或黒髭の肖像

FGOSS。夢注意。賞味期限11月初頭迄。
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里村邦彦 @SaTMRa

クソヒゲSSをかかねばならぬ。仕事が上がったらか。

2015-10-13 12:28:31
里村邦彦 @SaTMRa

だってねえ。スケブかいてくだち、とか言われても困るじゃないか。このダ・ヴィンチちゃんがいかに気安く優しい万能の天才お姉さんであるからといって、だよ。いや、だからこそだよ。言っちゃあ悪いが彼は、そういうセンスがあるようには見えないもの。どうだろうね、「ぐだ子」くん。君、心当たりは。

2015-10-13 20:15:40
里村邦彦 @SaTMRa

「ぐだ子」は極め付けの変人であった。変態的美追求の果てにいるようなかの天才がそう評するのだから相当で、今や救世主のような立場でありながら自分を気安くそのように呼べと繰り返すのである。本名で呼ばれることはついぞなく、呼べば必ず訂正するが、豚だの安珍だのは受け入れる。正気ではない。

2015-10-13 20:18:09
里村邦彦 @SaTMRa

「ぐだ子」はこの人類史最後の砦たるカルデア唯一無二の戦力であり、数十の英霊を従える規格外であり、当然ダ・ヴィンチちゃんを困らせた不届きもののマスターでもある。不届きものの名をエドワード・ティーチ、通称黒髭。歴史に知れたカリブの海賊。その名も高き海賊王。であった。生前は。

2015-10-13 20:20:40
里村邦彦 @SaTMRa

今はといえばキモオタであり、絵に描いたようなキモオタであり、与えられた私室は複製装置(デュプリケイター)製の漫画アニメソフトフィギュアゲームなどで埋め尽くされており、定期的に二千年代初頭秋葉原へのレイシフトを申請しては却下され、日本橋と書いてぐだ子に殴られる日々を過ごしている。

2015-10-13 20:23:10
里村邦彦 @SaTMRa

ねえ君(ダ・ヴィンチは少なくとも「ぐだ子」の呼び名を好まなかった)。君はアレのマスターなんだから、思い当たることくらいないのかい。「ぐだ子」は知ったことかあんなキモオタと応じ、はなから期待していなかった天才もそこで落とし所とした。会話は打ち切られた。心当たりはあった。

2015-10-13 20:25:43
里村邦彦 @SaTMRa

夢。夢を見ていた。凍てつく北の閉ざされた海から、西へ。西へ。南へ。新天地へ。未だ誰も知らぬ海へ。辿り着くためなら何でもやった。人の命は金貨で贖えた。金貨は剣と火縄で贖えた。掲げた旗には髑髏がはためく。掠め取れば賞賛された。切り取れば誉れとなった。すなわち海賊は英雄だった。

2015-10-13 20:30:15
里村邦彦 @SaTMRa

海を行くことには天稟があった。荒事は性にあっていた。伸ばした黒髭は、荒くれ者によく似合った。焼ける火縄を編込めば、まさに鬼神のようだった。戦は果て無く、火縄のごとく燻る戦火に、海賊黒髭はよく映えた。戦は果てないと思われた。いずれは己の船、船団、そして英雄。遠くない夢の海があった。

2015-10-13 20:33:35
里村邦彦 @SaTMRa

恩赦の一言がすべてを帳消しにした。海賊はもはや増えすぎていた。英雄の名は遠のいた。編み上げた鬼の黒髭、どこにいくにも持て余す。海を行く、奪い取る、気付けばそれだけが残されていた。そうして、海賊・黒髭が生まれた。鬼と呼ばれた。悪魔と呼ばれた。命を奪い、金という金を奪い去った。

2015-10-13 20:35:56
里村邦彦 @SaTMRa

俺を忘れぬためといい、部下を殺した。地獄はここだといい、船倉に火を放った。殺し、奪い、海原を地獄とすること。それだけが黒髭の有り様だった。寄る辺はない、港はない、海賊の楽園は奪われた。海賊の誉れは地に落ちた。戦の火を孕んだ鬼の黒髭は、ただただ鬼の黒髭であり続けた。処刑の日までだ。

2015-10-13 20:39:03
里村邦彦 @SaTMRa

ひとつだけ心残りがある。起こした気まぐれの理由がある。ある船を襲った日のことだ。船には画家が乗っていた。画家は絵を描く。絵は売れる。親分、こいつは金の卵を産む鵞鳥じゃねえですか。飼ってみるのは如何ですか。金になるなら是非はない。一枚描けと銃を突きつけた。画家は平然と描き上げた。

2015-10-13 20:41:15
里村邦彦 @SaTMRa

木炭が刷り出したのは女の絵だった。女神の絵だった。浮世離れした、現のものでない、海賊に脅されながら描いたものとも思えない絵だった。視線は空を仰いでいた。地上を見ようともしていない女神の絵だった。荒くれ者どもは嘲笑した。こんな女がどこにいるかと。親分、期待はずれだ、殺しましょうと。

2015-10-13 20:43:28
里村邦彦 @SaTMRa

黒髭は手下を一人撃ち殺し、船を放免した。なんだ、親分はあんな女が好みなのかい。噂を消そうとも思わなかった。折りたたんだカンバスを折を見て広げた。地上のものでない女の絵だった。寄る辺のない、絵空事のような女の絵だった。おそらく、一文にもならぬ手遊びだった。御伽噺の海賊に似ていた。

2015-10-13 20:45:33
里村邦彦 @SaTMRa

悔いはあった。他に悔いようもなかった。もし己が、誰の得にもならない、己の為でもない、ただただ海賊・黒髭であり続けるような、奇怪な生き方をしたのなら。陸の気取った貴族様のように、この使うあてもない、食い潰されていくばかりの金貨を、あの女の絵を描かせる為に遣って仕舞えば良かったとーー

2015-10-13 20:49:57
里村邦彦 @SaTMRa

「ぐだ子」が同床同夢から覚めた後、まずしたことは黒髭を数発張り倒すことだった。ツンデレだの暴力系だのと言われたのでさらに数発張り倒したあと、ダヴィンチの名を挙げたのも「ぐだ子」であった。そんなことだから、彼女はもっと俗ぽい画家英霊が来ないかと、未だ時折気にしているのである。

2015-10-13 20:52:57