ニンジャカタナ 『Location No.93』 #1

@Fw009による小説『ニンジャカタナ』 『Location No.93』 #1まとめです。 連載中アカウント @NJkatana 続きを読む
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ニンジャカタナ! @NJkatana

無数の星の光が輝く夜空。その夜空の下に広がるのは、どこまでも続く海とその海面から幽鬼のように突き出たビル群だ。かつて栄えた偉大な文明の遺産も、数百年ぶりに陽の光の下に出てみれば、以前の小奇麗な姿は見る影もなく朽ち果て、むしろ原型を留めていることに喝采を送られるのが現状である。1

2015-09-26 23:59:49
ニンジャカタナ! @NJkatana

最も近いコロニーからでも100kmは離れているこのエリアで、代わり映えしない夜空を熱心に見つめる人の姿があった。「追われてる……?」呟きと呼べる程度の大きさで漏れ出た声からは、その人影がまだ年若い少女であることが伺えた。2

2015-09-27 00:43:55
ニンジャカタナ! @NJkatana

その少女は、ひび割れたコンクリートと、錆の浮いた水だけのこの場所では珍しい、木材で出来た足場の上で、食い入るように夜空の一点を見つめていた。「……落ちる」少女の声とほぼ同時、彼女の視線の先で、幾つかの閃光が爆ぜた。その少し下、闇の中に薄っすらと緑色の光が尾を引いて落下していく。3

2015-09-27 01:08:02
ニンジャカタナ! @NJkatana

閃光が消え、再び星空と月明かりだけとなった夜空の中、星の光を遮って複数の船影が横切って行くのを少女は確認した。船影は二度空中で旋回した後、そのまま北西の方角へと飛び去っていく。船影の離脱を確認した少女は、僅かに笑みを浮かべ、傍に置かれたホルスターを無造作に掴みながら踵を返した。4

2015-09-27 23:10:30
ニンジャカタナ! @NJkatana

少女はホルスターを腰に巻きながら、薄明かりの灯る通路を奥へと向かう。錆びた金属柱や真鍮製のパイプを横へ押しやり、今にも沈みそうな船が浮ぶ桟橋へと辿り着く。(どちらでもいいけれど、死んでいてくれたほうが剥ぐのは楽ね)少女は再び笑うと、そのまま漆黒の夜の海へと漕ぎ出していった……。5

2015-09-27 23:40:55
ニンジャカタナ! @NJkatana

少女が閃光を目撃する少し前。カタナはこのエリア最大の遺構、廃ビル郡の中でひときわ巨大な塔の姿をその目に捉えていた。『カタナ、こちらの網で捕捉しました。最も大型の船で5000オーバー。今そちらに向かっているのは彼らの基幹艦隊です』カタナの耳に、緊迫した様子の少年の声が響く。7

2015-09-28 22:37:57
ニンジャカタナ! @NJkatana

「本気か?こんな片田舎までよくやるよ」カタナは心底辟易したように言った。彼らと戦闘となってから既に5日。その間カタナは一度も休息を取っていない。目的地まで目と鼻の先というこのタイミングでの彼らの本隊投入は、疲弊したカタナにとっては悪夢以外の何者でもなかった。8

2015-09-28 22:49:47
ニンジャカタナ! @NJkatana

無人の高層ビル郡を蛍光緑の残光を残して滑るように飛ぶカタナ。眼前に迫る巨大なビルの壁面を片足で蹴り飛ばし、角度を変えつつ再び数十メートルの高度を得る。ビルの更に上へと飛び上がったカタナは、風を受けた凧のように滞空すると、来た方角から複数の物体が高速で接近しているのを視認した。9

2015-09-28 23:02:30
ニンジャカタナ! @NJkatana

『基幹艦隊との距離はまだかなりあります。今なら撤退……』「する気なし!それに、あいつらも俺をこのままにしちゃおかないだろ」カタナに迫る敵の姿が夜の空に浮かび上がる。明らかに慣性や抵抗を完全に無視した変則的な機動。鈍色の人工物は急加速すると左右に分かれてカタナに襲いかかった。10

2015-09-28 23:35:40
ニンジャカタナ! @NJkatana

敵意に反応するようにカタナの黒い装甲に幾筋もの緑光が奔り、周囲を漂う発光が激しく明滅する。左右からの挟撃がカタナに到達するよりも早く、彼は右手に握ったブレードを振り抜いていた。ブレードの緑光が光跡を描いて挟撃を弾くと、斬撃の勢いでカタナは更に上空へ跳躍。敵対者と距離を取る。11

2015-09-28 23:55:19
ニンジャカタナ! @NJkatana

斬撃を受けた2機に目立った損傷はない。2機は衝撃で空中を滑るように後退するが、慣性を感じさせない機動でカタナの居る上空へと跳ね上がり、即体当たりを仕掛ける。重火器の類を搭載せず、強固な装甲と高い機動性で本体そのものを自律誘導型の質量兵器として利用する、理に適った兵器と言えた。12

2015-09-29 00:16:33
ニンジャカタナ! @NJkatana

1つでも軽く1トンを越える巨大な質量。それを2機正面からブレードで受け止めたカタナの視界に映るビル郡が高速で遠のいていく。ブレードに吸い付いたように離れない2機は、カタナを加速と風圧で拘束すると、空中で歪な方向転換を行い、今度は一直線にビル群の一つへ諸共叩きつける機動に入る。13

2015-09-29 16:46:14
ニンジャカタナ! @NJkatana

しかし2機の攻撃はそこで終わる。カタナの初撃、斬撃によって中空に描いた正円の光跡は消滅すること無くその場に滞空していた。その光跡はビル群へと高速で反転するカタナと2機の敵性物体を捕捉。まるで自ら意思を持つかのように移動すると、すれ違い様にカタナに張り付く2機のみを両断した。14

2015-09-29 16:53:20
ニンジャカタナ! @NJkatana

両断された2機は装甲内部の金属パーツと、動力らしき粒子を撒き散らしながら激しく爆発する。爆発の衝撃で後方へと押し出されたカタナの周囲に先程の光跡、今は緑色の発光体となった光がじゃれつくようにカタナの周囲を渦巻いていく。緑光に手を添えると、マスクの下でカタナは大きく息を吐いた。15

2015-09-29 23:17:31
ニンジャカタナ! @NJkatana

カタナは明らかに疲弊していた。彼の思考は次の敵への対処に流れる。それが油断となった。「なんだこれ!?」先程の爆発で生じた粉塵はカタナの周囲で固定されていた。カタナは脱出を試みるが、周囲の空間には傷一つ付けることが出来ない。彼を嘲笑うように、辺りに【封】の文字が無数に出現する。16

2015-09-29 23:49:12
ニンジャカタナ! @NJkatana

『カタナ!回避してください!そちらに超高速で接近する飛翔物体があります!ミサイルですよ!ミサイル!数は20!』少年の叫び声が響く。カタナを捕えたトラップ自体は数十秒もあれば突破出来るものだとわかった。だが、カタナの目は既に彼めがけて一直線に迫る大量のミサイルを視認していた。17

2015-09-29 23:56:26
ニンジャカタナ! @NJkatana

(20発全部別の弾頭かよ!)500年続いた全球凍結で、数百を越える技術体系に枝分かれした世界。敵対者の持つ未知の防御手段を特定することは戦闘での最重要課題だ。だがそれが不明であれば?眼前に迫るミサイル、異なる弾頭の攻撃手段は果たして魔法か?科学か?それとも超能力か?18

2015-09-30 00:14:55
ニンジャカタナ! @NJkatana

『早く回避してくださいっ!』「無理だ!捕まった!カーヤ、3日経っても俺から連絡が無かったらそのまま帰れ!じゃあな!」『え、ちょっと!カタナ!』カタナは被弾した際に最もダメージが大きい<呪い>を防ぐ緑光を展開、ブレードを構えて防御姿勢。――瞬間、複数の光が夜の空に爆ぜた――。19

2015-09-30 00:35:49
ニンジャカタナ! @NJkatana

「反応、消失しました!」周辺の地形情報を映し出す巨大なスクリーン上から、複数の光点が消滅した。端末からの反射光に青く照らされたブリッジクルーの表情に安堵の色が浮かぶ。「状況を確認。高速艇を現地へ派遣する」ブリッジ中央に座る壮年の男が、弛緩した場を引き締めるように指示を飛ばす。21

2015-09-30 22:31:44
ニンジャカタナ! @NJkatana

「本当にニンジャを仕留めたとなれば、キアラン将軍の名は軍事教科書に載りますね」男の横に立つ若い男が無感情に告げる。「俺達の手柄ではない。奴を休ませず、常に戦闘データを送信し続けた先遣隊の働きが全てだ」キアランと呼ばれた男は、溜息をついて椅子に深く腰を落とすと、表情を曇らせた。22

2015-09-30 22:59:14
ニンジャカタナ! @NJkatana

「先遣隊所属の艦艇78隻は全滅。先遣隊に同行していた上級戦闘員6名も、全員消息不明です」副官は無感情に損害を報告する。もういいとばかりに副官を片手で制止すると、キアランは再度指示を出した。「調査の高速艇に伝えろ。深追いはするな。奴がすぐに反撃出来ないことを確認できればいい」23

2015-09-30 23:21:08
ニンジャカタナ! @NJkatana

『総員、集中!我々の目的はあくまで93番コロニーの調査と最重要目標の確保である!最早、我が艦隊の任務遂行を阻む者はいない!高速艇を回収後、速やかにコロニーへの揚陸を開始する!』広大な夜空、星の光を金属の船体に反射させながら、総勢500隻を越える大艦隊にキアランの声が響く。24

2015-09-30 23:34:21