【ミイラレ!第二十六話:赤帽子の話】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。ちょっとシリアス? こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/912795
0
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第二十六話:赤帽子の話】 #4215tk

2015-12-14 20:03:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

薫の見舞いに行った翌日。学校を終えた四季はその足でヒルメたちの神社へと向かった。「奴が蘇っただと?」最初は笑顔で出迎えてくれたヒルメの顔もすっかり険しくなっている。「馬鹿な、と言いたいところだけれど……被害者が出てしまっているのなら認めざるを得ないか」1 #4215tk

2015-12-14 20:06:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

考え込み始めたヒルメに、四季はおずおずと尋ねる。「あの……その怪異ってどんな奴だったんですか?」「ん?ああ、怪異基準で見れば取るに足らない奴だよ。脅威の度合いで言えば」と、彼女は四季の隣に目を向けた。凄まじい勢いで煎餅を貪り食っている小さな悪魔に。2 #4215tk

2015-12-14 20:09:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そっちの悪魔とはまるで比べものにならないくらい低い」『心外だな』食べるのを止めないまま悪魔……『蠅の王』ニコールが返事をする。いったいどうやっているのか。呆れた四季の目の前で、その背から生えた二対の翅がわずかに振動する。『この世界に俺を上回る怪異などいないよ』3 #4215tk

2015-12-14 20:12:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

成る程、羽音で会話もできるらしい。器用だなあ、と四季は半ば感心してしまう。煎餅を食べ終え、緑茶を飲んでいるニコールの前にさらに煎餅が置かれた。イナメだ。「力を縛られてるこの状況でも、って意味よ、蠅の王様。それにしても本当よく食べるわね!」呆れたように言う。4 #4215tk

2015-12-14 20:15:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『なにを言う。俺がこうして大人しくしておるのも、この世界にまだ食ったことのない旨い物があるからなのだぞ?』「その旨い物の一つにうちの煎餅が数えられるわけね。ありがたい話だわ、まったく」再び煎餅に手をつけ始めたニコールを見て、イナメが溜息をついた。5 #4215tk

2015-12-14 20:18:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その様を胡乱な目で見ていたヒルメが、気を取り直したように四季へ視線を戻した。「……えーと、どこまで話したっけ?ああ、そこの悪魔と比べたらまるで相手にならない怪異だった、ってとこまでか。うん。本当つまらない怪異だったと思うよ」「つまらない?」四季は首を傾げる。6 #4215tk

2015-12-14 20:21:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……というと人間には失礼か。とはいえ、私としてはそう言いたくもなる。あれにはまるで自我というものがない。出会った人間をただ機械的に殺すだけの存在だった」「映画の中の殺人鬼みたいな奴ですね!?」「殺人鬼。ああ、言い得て妙だな。あれはまさに人を殺す鬼だったよ」7 #4215tk

2015-12-14 20:24:33
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ヒルメが眉間にしわを寄せる。「元々はただの幽霊かなにかだったのかもしれないけど、それにしたってあそこまで歪むのは珍しい」「誰かの差し金だったのかもね。復活したところから見ても」ついには自らの手でニコールの口に煎餅を放り込み始めていたイナメが言葉を挟む。8 #4215tk

2015-12-14 20:27:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なんにせよ早く対処しないと。また御狐衆に協力してもらわなきゃ」「それがいいだろうな。あれの相手を退魔師に任せるのは心苦しい」ヒルメは厳しい顔で頷く。そしてそのまま四季へ首を向けた。「君もだよ、四季くん。あまり遅くに出歩かないように。あれに狙われたら大変だ」9 #4215tk

2015-12-14 20:30:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は素直に首を縦に振った。そして腕時計で現時刻を確認する。そろそろ午後六時を回ろうとするところ。ヒルメも目敏くそれに気づいたらしい。「……しかし、うん!もう逢魔時だし、出歩かせるのも憚られるな!」「えっ」「今日は泊まっていくといい。是非そうしなさい」10 #4215tk

2015-12-14 20:33:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ヒルメは満面の笑みを浮かべている。イナメが溜息をついた。「ヒルメったら。ごめんね四季くん。こいつ言い出したら聞かないの。素直に泊まっていってもらえるかな?」「は、はあ」「あともう一つお願い」イナメは視線をずらす。「この悪魔に私の手を食べないよう言ってくれる?」11 #4215tk

2015-12-14 20:36:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……その後、四季がイナメの手に食らいついたニコールを諦めさせるまで一時間ほどかかったことを明記しておく。12 #4215tk

2015-12-14 20:39:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

校内で行われた学生退魔師の連絡会が終わり、怜は大きく伸びをした。相手の詳細が明確になってきてからというもの、退魔師の動きも物々しくなっている。今回の連絡会では、怪異探索から学生退魔師を外す旨が伝えられた。当然といえば当然。一部を除き、若い退魔師は未熟である。14 #4215tk

2015-12-15 20:09:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜はそのことに拘泥するほど愚かではない。それよりもまず彼女が気にしたのは、やたらと怪異に好かれる幼馴染のこと。神社に行くと言っていたがどうなったのだろう。迎えはいるだろうか?携帯を取り出したそのときだ。「もし」横手から声をかけられる。眉をひそめ、振り向いた。15 #4215tk

2015-12-15 20:12:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

なにもいない。……いや、違うか。彼女は視線を下向けた。白黒茶、三色の毛を持つ犬が座っている。「え、と。軍服の子の式神?」「まあ、その通りです。ご主人がお待ちですので、こちらにいらしていただけますか」丁寧な口調でそう言った犬の怪異は背を向け歩き出した。16 #4215tk

2015-12-15 20:15:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怪訝に思いつつも後に続く。校舎を出た怜は、校門付近に寄りかかる怪異の姿を見つけた。白髪に軍服。少し前に騒ぎを起こした化け猫と妖狐の合いの子たち、その末女だ。「……こんにちは。充虎さん、だっけ」「そうだよ」彼女は気のなさそうな様子で返事をよこす。17 #4215tk

2015-12-15 20:19:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

三毛犬に導かれるまま側まで歩み寄る。敵意はなさそうだ。「なんの用?」「伝言だよ。あの子……じゃないや、えーと、頭領?から」「四季から?」怜は眉をひそめる。充虎はじっと退魔師を見つめた。右目が青、左目が金。「今日は遅くなるから神社に泊まる。心配しないでってさ」18 #4215tk

2015-12-15 20:21:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その言葉を吟味するように考え込んだ怜は、やがて顔をしかめた。「天照様たちに押し切られたのか……まあいいけどさ。迎えに行く手間が省けたし」呟きつつ怪異の横を素通り。少し先を行ってから、怪訝な顔で振り向いた。「で。なんでついてきてるの?」「頭領の言いつけだよ」19 #4215tk

2015-12-15 20:24:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

やや不満そうに充虎が口を開く。「危ないのは怜……ああ、お前の名前か。とにかくお前も同じだろうからって」「そう、なんだ」「正直、過保護すぎると思うけどね。まあそうでなくてもそっちに用事があるから仕方ないけど」「用事?」怜は思わず首を傾げた。なんの都合だろうか?20 #4215tk

2015-12-15 20:27:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「シケを迎えに行かなきゃいけないんだ」いかにも気が乗らないとった風に軍服の怪異は言う。「ほら、頭領のとこに世話になってるのがいるだろ。あの……巡、さん」「ああ」怜は納得する。携帯の持ち合わせがなさそうなあの怪異には、確かに伝令が必要かもしれない。21 #4215tk

2015-12-15 20:30:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「正直嫌なんだけどね……あの人、怖いし」「怪異でもそう思うんだ」「だってお母様と互角に渡り合えるんだよ?絶対に只者じゃない」怪異がわずかに身震いする。「でもシケが戻ってこないからさ……ああ、食べられてないといいんだけど!」「いくらあの人でもそこまでは……」22 #4215tk

2015-12-15 20:33:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そんなことを話し合っているうちにアパートへ到着。怜はふと敷地前で足を止めた。自分の部屋の前に立っているのは紺色の羽織に白い着物の薄青い鬼女。件の巡その人である。こちらに背を向けて…….つまり、自分の部屋の扉を見つめている。いったい何をしているのか?23 #4215tk

2015-12-15 20:36:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……「ああ、お帰り」こちらの接近に気づいた鬼女は、視線だけをこちらに向けて素っ気なく言った。「どうも」軽く頭を下げた怜は眉をひそめる。近くまで来ても相変わらず扉と向き合ったまま。扉の前から離れる気配もない。「どうかしたんですか?」仕方なく尋ねる。24 #4215tk

2015-12-16 20:03:15