鶴と亀の番の話

お爺ちゃん審神者と縁起だけで近侍に選ばれた鶴丸の話。
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人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

番審神者最後の日に鶴丸に手伝って貰いながら正装してるのを想像して軽率に死ぬ。肩貸しながら鍛冶場に行って、鎚持たせて、作業台の上に何にも言わずに鶴丸が自分の本体置くのな。それで番が鎚振り下ろすんだけど、傷を付けるだけで終わっちゃって「ああくそ、お前を折る力すら、残してやれなんだか」

2015-03-05 21:25:34
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

っていって、鎚もろくに振るえない自分の手を見ながら涙を一筋流すの。その背を支えながら鶴丸も苦笑して「ちと、粘りすぎたなぁ。××よ」って。そうだな、って頷いた審神者が最後「…畜生、お前にだけは、看取られたくなかったってのによぉ」って小さく呟いて俯いて、そして、二度と顔を上げなかった

2015-03-05 21:29:45
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本当はもっと早くにするべきだった。審神者が一人で立つことも出来なくなったとき、そろそろか、と言いだしたのは鶴丸だった。「動ける内がいいだろう。じゃねぇとあんたの墓に供えられちまう」そう茶化した鶴丸に鼻で笑って返したのは審神者だった。「阿呆抜かせ。まだ介護をさせてねぇ」

2015-03-05 21:34:16
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「介護だなんてよぉ、嫌がらせはよしとくれよ」「嫌がらせだからさせるんじゃねぇか」呵呵、と変わらぬ笑い声を響かせて、爺の尻を拭かせてやると憎まれ口を叩いて見せた。「それだけじゃねぇぞ?飯も零すし涎も垂らす、夜中には寝小便垂らしながら徘徊だってしてやらァ」なんだその迷惑爺、

2015-03-05 21:49:30
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

と思わず顔を顰めた鶴丸に、審神者はとうとう腹を抱えて笑い始めた。「おぅおぅその顔、ひっさしぶりじゃねぇか!何年振りだ?爺はすぐ忘れちまうからいけねぇな!」動かぬ足をこれでもかとぶっ叩いて笑う審神者に苛ついて、鶴丸はばしりとその背を叩く。「ごふっ!」軽くとは言え練度が上限に達した

2015-03-05 21:55:18
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刀剣の一撃だ、前屈の要領で審神者の顔を布団に埋まった。間抜けなそれに、今度は鶴丸が笑い声を上げる。「それだけ曲がればまだ体は大丈夫よな!」「てんめぇ…この糞鶴がぁ…!」じろり、と下から睨む審神者の目も何のその、ひらりと鶴が飛び立つように立ち上がると、開け放たれていた戸から軽やかに

2015-03-05 22:05:14
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

飛び出した。背中から、審神者の怒声が響いてくる。「はっ!悔しかったらそのなまくらな足で追いかけて来るんだな!」たたっ、と足音を響かせながら、その足で鶴丸は炊事場の方へ向かう。どうせあの審神者のことだ、怒りに任せて這って出てきたはいいが、途中で潰れているに違いない。

2015-03-05 22:09:16
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

ならばそのまま眺めのいい縁側で、爺2人で茶でもしばこうではないか。棚に並んだ茶菓子の種類を思い起こしながら、鶴丸は僅かに眉をしかめて、唇を震わせた。ああ、くそ、今日の茶は少しばかり、苦くなりそうだ。「“鶴”より先に死ぬ“亀”なんざ、縁起が良くねぇだろうがよ」

2015-03-05 22:14:06
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

呟いた言葉は、春の空気に溶けていった。【完】

2015-03-05 22:14:38
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

何で番審神者は鶴丸を折るのかって!?銀魂理論で自分を看取らせたくないからだよ!!だから鶴丸に「鶴より先に死んじゃぁ縁起が悪くてしょうがねぇ。だから折るぞ」って言ってるんだよ!!鶴丸も鶴丸で、二度と墓から掘り起こされたくないレベルで惚れ込んでるから、「ああ、了解したぜ」って

2015-03-05 22:18:11
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

からから笑って了承するんだよ!!もうこれ死ぬしかないよね!!運悪くそこに居合わせた太郎がだばだば涙流してぐすぐすしても仕方ないよね!!「あ”、あ”る”じばっ!!ながい”ぎずる”ん”でず!!!!」って駄々こねても笑い話にしかならないよね!!

2015-03-05 22:20:34
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

婆審神者と太郎太刀とか良くないっすか!良くないっすか!!!!!!!!!!! #自分にプレゼン

2015-03-23 21:52:45
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

後は番審神者のとこの太郎太刀を引き取った婆審神者かなー。番のお陰で家族が助かったとかで自分から志願してきた珍しいタイプの人。初対面の時、太郎の手を握り締めてただただありがとうと泣いた。

2015-03-27 17:08:23
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

やや心労でやつれた顔に多大な安堵を滲ませたその老女は、眼前に立つ太郎太刀の手を細い両手握りしめてありがとう、と呟いた。ありがとう、ありがとう。あなたの、あなた達のお陰で。あの子すっごく綺麗だった。諦めていた夢の続きを見せてもらった。一番の幸せを、与えて貰った。

2015-03-27 17:15:20
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

だから私は、恩返しをしに来たの。もう、先も長くないおばあちゃんだけど、残りの人生全部あなたにあげるから。あなたの幸せの為に使ってやって頂戴。「これから、よろしくねぇ」ただでさえ皺だらけの顔を更にしわくちゃにして、ぼろぼろと涙を流してそう言うものだから。そんな事、言うものだから。

2015-03-27 17:21:22
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

「では……いつか、貴女の一番の宝を、見せて頂けますか」まだ幸せというものを理解しきれていないので、貴女が教えて下さい。などと嘯いて、太郎太刀は老女の手に己の手を重ねた。太郎太刀らにとってただの結果に過ぎなかったそれにわざわざ恩を感じて、名乗りを上げて。こうして会いに来てくれた

2015-03-27 17:30:10
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

老女の手は、太郎太刀が想像していた通りにかさついていて、それでいて沁みるような暖かさを持っていた。「しゃしん、と言うのでしたか。それも是非、見せて頂きたいものです」前の主の元で、一度だけ写り込んだそれが、時を切り取るものだと太郎太刀は知っている。この老女が、長い生の中で最も綺麗だ

2015-03-27 17:34:55
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

と言うのならば、それはそれは美しく、綺麗なものなのだろうと。想像するだけで、その暖かさに頬が緩む。「よろしくお願いしますね」力の強い己が傷つけてしまわぬようそっと手のひらに力を込めて、視線を合わせて老女に告げる。数瞬、惚けた表情を浮かべていた老女はややもあって、溶けるように笑みを

2015-03-27 17:43:11
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

浮かべた。「お婿さんに、負けないように言っておかなきゃねぇ」「何故ですか?」首を傾げた太郎太刀に、老女はくすくすと笑い声を漏らす。「あなたは気にしなくて構いませんよ」「そう、でしょうか」「はい」「そういうものですか」「そういうものです」ふふっ、と笑い声が重なった。

2015-03-27 17:48:42
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

太郎を近侍として婆審神者のとこも大所帯になってそして番審神者のとこと同じように近侍だけを残してまた新たな審神者の元に送り出すんだよね。がらんとした本丸で太郎と二人で静かに暮らすの。老女が亡くなる時にはその側で「共に死ぬ幸せというものを、理解できました」って鶴丸たち思い浮かべてる。

2015-03-27 18:06:32
人権ゾンビ@1日1,000字で人権 @ikami68

鶴丸は愛した男からの傷を大事に抱えて朽ちていったけど、太郎は老女の意向もあって彼女の家族に刀の状態で渡される。「守って、とは言わないわ。ただ、約束だったでしょう?私の一番を見せるって」そう言って死の間際でさえ美しく笑って見せた老女に、太郎太刀はそれが嘘だとついぞ言い出せなかった。

2015-03-27 18:13:18