フォルテシモな囁き

うさぎ🐰ときどき妄想してました @eitars_h

1 寝て、 起きたら、 もうやめる。 泣くんはもう終いにするから、 せやから、 今日だけ… 眠りに落ちるまで、 女々しいのは好きやないけど、 おまえのこと想って泣いてもええか？ ──ええよな？ #フォルテシモな囁き pic.twitter.com/AvUgybJ5ro

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2 初めての出会いは1カ月ちょっと前。 そろそろライブのリハが始まる頃やった。 アルバム制作もなんとか終わる頃、スタジオで電子ピアノに触っていると、 『そこ、いつも1拍早いです』 ショートカットでマスクをつけた女性。 #フォルテシモな囁き

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3 近づくと隣に座り、同じフレーズを気持ちいいテンポで演奏する。 あ…これや。なんかおかしいと思ててん。 手をとめて、俺に弾いてみろと無言で促す。 〜♪ 『少しだけズレたけどだいたいそんな感じです』 ちょっとぶっきらぼうなやっちゃなと思った印象。 #フォルテシモな囁き

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4 彼女の名前は小林美生、俺より8つも下の25歳。 アルバムのピアノ編成にも関わって。 そして、ライブの為にレッスンもしてくれるとマネージャーから聞かされた。 「美しく生きるって書いてみおうちゃんね」 『それやめてください』 なんで？ええ名前やん。 #フォルテシモな囁き

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5 ほんでも、こんな若いのにピアノもめっさうまいし俺なんかに関わる仕事しててええんかい？ 少し打ち解けた頃聞いたことがある。 "こんだけピアノできるんやったらピアニスト目指そうって思わんかったんか" って。 そん時は何も考えんと聞いていた。 #フォルテシモな囁き

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6 彼女が少し顔を曇らせたのにも気付かんと呑気にな。 俺はそういう奴やねん。 ある日の生歌番組の収録、いつものように手が震えてて。 もうええ加減慣れてもええやろ？って思うけど、やっぱり映像に残る本番は怖いと思ってまうのか、 気付けば小さな音のズレ。 #フォルテシモな囁き

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7 リズム隊も、弦もちゃんとカバーしてくれるから何ともあらへんのにやっぱり悔しくて… スタジオに1人篭り何度も何度もアルペジオを弾く。 そんで、バイエルやらハノンやらひとつも頭には入ってへんから、自分らの曲を一心不乱に弾く。 #フォルテシモな囁き

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8 アカン… もう、ほんま全然アカンやん… このまま年末のテレビ出演やら関ジャムやらましてやライブも…いけるんか？ 『…さっきの』 美生？ 「お前なんでここにおんねん」 何時やと思ってるんや。 #フォルテシモな囁き

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9 質問に答えもせずに、初めて出会った時のようにツカツカと寄ってきて隣に座る。 『さっきの曲をこのテンポで』 メトロノームをラルゴに設定してはじいた。 「え？あれをこの速さで弾くんか？」 『ただ闇雲に早く弾くだけじゃダメです』 #フォルテシモな囁き

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10 『出来るだけ正確に、ゆっくり指を動かしてください』 自分ではとうに万策も尽きとったし、何か変わるならとピアノに手を乗せる。 彼女がメロディラインを弾き、俺は自分のパートを合わせる。 「…ゆっくりでもできるだけリズムに合わせてください」 #フォルテシモな囁き

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11 なんやねんな。 軽く彼女を睨んでやる。 彼女は目を瞑り、肩に掛からないボブの髪を揺らしながらメロディにノッていた。 せやから俺もしっかりと鍵盤を見据えた。 ゆったりのテンポにも慣れ1曲が丸々終わる頃、 『次はこの速さで』 と指示される。 #フォルテシモな囁き

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12 まあええわ、とことんやったる。 『いいですよ。さっきとどうですか？』 …そういえば、最初こそテンポに合わせるんとちったけど、スムーズに指が動いてる？ 『では、本番です』 ああ、ええよ。 やったる。 指を揉む姿を彼女が見つめる。 #フォルテシモな囁き

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13 『大丈夫ですよ。村上さんはできる人です』 いつも無表情な彼女が、少しだけ笑ったような気がして、ドキッとした。 〜♪ うん、やっぱりこの曲はこうやな。俺のパートに合わせて疾走するメロディ… #フォルテシモな囁き

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14 音だけで紡ぐコール&レスポンス。 それはまるで愛の行為のように、2人の音は絡まりあって、高みへと昇っていくような感覚。 〜♪………。 最後の1音の余韻が消えると、俺は彼女の顔に手をかけてキスをしていた… #フォルテシモな囁き

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15 『んっ…』 何か発しようとした言葉を塞ぎ、 髪の毛に手を差し込んで、全て飲み込むような口付けをする。 彼女が俺を押し返そうとする手が、いつの間にか俺にしがみつくものに変わって、勢いづく。 舌を挿し入れて口内を味わう。 『はぁ…ん…ふ…』 #フォルテシモな囁き

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16 …やめへんとっ… 『ん…ﾁｭｯ…ぁふ…』 そっと絡めてくる舌が可愛くて、 自分の下腹部が堪らなく疼きだす。 やけど… 『ぁ…』 「…すまん」 ようやく働いた理性で引き剥がした。 『私こそっ…すみません…』 「あ、いや！違うんや」 #フォルテシモな囁き

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17 違うんやっ、 「こんなとこですることちゃうやんな」 『…はい』 「…大丈夫か？顔色悪いで、自分」 ビクッと震える彼女の顔を覗き込む。 『大丈夫です。少し…疲れました』 「せやな…すまん」 時計を見ると午前零時近い。 #フォルテシモな囁き

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18 「もうこんな時間やし帰るか。 送って行く」 『…はい』 ───それから、彼女は初めて会った時よりよそよそしくなった。 思い当たることといえば…あれやんなあ？ まずかったよなあ。せっかく打ち解けてたんに… 喫煙スペースを通った時、 #フォルテシモな囁き

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19 若いスタッフがそこで話していた。 "あいつさ、小林…大丈夫かな？" "小林さん？何どしたん" "いや、俺ちょっと知り合いなんだけどさ、病気なんだよ" 美生？ 病気？ "風邪とか？" "バカ、ちげーよ。…癌らしい。胃癌？若いから進行も早いって" #フォルテシモな囁き

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20 "え？それって大丈夫なん？" …大丈夫や…あれへんやろ… 踵を返し来た道を戻る。 変な汗がでて、息苦しい。 どこや？ あいつ…どこにおるんやっ。 スタジオの空き部屋、そこに彼女はいて、机の上に伏せていた。 「おったわ…」 #フォルテシモな囁き

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21 勢いよくドアをあけると、怠そうに彼女は顔を上げた。 そう思えば、いつも気になってたわ。青白い顔。食べてるかどうかわからんほっそい体。 やけどピアノ弾く時は力強くて…だから気づけへんかったし、なんも気にしてへんかった。 #フォルテシモな囁き

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22 『休憩終わりですか？』 彼女の前の椅子にどかっと座る。 「メシは食うたんか？」 『え？』 聞き返しておいて目を落とす。 「せやから、なんか食うたか？昼メシ」 『…食欲なくて』 言いづらそうにモジモジする。 #フォルテシモな囁き

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23 「なら…終わったらメシ行こか？」 見たいんや。元気にメシ食うとこ。 全然大丈夫やって笑うとこ。 『だから村上さん』 「何がええ？寿司か焼肉かそれともなんや…あれか、パスタか」 『村上さん！！』 …やから…見さしたってくれや… #フォルテシモな囁き

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24 彼女が、不意に笑った。 『私の事は好きにならないでください』 は？ 「自分何言うてるん？」 『迷惑なんです』 誰が？ 「俺がお前を好き？…あ、アホなことぬかすな…」 俺が美生を好き？ んなこと… 『ならよかったです』 平然と言う。 #フォルテシモな囁き

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25 「アホらし…」 心配して損したわ。 椅子から立ち上がりドアへ向かう。 こっちの気も知らんと。 「練習始めんで」 振り返ると、彼女は凛とこちらを見つめて頷いた。 #フォルテシモな囁き pic.twitter.com/GRl57H6YUR

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