#春夏秋冬紅茶店 スズリと老婦人の話

空想の街に参加予定 #春夏秋冬紅茶店 の新キャラクタースズリの話です。
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佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

男の子の瞳は老婦人とそっくりで、匂いも似ていた。それでもう十分だった。ハンカチを拾うと老婦人が駆け寄る。 「な、何かいたのかい」 「まぁ。ハンカチは」 「なんだハンカチかい」 窓辺にはラベンダーが無造作に置かれていた。 「ラベンダー。季節外れだね」 老婦人は呟く。#春夏秋冬紅茶店

2015-10-23 23:11:05
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「私は匂いが良すぎて苦手ですね、これ」 スズリは鼻を押さえる。 「珍しいね、あんた。相当変わっている感じがするよ。ラベンダーは匂いが良くて役に立つだけでもないんだ。花言葉も綺麗で」 「花言葉?」 「あぁ、そうだよ」 あなたを待っています、期待という意味がある。#春夏秋冬紅茶店

2015-10-23 23:14:57
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

老婦人は説明すると、唇を引き結んだ。 「わ、悪いが気分が良くない。帰っておくれ」 「え? まぁいいですけど」 「すまないね。紅茶店の若夫婦によろしくと伝えておくれ」 スズリは紅茶を最後まで飲みきり、家を出る際、こう言った。 「こんど、人を連れてきても良いですか?」#春夏秋冬紅茶店

2015-10-23 23:19:11
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「また来るのかい!」 声をあげた老婦人にスズリはあくまで澄まして、上品に言った。 「えぇ、あなたが喜ぶ相手ですよ。期待して下さい」 「訳の分からないことを言うねぇ」 老婦人はぶつくさと言いながら部屋の奥でラベンダーを飾りつけた。 それを見届けて、スズリは家を出る。#春夏秋冬紅茶店

2015-10-23 23:22:56
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

スズリは家族がどんなものであり、どんなことをすれば成立するのか知らないし、分からない。でも互いに思い合っていて、花言葉に意味を仕込むくらいめんどくさいことをするのなら、一度会って。 「やり直せるか、試してみても良い」 それが回りくどいことが嫌いなスズリのやり方だ。#春夏秋冬紅茶店

2015-10-23 23:26:30
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

手がかりは幸いスズリの手の中にある。 風向きは西向き、穏やかに拭いている。その中に子どもの匂いも混じっている。 とん、と壁を蹴り、行儀が悪いが屋根の上にのぼっていく。 こっちの方が、障害物が少なくて走りやすい。 スズリは不敵な笑みを浮かべる。 「逃がさないよ」 #春夏秋冬紅茶店

2015-10-23 23:30:50
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

少女は駆ける。狼の血を継いだ、たぐいまれなる健脚で。 匂いを辿り、子どもを探す。 夕日はそんな彼女を、紅い光で照らしていた。 ハッピーエンドは遠くなかった。 もう一時間で見つかりそうだった。 それが十日前まで盗賊だったスズリの、やりたいことだった。 おわり #春夏秋冬紅茶店

2015-10-23 23:39:37

スズリは10代後半。
夫婦は20代中頃です。