【ミイラレ!第二十五話:蠅の王のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。新しい悪魔の登場? こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/910292
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第二十五話:蝿の王のこと】 #4215tk

2015-12-08 21:15:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

現場に急行した退魔師たちは思わず口を覆う。目の前の死体はそれほどに損壊が酷い。切り刻まれ、ばらばらになっている。何が起こったかわからないとでもいうように、空を向いた生首が目を丸くしていた。彼らは静かに手を合わせ、すぐに自身の仕事へ移る。すなわち、霊気の探索。1 #4215tk

2015-12-08 21:18:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

もしこれが怪異絡みの事件でなければ……彼らの仕事はここまでだ。警察へ連絡を入れ、身を引くのみ。だが、今回はそうはならなかった。「霊気反応あり」死体の側に屈み込んだ退魔師が緊張の面持ちで言う。彼は遺骸の傷口から確かに怪異の痕跡を見つけ出していた。2 #4215tk

2015-12-08 21:21:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その場の指揮官……簡易化された目の紋章があしらわれた布で顔を覆う女退魔師は、布の奥の顔をわずかにしかめる。周囲にはもはや微弱な怪異の反応さえない。犯人の行動は異常に早い。彼女は無言のまま全退魔師へ連絡の準備をした。これは早急に対応しなければならぬ。3 #4215tk

2015-12-08 21:24:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「怪異絡みの殺人事件……!?」担任の寺岡……またの名を『寺生まれのTさん』から告げられた言葉に、四季は動揺した。寺岡は仏頂面で頷く。「ああ。今日の朝会で校長先生が言ってたろ。この付近で事件があったって」「それは聞いてましたけど、あれが怪異の仕業なんですか?」5 #4215tk

2015-12-08 21:27:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

問いかけながら、四季は横目で隣に座る怜を見た。特に驚いた様子は見られない。退魔師だけあって、先に情報を共有していたか。「それはほぼ間違いない。傷口にタチの悪い呪いがかけてあるのを確認してる。傷口を広げて治癒を妨害するようなやつがな」寺岡は顔をしかめたままだ。6 #4215tk

2015-12-08 21:30:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「一度でも斬りつけられたら致命傷になる。有り体に言って、人間には荷が重い相手ってことだ」「……えっと、つまり巡さんたちの力を借りた方が?」おずおずとした四季の言葉に、寺岡が苦笑した。「まあ、そうだな。そうしてくれりゃありがたいよ。けど今言いたいのはそれじゃねえ」7 #4215tk

2015-12-08 21:33:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

きょとんとする四季に、寺岡は身を乗り出した。「いいか、日条。もう自分の体質は自覚してるだろ?今回の怪異もほぼ間違いなくお前に寄ってくるだろうさ。そんときは……いいか、下手に話し合おうとせずに逃げろ。怪異はみんながみんな話のできる相手ってわけじゃねえんだからな」8 #4215tk

2015-12-08 21:36:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

真剣な眼差し。四季は気圧されつつも頷いた。「で、お前もだ草江。なんだかんだ、日条の側にいる退魔師はお前だからな」「ええ。必ず守ってみせます」「……その心構えは立派だが、無理はすんなよ。守りたい相手を泣かせるようなことしたくねえだろ?」怜はやや鼻白んだようだった。9 #4215tk

2015-12-08 21:39:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

寺岡は苦笑する。「本来だったら俺らベテランが気張らなきゃならねえんだが……いかんせん、他にもやらなきゃならねえことが多くてな。とりあえずあれだ。二人とも、今日はこれ以上残らず早く帰れ。何かあったら困る」「わかりました」四季は素直に返事をし、立ち上がった。10 #4215tk

2015-12-08 21:42:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……「残ると言えばさ。最近薫先輩どうしたんだろうね」教室を後にし、昇降口へ向かう途中。四季はふと口を開いた。「確かに。全然声かけてこなくなったね」怜が思い出したように言う。暇さえあれば部室に呼び出してくる学校の魔女が、急に静かになったのはいつからだったか。11 #4215tk

2015-12-08 21:45:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「風邪でも引いたのかな……」「仮にも魔女がそんなことで体調崩すとは思えないけど」懸念する四季に対し、怜の言葉はどこか冷たい。とはいえ、その表情にはわずかに心配の色が滲んでいた。「後でメールでも送ってみようか。案外、適当な理由で休んでるのかもしれないし」12 #4215tk

2015-12-08 21:48:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「失礼なこと言うなよな。今大変なんだぞ、薫は」急に割り込んできた第三者の声に、二人は揃って振り向いた。そして視線の先にいた相手に目を丸くする。「トリル!?」「なんでここに」「四季に用があるからに決まってるだろ」不機嫌な様子で、赤髪の悪魔は腕組みした。13 #4215tk

2015-12-08 21:51:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「俺に?」戸惑いつつも、四季は嫌な予感を覚えた。今の会話の流れからして、単に遊びに来たわけではあるまい。「……薫先輩に、なにかあったの?」「来ればわかる」トリルは低い声で言った。「頼むよ、四季。君の力を貸して欲しい。今のままじゃ、薫が死ぬかもしれない」14 #4215tk

2015-12-08 21:54:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「死……!?」さすがに四季は絶句する。怜もまた表情を引き締めていた。「なにがあったの?」「来ればわかる」ぶっきらぼうに答えたトリルは足早に二人の元へ。そして無造作に二人の手を掴んだ。瞬間、周囲の景色が歪む。強烈な目眩のあと、目を開くと薄暗い室内。15 #4215tk

2015-12-08 21:57:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「こんな簡単に空間転移をやってのけるなんて。さすがというかなんというか……」口元を抑えながら怜が言う。トリルは小馬鹿にするように鼻を鳴らしたあと、すぐに部屋の片隅にあるベッドに駆け寄った。「大丈夫かい、薫?もう少し我慢しておくれよ」応えたのは小さな呻き。16 #4215tk

2015-12-08 22:00:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ただならぬ様子に、四季もベッドを覗き込む。そして息を呑んだ。そこに眠っていたのは薫だ。その顔色は死人のようで、時折苦しげに呻きを漏らしている。呼吸も弱々しい。「ど、どうしたの……!?」「傷口が開いたんだ」トリルが苦々しげに答える。「今日、急にひどくなった」17 #4215tk

2015-12-08 22:03:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「傷って……もしかして、人間のときに怪異にやられたっていう」「ああ」トリルが毛布をめくる。寝間着の裾から、荒っぽく巻かれた包帯と赤い染みか見えた。染みは目に見える速度で広がっている。「応急処置はしたけど、まるで止まらないんだ。呪いが原因ってのはわかってるのに」18 #4215tk

2015-12-08 22:06:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あなたの力でもどうしようもないの?」四季の隣から覗き込んでいた怜が驚いたように言う。悪魔は眉根にしわを寄せた。「……自慢じゃないけど、ボクの専門は壊すことだ。治すことじゃない。仮にこの呪いを消し飛ばそうとしたら、結果的に薫を殺すことになる。それだけは嫌だ」19 #4215tk

2015-12-08 22:09:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そう言って四季に視線を移したトリルは、やや表情を緩める。彼が薫の手を握っているのを見たからだ。「その気持ちは嬉しいよ、四季。けど今回に限っては、その治し方はあんまりうまくないかな」「えっ」「薫は完全な怪異じゃないから……まだ残ってる人間の部分に問題があるんだ」20 #4215tk

2015-12-08 22:12:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「それは難儀だね……でも」痛ましげに薫を見つめていた怜が顔を上げる。「それだったら、なんで四季をここに?」「これを使ってもらうためだよ」そう言ってトリルが取り出したのは一冊の黒い本。四季は眉をひそめた。「それは……ええと、薫先輩の魔導書だよね」21 #4215tk

2015-12-08 22:15:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

魔導書。かつて薫がトリルを呼び出し、そして怜を用いて強大な悪魔を呼び出すところだった悪魔の道具。「そう。四季にこれを使ってもらいたいんだ」「俺に!?」「……そういうのに長けた悪魔を呼ぶってこと?でも、それならあなたが呼んだ方が」「それができりゃ苦労はしないよ」22 #4215tk

2015-12-08 22:18:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

悪魔は憎らしげに顔を歪めた。「そんなことをしたら間違いなく天使が飛んでくる。あいつら、こっちにどんな事情があろうと知ったこっちゃないからね……あくまで『人間が』『自分の意思で』招いてくれないことには、ボクらも安心してこの世界に入れないんだよ」23 #4215tk

2015-12-08 22:21:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ぼやきつつ、悪魔は四季に本を手渡した。彼がそれを受け取ると同時、本のページが自動的に捲られる。なかなか一つのページに定まらない……「やっぱ四季が使うと競合するか。四季、今の内に呼んでほしい奴が」トリルが口を出した瞬間、ページを捲る動きが止まった。24 #4215tk

2015-12-08 22:24:09