(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ)
2015-10-04 20:32:12ラバウル泊地臨時病棟。横須賀鎮守府第33地区の提督は、ここの廊下を走っていた。「すいません、通ります!」車椅子を避け、目的の病室へ。ここに三笠がいるはずだ。「姉さん!」提督はノックもせずに、ドアを勢い良く引き開けた。 1
2015-10-04 20:33:45「だーかーらー!そこは触らないでって言ってるじゃないですかー!?」「何言ってるのよー。こんなスケベスカート、手を突っ込んで弄ってって言ってるようなもんじゃない」「おんどれぁーっ!」「おうふっ!?」飛び込んだままの勢いで、提督は三笠にドロップキックを放った。 2
2015-10-04 20:37:03「憲兵ーッ!……あっ」憲兵らしき男が床に倒れている。ラバウルの憲兵では、三笠の相手は荷が重すぎたようだ。「何よー、優月。お見舞いのプレゼントにしては物騒すぎじゃない?」「セクハラするほど元気があるなら見舞いの品なんていらないでしょ!」 3
2015-10-04 20:40:22「いやー、これでも右腕吹っ飛んでるのよ?ほら」そう言って掲げた三笠の腕は、肘から先がきれいに無くなっていた。提督は一瞬ぎょっとしたが、すぐに思い出す。「……って、そっちの腕は元々機械じゃないですか!」旧式艦娘である三笠は、体の一部を機械に置き換えているのだ。 4
2015-10-04 20:43:38「あっはっは。……まー、こっちの腕が吹っ飛んだのは十年前の空襲以来なんだけど」「勝手に突出して負傷とかやめて下さい!」「左手は残ってるから大丈夫でしょ」「その左手を明石さんのスカートに突っ込んでちゃ何も格好つかないでしょう!?」 5
2015-10-04 20:46:50明石はセクハラ攻勢にすっかり怯えて、壁際で固まっている。元帥の修理に連れて来られただろうにこの仕打、気の毒としか言いようがない。「すいません、せっかく来てもらったのに嫌な思いさせちゃって。落ち着かせておきますから、後でまた来て下さい」「は、はい……」 6
2015-10-04 20:50:07明石は部屋を出て行った。「……さて」三笠はベッドに深く沈み込み、訊いた。「戦況、どうなってんの」「え?」「戦況よ、戦況。報告は部下から上がってるけど、一応聞かせて」「あ、はい……」先程までのだらしない表情はどこへやら、横須賀元帥は至って真剣な眼差しであった。 7
2015-10-04 20:53:18「現在我が軍は、フィジー・サモアの制海権を喪失。同海域から転身し、ガダルカナルで最終防衛線を築いています」「ガ島で?ブイン基地まで下がらないの?」「あの島を奪還された場合、敵がそこで守りを固めて、米豪艦隊に矛先を向ける危険があります」 8
2015-10-04 20:56:42アメリカとオーストラリアの艦隊は、敵の戦力を分散させる囮だ。深海棲艦の総力を受け止められる戦力ではない。「で、そのガ島の戦況は?」「制海権はこちらが握っていますが、艦載機の損耗率が3割を突破。撃墜されるペースが早すぎて補給が追いついてません」 9
2015-10-04 21:00:03そう報告する提督の表情は苦々しげだ。今回の物資輸送の責任者はこの提督である。不測の事態に備えて常に多めの物資を買い付け、今は横流し用のボーキサイトまで投入しているのに、艦載機の消耗に追いつかない。「あの防空棲姫っていう深海棲艦は、何者なんですか?」 10
2015-10-04 21:03:17「わかんない」即答であった。「考えるフリぐらいしましょうよ」「考えるのは他の子に任せてるの。あ、そうだ。あんた、私の代わりに会議に出なさい」三笠が枕元のタブレットを提督に押し付ける。「会議?」「防空棲姫への対抗策を話し合ってるのよ。出撃中の提督もいるからパソコンで」 11
2015-10-04 21:06:32タブレットのスリープを解除すると、海軍専用のチャットアプリが起動していた。大人数でのビデオチャットができるだけでなく、音声を認識して自動でログを文字に起こしてくれる優れものだ。"FS作戦緊急会議"と題されたグループの会議時間は、既に48時間を超えていた。 12
2015-10-04 21:09:50ログにざっと目を通してみる。《こんなん無理だよ……》《どう考えても頭おかしい》会議は、三笠の代わりに殿を任された二人の提督のコメントから始まっていた。《教えてくれ、一体何を見た》《綾波の魚雷が全部迎撃された》《駆けつけた長門さんの砲撃が弾かれたんですけど》 13
2015-10-04 21:13:13そこから、防空棲姫と名付けられた敵艦の、驚くべき防御力に対する報告が次々と上がってきた。戦艦の主砲も、駆逐艦の雷撃も、航空爆撃も全て的確に迎撃し、攻撃を寄せ付けない。二日間の間で着弾を確認できたのは僅か7例。その7例がどうして起きたのか。議題はそちらに移っていった。 14
2015-10-04 21:16:27《装甲基準値でました。46cm砲を至近距離で全弾命中させないと抜けませんね、これは》《飽和攻撃をかける。横須賀第3艦隊の航空隊は全機出撃。佐世保元帥の潜水艦隊と共に支援攻撃後、水上打撃部隊で突入する》《装甲値直す》《戦艦棲姫が二隻出現。防空棲姫の護衛についた》 15
2015-10-04 21:19:39《周辺のヲ級を撃破。防空棲姫に変化は?》《さっきより装甲下がってないか!?》《航空・雷撃支援効果なし……もうだめだ》《先にヲ級を倒してくるべき》《おい装甲値勝手に直した奴吊るせ!ふざけんな!》ウンザリするほど状況が錯綜している。2日間で議論はほとんど進展していない。 16
2015-10-04 21:22:53一通りログに目を通した後、提督はビデオチャットに参加した。アクティブな提督は10人。FS作戦に参加している大将と元帥の半数だ。《閣下!お戻りで……え、誰!?》ラバウル元帥が驚く。そういえばこれは横須賀元帥のアカウントだった。「失礼しました。横須賀33地区です」 17
2015-10-04 21:26:06《ああ、閣下の養子の。閣下はご無事か?》「ええ、元気です。防空棲姫への対抗策はまとまりましたか?」《纏まらんよ。防空棲姫がいつ来るか分からんというのに、未だに手がかりなしだ!……こうなったら一か八か、MNBを防空棲姫に向けて発射するしか……》 18
2015-10-04 21:29:22《やめーや!バクチにも程が有るわ!》割って入ったのはブイン元帥。MNBが何なのか提督は知らないが、あまり信用ならないものらしい。《東郷クン、そっちで何か変わったことは無かったかい?》《あの、こっちは後方ですよ?》《分かっとるわそんなん。藁にも縋りたい気分ってやっちゃ》 19
2015-10-04 21:32:38「変わったことって言われましても……」今回の作戦で後方で変わったことは起きていない。敵の奇襲も比較的少ないし、西方海域の東洋艦隊残党も追い払えた。ガダルカナル島における飛行場姫の引っ越しも、トラブルは起きなかった。「……あ」そこまで考えて、一つだけ思い出した。 20
2015-10-04 21:35:52「モアイを片付けましたね」《モアイ?》「ええ。ガダルカナル島のモアイを本土に持って行くって命令が出たので、荷造りしていました」飛行場姫がどうしても持って帰ると言って聞かなかったので、次に来た時にすぐ船に積み込めるよう、モアイを移動させたのだ。 21
2015-10-04 21:39:04「いや、何でモアイなのよ」ベッドで寝ていた三笠が身を起こした。「何でって言われても。モアイがあったんだからしょうがないじゃないですか」《そっちやない。何でモアイがこんなところにあるんや》「こんなところって……モアイって、そんなに珍しいものなんですか?」 22
2015-10-04 21:42:17