ニンジャカタナ 『Location No.93』 #4

@Fw009による小説ニンジャカタナ 『Location No.93』の#4まとめです。 連載中アカウント @NJkatana 続きを読む
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ニンジャカタナ! @NJkatana

93番コロニー上空で続く戦闘は未だ激戦の最中にあった。第二基幹艦隊は艦艇総数528隻。艦載機の総数は2000を数える。そしてその大艦隊と相対する無数のドローン。双方総力戦の様相を見せる激しい戦場。その片隅で一隻の船が沈没した。それは愚かにも戦場に飛び込んだ盗人の末路だろうか?1

2015-10-17 12:06:42
ニンジャカタナ! @NJkatana

そうではなかった。錆びついた船が自らの沈没と引き換えに周囲に放出した銀色の金属片は、船を包囲した戦闘艇とそれを追撃するドローンの双方の機器を撹乱。そして双方がその混乱から脱するよりも早く、未だ爆発の余波で渦を巻く海中から、激しい水柱と共に茜色に輝く鋼鉄の機械人形が現れたのだ。2

2015-10-17 12:08:36
ニンジャカタナ! @NJkatana

水流を弾きながら滞空する全長7mほどの機械人形。そしてその背にずぶ濡れになりながら片手でしがみつくのはカタナだ。吹き上がる水柱を背に、ホバリングするように一度旋回した機械人形は、その単眼でコロニー中央部の方向を確認すると、背後のスラスターノズルから大量の白煙を放出して加速した。3

2015-10-17 12:17:02
ニンジャカタナ! @NJkatana

「うおわー……!」ドップラー効果を残して遠ざかるカタナの悲鳴。機械人形が飛行した後方で水柱が爆発する。連合の戦闘艇はすぐさま追撃を試みるが、未だ滞空し続ける金属片によって姿勢制御すらままならない。遠ざかる機械人形を見送るように、沈みゆく曳航船のクレーンが静かに海面で揺れていた。4

2015-10-17 12:29:18
ニンジャカタナ! @NJkatana

「目標、撃沈――い、いえ!これは、波長妨害です!B24編隊周辺への魔力送信、断絶!」夜明けの日差しが東から一斉に差し込む連合艦隊ブリッジ。リーゼ達の船に攻撃を仕掛けた戦闘艇の一隊をモニタリングしていたブリッジクルーが声を上げた。「稼働用以外の魔力送信も、全て撹乱されています!」6

2015-10-17 16:34:30
ニンジャカタナ! @NJkatana

「落ち着け!目標の消失確認を急げ!目視で構わん!送信方式を魔力から二次元電信に切り替え!最低限の連絡ができればいい!」数時間の仮眠から指揮に戻り、丁度目の前に出された朝食をとろうというところであったキアランは、片手に食べかけの固形糧食を握りしめたまま声を荒げて指揮を飛ばす。7

2015-10-17 16:49:04
ニンジャカタナ! @NJkatana

全球凍結時に各コロニーが生み出した多次元技術の総称を『多元連結機関』と呼ぶ。この機関の仕組みは基本的に同じだ。人類が認識している次元に存在する物質を一度別次元へと転移させ、再度この次元へと還元することで多大なエネルギーを得る。現在のコロニー技術はほぼ全てこの解釈で説明が可能だ。8

2015-10-17 17:12:52
ニンジャカタナ! @NJkatana

誤解を恐れずに言えば、各コロニーで違うのはどの次元を通過させるかだけだ。どの次元を通過させるかによって「魔力」「超能力」「呪術」のように呼称と特性とが分類される。だがこの技術にはすべからく共通のキーとなる『パーツ』が必要となる。そのパーツとは『多次元認識能力を持った生命体』だ。9

2015-10-17 17:19:16
ニンジャカタナ! @NJkatana

多くのコロニーでこのパーツの役目を果たすのは訓練を受けた人類だ。当初は個々人の素質に依存していた多次元認識能力は、その後の研究で訓練次第で誰でも発達させることが可能となっていた。だがいかに後天的に習得可能とはいえ向き不向きは存在する。どうしてもその能力に優劣が生じる。10

2015-10-17 17:44:47
ニンジャカタナ! @NJkatana

そこで連合は優れた認識能力を持つ者が得た多元エネルギーを、母艦や拠点から遠隔で活動する艦艇や兵士に送信する技術を開発した。これによって優れた認識能力を持つ人材を多数確保する必要がなくなったばかりか、訓練や教育のコストを省き、各分野のスペシャリスト育成を可能としたのだ。11

2015-10-17 20:02:53
ニンジャカタナ! @NJkatana

今この瞬間、彼らが戦場の片隅で撹乱されたのはこのエネルギー送信だ。更に悪いことに、連合艦隊の戦闘艇はエネルギー送信用の帯域に対象の戦闘艇との通信機能をも組み合わせている。エネルギー送信を撹乱されれば、エネルギーの供給だけでなく現地状況の確認や連絡も覚束なくなってしまう。12

2015-10-17 20:15:56
ニンジャカタナ! @NJkatana

彼らとて決して撹乱される可能性を考えなかったわけではない。その証左として、全ての連合艦艇は複数のエネルギーを動力として利用できるよう設計されている。ある時は魔力、ある時は呪術と、彼らの利用するエネルギーは臨機応変に変化する。それは連合と対する全ての勢力にとって最大の脅威だ。13

2015-10-17 20:19:52
ニンジャカタナ! @NJkatana

「まさかとは思いますが、機体を解析されていたのでは」キアランの隣に立つ副官が言う。「不可能だ。時間が足りん」そこまで言ってキアランはあることに思い当たる。「そういえば……我々がここに来る以前に、艦隊の動力を知る機会のあった者が居たな」「直近……まさか」「ああ――奴だ」14

2015-10-18 02:03:06
ニンジャカタナ! @NJkatana

「船外モニター切り替え!拡大します!」ブリッジ前面のモニターに問題のエリアが映し出される。渦を巻く波、滞空したまま行動不能となり同じ動きを繰り返すドローン。機体の前面ハッチを開き、身を乗り出して船外の様子を確認する連合のパイロット。そして――突如として吹き上がる水柱だ。15

2015-10-18 11:04:18
ニンジャカタナ! @NJkatana

「なんだ、あれは」その様子にキアランは眉間に皺を寄せる。吹き上がった巨大な水柱から、茜色に輝く機械人形が出現したのだ。目の前の出来事に困惑し倒れこむパイロット。だが、キアランだけはその映像に別の痕跡を探していた。「恐らく、あの船に積まれていたのだと考えられますが――将軍!」16

2015-10-18 11:13:58
ニンジャカタナ! @NJkatana

副官は思わず彼としてはとても珍しい大声を上げた。キアランもまた苦虫を噛み潰したような表情となる。その機械人形の背にしがみつく人影をその目で捉えたからだ。ズタズタになったコンバットスーツと左手で握る漆黒のブレード。顕になった蒼い髪とその顔は、彼らが持つデータと完全に一致した。17

2015-10-18 11:22:03
ニンジャカタナ! @NJkatana

「ニンジャ……やはり生きていたか……」重々しい口調でキアランは言った。モニターには困惑するパイロットと未だ動けぬドローンを置き去りに、凄まじい速度でコロニー中央へと向かって加速する機械人形が映っていた。遠隔からのモニタリングではその加速に追随することが出来ぬほどの機動だ。18

2015-10-18 11:25:42
ニンジャカタナ! @NJkatana

「B24編隊のパイロットに伝達!機体はその場で放棄。ドローン再起動前に早急に脱出しろ!状況収拾後迎えの船を出す。火気管制!潜行弾の装填は出来ているな?目標は新たに出現した所属不明の機動物体だ。初撃の対応を確認後、全弾発射しろ!」停滞は一瞬だった。キアランは即座に最適解を導く。19

2015-10-18 11:33:21
ニンジャカタナ! @NJkatana

「生きているにしても、数日は動かないと踏んでいたが……」キアランは一息に指揮を出すと、両手を指揮机に置いて呟く。「やはり、ニンジャの力は侮れないということでしょうか」副官は机上に出されたままの朝食を一度下げながら言う。「それもある。だが問題はあの機械人形だ。奴に協力者がいる」20

2015-10-18 11:42:35
ニンジャカタナ! @NJkatana

まず大原則として、神として連合に君臨する盟父からの勅命は絶対だ。あらゆる不確定要素を排除し、確実に達成しなくてはならない。先程の盗掘船にしても、キアランはドローンがその存在をまるで素通りさせているかのような事実を見過ごさなかった。多少の無理はしたが、その読みは正しかったのだ。21

2015-10-18 12:07:30
ニンジャカタナ! @NJkatana

連合は過去幾度となくニンジャと遭遇している。それが全て同一人物なのかは連合の情報網を持ってしても定かではない。そもそも、ニンジャの存在とその痕跡は世界各地のコロニーで確認されていた。それも――各コロニーが分厚い氷層によって隔離され、お互いの行き来も連絡も出来なかった頃からだ。22

2015-10-18 12:15:15
ニンジャカタナ! @NJkatana

記録の中のニンジャは、恐るべき力で破滅をもたらしたかと思えば、何くわぬ顔でコロニーに溶け込み、ある日突然邪悪な本性を剥き出しにして災厄を撒き散らしたとも言われている。不思議なことに、ニンジャの記録は過去に遡れば遡るほど詳細になり、現代に近づくほど朧げになって途絶えていく。23

2015-10-18 12:19:36
ニンジャカタナ! @NJkatana

共通するのは、ニンジャは常にその体に緑色の発光体を纏っていたということだ。ニンジャの力がその発光体に依っていることは記録を辿るまでもなく明らかだった。だが、多次元にその認識を広げ、無数の技術革新を経た今ですら、ニンジャの持つその力の原理は一切解明出来ていない。24

2015-10-18 12:26:01