空想の街・ハンツピィ'15 一日目 #赤風車

#空想の街 ( http://www4.atwiki.jp/fancytwon/ )ハンツピィの宴一日日(15/10/24) #赤風車 纏め。 過去本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 公式様参加者様、お疲れ様でした。有難うございました。何か御座いましたらご一報頂けると幸いです。 (皆さんのまとめを随時おすすめ設定させて頂く予定です)
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不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

――どこからか荒く呼吸を繰り返す音が聞こえ、静寂をじわじわと破りにくる。 遠かったそれが次第に大きく近くなったあたりで、初めてふたりの眉が僅かに寄った。玄関に呼吸が到着する寸前に実華がモップトップヘアを舞わせて首をくるりと外へ向ける。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:10:47
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

「じっかさぁん! もう、いっつも先に行っちゃうんだから」 薄い水色の靄の中、情けなく叫びをあげながら、実華に次いで顔を覗かせたのは年齢不詳の男であった。濃い焦げ茶のスーツを纏い、瑪瑙のついた立派なループタイで首元を飾っている。育ちのよさそうな雰囲気だ。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:16:43
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「遅いぞ洸太郎」男に向かって小鼻を膨らませた実華が言い放つ。 「遅いぞって、実華さんが、速いんだって、もう」余程走ったのだろう、洸太郎と呼ばれた男は乱れた息を直し、散らかった部屋の中心で座る実華の下の一文字を見つける。そして慌てたように頭をぺこりとさげた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:18:31
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お前なら直ぐ来ると思ったから飛ばしたんだろう、という実華の声が流れる。二十にも四十にも見える、好々爺然とした笑顔が一文字へ口を開いた。「いきなり上がり込んじゃってごめんね。ぼくは洸太郎――実華さんの婿だよ。その、煙とか戸とかごめんね、鬘はぼくが処分するから」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:18:59
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突然現れたかつての友人である、徒華の姉夫婦に、一文字はそこでやっと瞼を瞬かせた。 聞く耳持たずでどっかりと座り込んだままの実華の隣で、洸太郎は必死に手を動かし煙を外へ逃がそうとしている。益体もない、と一文字が眺めていると、彼は肩を落としすごすご戻ってきた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:24:45
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戸も煙も実華もどうにもならないと気づいたらしく、洸太郎はまた困ったように情けなく、申し訳なさそうな顔を、実華と戸の下敷きになった一文字に向けてきた。その表情が、綿のように柔らかそうな髪と相俟って非常に穏やかな印象を醸し出していた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:26:04
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「あぁっと危ない、灰はここに入れようね。ぼくが持ってるから」 「助かる。流石だな私の愛する夫は――さァて! 話が逸れたが」革の小さなトランクから、すっと小さな携帯灰皿を差し出した洸太郎を脇に控えさせ、実華はまたも黒目を鋭く光らせて一文字を見据えた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:28:06
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形の整いすぎている、紅さえ引いていない赤い唇が悠然と言葉を紡ぐ。「あの愚妹と何を話した。何を突き付けた?」 はたして一文字は、ごく微かに笑っただけであった。対する実華は笑顔のままだ。「俺はお節介にも背を押したまでだが。余計な世話だったことは重々承知だよ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:30:10
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「だったらもう少ししおらしくしたらどうだ? 名乗ったばかりだがお忘れかな。私はあれの保護者なんだぞ」 「これは失礼した。これでも反省しているよ――併し泰然自若と評判の長姉殿が何を気にしている? まさかとは思うがあの娘、辻姫にでもなったかね」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:31:51
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「は!」 突然張りのある声で高らかに笑った実華は、真後ろに控えていた洸太郎のほうを心底おかしそうに振り返った。「おい洸太郎よ、面白いだろう、なんという物言いだ、私は笑いが止まらんよ! これで煙草を吸わんままでいられるか!」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:33:09
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「そうだねぇ」対する洸太郎のほうは、妻の態度にはもう慣れているのだろうが、一文字の発言の所為かその童顔が若干曇っている。顔面を地面へ向けると、愈々もって年齢が分からない。 一文字はただ、来訪者ふたりのそんな様子を奇妙なほどひっそりと見続けていた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:34:45
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実華が言う。「あーの妹が心を許して通うものだから気になっていたんだがな、会いに来て正解だった――あァ一文字某、どうか気を悪くするなよ。外に出るのが私自身久方ぶりでな、どうにも浮かれてしまってしようがないんだ。あんな窮屈な場所に齧りついているのも体に毒だな!」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:36:13
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同意だが声に出さず、一文字は一年ほど前まで自身も暮らしていた遠い小さな町を思い返した。ここ空想の街と同じように、山も海も人もいたが、あの場所はこの街にあるものが欠けていた。あんな場所によくも長くいたものだと自分自身を顧みたところで実華が話の続きを舌に載せる。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:37:47
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「ま、詳細までは首をつっこまないでおいてやろうじゃないか。そうは見えんかもしれんが今私は非常に機嫌が悪いんだ、よって私をいい気にさせて帰そうという貴様の考えはお見通しの上無駄だと言わせてもらう!太平楽な男色家殿と愚妹の遣り取りなど聞いて笑顔になれる筈がない」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:39:11
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「男色家男色家と先から煩いね。そんなに長姉殿はその言葉がお好きか」 ――実を言うと気に障った部分はそこではないのだが――、一文字もとうとう眉を絞って口を挟む。実華は上品に笑むとまた指先で優雅に灰を落とした。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:40:18
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「おや。私は間違っていないはずだがおかしいな、真実なのに何を怒ることがあるんだ? それとも――真実だから怒るのか」 ふたりの間で、数秒通う視線に何かが伝った。 「……いいや。流れを切ってすまなんだ。長姉殿は何も間違ってはおらぬよ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:42:16
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一文字はそこで寝起きの細い目を更に薄くして、洸太郎へ目配せする。「但し俺は随分な節操なしでね、何分若いものだから飢えて仕方がないのだ、そこにいるお主の婿殿なんか丁度いいと思ってな。手を出しても宜しいかね」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:43:07
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急に話の矛先を向けられ、話題の中心となった洸太郎が、豆鉄砲を食らった鳩のように円らな瞳をくるくると動かす。 肝心の実華は一文字に睨まれたまま抱腹絶倒しているのみだ。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:44:03
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「私の自慢の夫だ、男から見ても審美眼に適ったのなら鼻が高い! ――いいだろう。やれるものならやってみろ、私の監視の網を掻い潜ってな!」居丈高に実華は言い切ると、そこでまた煙草をふかした。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:45:18
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

「……恐ろしくてかなわんよ。前言撤回させて頂こう」 台詞とは裏腹に落ち着いた一文字の様子に、賢いなァ、と一言、実華はそれこそ花が咲きこぼれるように笑った。潔く刈り上げられた耳の後ろあたりに、漆黒の毛束が頭頂からふさりとかかって揺れる。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:46:05
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

「一某、引き際をよーく解ってるじゃないか。好ましい、頭の回転が速い奴は嫌いじゃないよ――が、ま、そういうことだ。愚妹との会話については放免ということにしておこう。あの常から鬱々とした妹が更に拍車をかけて去年の冬からじめじめしとるのだ、いい話のわけがない!」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:47:54
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

「おかしなことを仰るな。そこまで想像がついて何故俺に訊く真似を取る」一文字が視線を突き立てた。 「分からんか。うん、思ったより察しが悪いな、その長髪は飾りである脳みそを更に隠すための飾りととるぞ、 ――つまりだ。もう貴様には、あの町に関わらんで頂きたい」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:49:28

此処から遠くの

不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

長い睫毛を一旦伏せ、ぎりりと音を立てるように視線を銀の弓矢へと変えた実華の滑らかな指が、いやに優しく弧を描いて灰皿へと伸びた。 今や実華の表情には笑いなどというものは欠片もない。妹や弟と瓜二つに大きくくっきりとした黒目がただ一文字を静かに捕縛している。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:50:10
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

「近頃、町でどうにもきな臭いことばかりが上がっていてな。これ以上厄介事を抱えるのは私とて御免なんだ。宿復興の事務所経営に、おちこんどる愚妹の鼓舞、その原因、そこにあの町の問題ときた。余所者にはもう二度と戻らんよう、釘をここで刺しておきたいんだよ」 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 01:52:19
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