ついのべ大賞にエントリーする作品候補

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がこん。という情けない音と共に突然エレベーターは止まった。僕は顔を上げる。階数表示のランプは消えている。閉じ込められたのは僕とOL風の若い女性。二人きり。極限状態に置かれた男女の間に恋が生まれる確率約92%。作業服姿の僕は今回も計画通り、粛々と彼女をモノにする。 #twnovel

2010-01-24 21:59:24
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あたしだけ子供の頃の写真が少ないって母に文句を言うと必ず横っちょから兄たちがお前は橋の下で拾われたからだよー。へっへー。などと言ってからかってくる。そんなことないよね? 母は笑う。そういえば、あんたが生まれた時は病院の窓からきれいな虹の橋が見えたわねぇ。 #twnovel

2010-01-27 06:38:34
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じゃ面接に行ってくるよ。はい。頑張ってきてね。わたしは笑顔で息子を送り出す。引きこもり生活から抜け出そうと奮闘する姿を見ていると思わず目頭が熱くなる。さぁ、電話しなきゃ。今から伺いますのでよろしくお願いします。ええ。不採用で。わたしはぜったいに息子を手放さない。 #twnovel

2010-01-28 06:46:55
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ちっ。捻り潰した空き缶を投げる。薄汚い黒猫が逃げる。女房は男を連れ込んでやがるし娘はホストに入れ込んでやがる。クソったれな俺の人生にはクソったれなこの街がお似合いだ。頬にひやり。空を見上げる。雪。見渡せば、看板持ちもポン引きもオカマ野郎も、みな空を見上げている。 #twnovel

2010-02-02 00:07:04
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五歳になったばかりの我が娘は一丁前に新聞を広げている。ふ。思わず頬がゆるむ。まだ漢字も読めないくせに。「パパ、しんぶんにタモリでてるよー」娘は夕刊の一面を指差している。「ほう。どれどれ、見せてごらん」「ほら、ここ!」わたしの目に太文字が飛び込んでくる。「夕刊」 #twnovel

2010-03-03 23:57:44
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今宵。7,867日間降り続いた雨が止んだ。明日は朝から晴れの予報が出ている。生まれてこの方、写真や動画でしか見た事のなかったお日様を、まさかこの目で拝める日が来ようとは……。決めた。山へ登り、日の出を待とう。俺は五階にある部屋の窓を開け、ゴムボートで漕ぎ出した。 #twnovel

2010-03-06 11:10:32
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キッチンの隅っこで煮詰まった鍋の中身を眺めながら煙草を吸う。煙とともに口から吐き出されたわたしの意識のかたまりは換気扇のブレードによってすぱすぱと寸断されながら静まり返った夜の町へと抜け出す。家庭から解放された「わたし」たちは夜間飛行を楽しむ。空気は澄んでいる。 #twnovel

2010-03-17 07:06:12
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夏のテロリストは団地の踊り場から水風船を投下する。焼け焦げたアスファルトが冷やされてゆく。五階と三階で扉の開く音。怒声が響く。母Aと母Bに挟撃されたテロリスト達は呆気無く投降する。テロリストAの家で尋問を受けた後、供されたカルピスの中、氷がひとつキーンと鳴った。 #twnovel

2010-05-27 00:34:16
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「ねぇ、あなた。あの子、高校で夕焼け部を作ったらしいわよ。川の土手とか学校の屋上から、ひたすら夕焼けを鑑賞するんですって」「そうか。さすが君の娘だね。学生の頃、日が暮れるまでずっと飽きもせずに夕日を眺めていた君の後ろ姿を思い出すよ」「なに言ってるの。元部長さん」 #twnovel

2010-06-07 22:28:15
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眠い目を擦りながらトイレに行くと便器の中に髪の毛が落ちていた。水面に浮かんだ二本の髪は絡み合うように二重螺旋を描き仲睦まじく泳いでいる。気味悪いのですぐに流した。だが何度流しても翌朝にはまた髪が浮かんでいる。タンクの蓋を開けてみると屍蝋化した女の頭が沈んでいた。 #twnovel

2010-07-16 21:37:32
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ぴしゃり。と空に亀裂が走り、どおんと音が落ちてくる。引き戸のガラスがびりびり震える。どうだ。雷は面白いだろう。父が言う。ぴしゃり。僕は慌てて耳を塞ぐ。どおん。びりびりびり。音も楽しまなきゃ駄目じゃないか。父は笑顔を見せる。いい加減にしなさい。後ろで母の声がした。 #twnovel

2010-09-07 22:22:57
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冷蔵庫が急に冷えなくなったと妻に言われ調べてみたのだがどうにも私の手には負えない。近所の電器屋に見てもらったところ愛想のいい顔で買い換えた方がよいと言われる。引退を勧告されしょんぼりと台所の隅で佇む冷蔵庫。十年連れ添った炊飯器の湯気にも心なしか今日は元気がない。 #twnovel

2010-09-18 00:43:01
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記憶が明瞭な内に君に手紙を書こうと思う。由香もまだ小さいのに僕がこんな風になってしまい本当に申し訳無い。君は「失敗した!」と思っているかもしれないね(笑) でも僕は君と過ごせた日々を心の底から幸せだったとおもってる。本とうにありがとう。りこんとどけいれておきます #twnovel

2010-09-26 01:56:40
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旅に出るよ。そう言って海を渡った奴が12年ぶりに日本に帰ってくる。メジャー通算115勝。燦然たる結果を残した奴も遂に戦力外通告を受けたそうだ。ざまあみろ。そう言ってやろう。ベルが鳴る。子供の頃散々聞き慣れた声が響く。「おーい磯野、野球しようぜ」 #twnovel #twnvday

2010-10-14 00:59:41
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台所から物音がするので恐る恐る見に行く。亀の子たわしがゴミ箱をよじ登っている。――そうか。今日使い古したスポンジを捨てたからその後を追って――。私はゴミ箱の中に落ちた亀の子たわしとスポンジを取り上げる。元通りシンクの端に並べて置くと、ふたりはきゅっと寄り添った。 #twnovel

2010-10-17 01:04:46
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引っ越したばかりの部屋で缶ビールを開ける。ニュースが始まったのでTVのボリュームを上げた途端。壁ドンされた。さすが安アパート。壁が薄い。寝る前にシャワーを浴びていると今度は排水口から手が出てきた。「あのぉ、石けん貸してもらえません?」さすが安アパート。床も薄い。 #twnovel

2010-10-22 01:44:20
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いいかお前たち。ここに三本のポッキーがある。これをまず三本まとめて父さんがくわえる。そして扇状に広げたポッキーの先をお前たち三人がそれぞれくわえるんだ。そうだ。いいぞ。この形をよく覚えておけ。これこそがキャバクラで三人のお姉さんと同時にキスをする方法だ。 #twnovel

2010-11-11 23:37:42
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「雲ばっかだね」「だね」「これじゃ流星群見れないね」「見れないね」「晴れると思う?」「晴れないと思う」「眠い?」「眠い」「クルマに戻る?」「戻る」そんな会話のあと眠気混じりで彼女と交わった時に俺の放った流星群のうちの一発がHitしてお前が生まれたんだ。分かるか? #twnovel

2010-11-17 21:31:56
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「魔王よ。ここにお前の卒業文集を持ってきた。『将来の夢』僕はパン屋さんになりたい。なぜなら美味しいパンで皆を幸せにしたいからです。なのに今のお前はどうだ!」「勇者よ。私もそなたの卒業文集を手に入れたぞ。『将来の夢』僕の夢は世界征服です。これはどういうことかな?」 #twnovel

2010-11-20 15:10:59
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ドドドドドと地響きがする。遅刻や遅刻やーという甲高い叫び。信号待ちの群衆が割れる。心斎橋筋商店街を大男が駆け抜けてくる。戎橋中央で踏み切った大男は夜空に身を翻し、背中からビルの壁面に吸い込まれた。瞬時にネオンが点灯する。道頓堀の夜の幕開けにどっと歓声が上がった。 #twnovel

2010-11-27 21:34:55
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イブの夜に男二人でサイゼリア。我ながら情けない。若かりし日の思い出と乾いた生ハムを安ワインで流し込み通りかかったウェイトレスをつかまえる。「バイト何時まで?」「十時よ」「ねぇパパケーキは?」隣で息子がごねる。「ああ。ママのバイトが終わったら一緒に買って帰ろうな」 #twnovel

2010-12-04 16:15:01
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昨夜、都内の公衆浴場で、赤い服を着た初老の外国人男性が覗きの現行犯で逮捕されました。男性は警察の調べに対して「そこにしか煙突がなかった。どの煙突でも良かった」と述べており、警察では不法入国の疑いもあるとみて更に調べを進めています。 #twnovel

2010-12-08 02:04:15
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口のきけない少女は泣きながら時計を指さした。母親が調べてみると時計は既に事切れていた。屋敷の裏庭で時計に火が点けられた。突然少女が言葉を発した。俺以外と話してはいけない。ずっと時計にそう囁かれていたと言うのだ。炎に文字盤が歪む。立ち昇る紫の煙から呻き声が漏れた。 #twnovel

2010-12-18 01:42:46
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改行のまったくない本を読んでいた。と、虫の字がとつぜんもぞりと蠢いた。あまりにも密度の高い本を読み続けたために目が疲れたのだ。そう思った。あっ。再び虫の字が動いた。虫は文字列を離れ、行間を一気に駈け抜けてゆく。本から飛び出した虫は古畳の隙間に潜り込んでしまった。 #twnovel

2010-12-19 02:06:48
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窓際の席の結城君は今日も単語帳になにかを書き込んでいる。なんの勉強だろう。訊いてみたかったけど自分から話かけるなんてとてもできない。「なぁ三崎、お前本好きだろ。これ俺が書いたんだ。読んでみてよ」私の手のひらに小さな小説。なんてね。私は読みかけの本に意識を戻した。 #twnovel

2010-12-22 20:29:17