじゃない」 「ああそういえば。長生きはするものだな」 「良い戦争を期待しているわ、『少佐』殿」 二人は談笑しながら、闇の中へ歩き去っていった……。 (終) #ラバウル少佐日誌

2015-09-27 01:50:23