【 ミイラレ!第二十七話:影のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。そう簡単には落ち着けない。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/916029
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第二十七話:影のこと】 #4215tk

2015-12-22 20:06:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

夕暮れが空を赤く染める。しかし現世とは違い、この異界の太陽がそれ以上沈むことはない。ヒルメが作り出したこの結界では、決して夜が訪れることがないのだ。本来ならば夕暮れもこないのだが……そこは暫定的に住処を提供している怪異たちへの配慮である。特別に訪れる黄昏時だ。1 #4215tk

2015-12-22 20:09:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そんな中、境内を陣取っているのは茜をはじめとした昆虫怪異……巡の部下たちである。彼女らは一部を除いて本殿に上がることはない。万が一胡乱な連中が侵入してきたときに備え、その外回りを警戒しているのだ。とはいえ。「退屈です」木に寄りかかっていた蟷螂の怪異、祈が呟く。2 #4215tk

2015-12-22 20:12:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そりゃしょうがないわよ」その木の上から茜が答えた。彼女は何やら小さな蜂の巣を作っている。「仮にもここ、神様の作った異界よ?そんじょそこらの怪異がほいほい潜り込んでくるわけないじゃない」「わかっています。が……このままでは腕が鈍る」蟷螂の怪異は嘆くように言った。3 #4215tk

2015-12-22 20:15:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「どうにも新しい頭領殿は軟弱でいけません。百鬼夜行たるもの、もっと他に戦を仕掛けるべきでは?」「あたしに言われても困るわよ、そんなの。めぐりんがなんにも言わないから上手くいってるんでしょ。これでも」「そうでしょうか……」疑わしげに祈が唸る。4 #4215tk

2015-12-22 20:18:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

はあ、と大仰に溜息をつき、茜が枝から身を乗り出して祈を見下ろす。「そんなに退屈なら他のやつとチャンバラごっこでもしてれば?ほら、舞とか」「あれは颯(はやて)と一緒に頭領殿のお守りです」「あ、そっか。じゃあ飛羽」「神社の周囲を見回りという名目で遊覧飛行中」5 #4215tk

2015-12-22 20:21:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうだっけ?前大怪我したばっかだってのに、元気ねあいつも」茜は呆れたように呟いた。つい先日に起こった龍造寺一家との戦いで、彼女が羽を折られたのは記憶に新しい。しかしよく治ったものだ。それが頭領の力、ということらしいが。「……ああ、そうだ」茜はぽんと手を打つ。6 #4215tk

2015-12-22 20:24:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「龍造寺さんとこの娘さんに胸を貸してもらいなさいよ。まだ若いけど、相当なもんじゃない」「ふむ」考え込む祈を見て、茜は自分の思いつきを自賛した。あの連中ならば祈を満足させられるだろう。なにせかつて山ン本で四天王として鳴らしていた白狐と、力ある化け猫の混血児たちだ。7 #4215tk

2015-12-22 20:27:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

これで少しは祈も大人しくなるだろう。そう結論した茜はすぐに自身の作業へと戻る。この蜂の巣は式神たちの簡易生産拠点だ。常日頃から備えておけば突発的な戦闘にも対処できる。そういうわけで、巡がいないときの彼女は基本的に自身の陣地作りをする癖がついていた。8 #4215tk

2015-12-22 20:30:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

しかし作業に没頭するよりも早く、周囲の地面を影が覆う。眉をひそめて茜は頭上を仰いだ。遥か上空、何かが悠々と飛行している。鳥か?まさか。異界に入り込んでくる生き物などそうそういない。つまりあれは「敵襲か!?」どこからか飛んできた飛羽が緊迫した声を上げる。9 #4215tk

2015-12-22 20:33:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

が、茜は訝しげに眉をひそめるのみだ。「んー」彼女は空を横切っていく影を眺める。相手は少なくともこちらに降りてくる気はないように見えた。地に広がる影もゆっくりと滑るように本殿を超えていく。「単なる怪しいやつってとこね。戦意があるわけじゃないでしょ」10 #4215tk

2015-12-22 20:36:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そう言って茜は作業に戻ろうとする。飛羽が非難の視線を向けた。「怪しいは怪しいんだろ?それを見逃すのか」「全員が行く必要はないでしょ。陽動の可能性だってあるんだし……気になるんなら祈も連れて追ってみたら?」その言葉が終わるより早く、蜻蛉の怪異は急降下する。11 #4215tk

2015-12-22 20:39:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

待ち構えていた祈を軽々と持ち上げ、飛羽が空へ向かう。急速に小さくなっていく背中に溜息をつきながら、茜は枝から舞い降りる。そして数回片足で地面を叩いた。「家鳴ー?」「なんでありますか」近くの地面に穴が開き、褐色の肌をした女が顔を出す。茜の仲間、蟻の怪異である。12 #4215tk

2015-12-22 20:42:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ちょっと悪いんだけど、早めに哨戒に回ってくれる?飛羽たちが妙なのを追っていなくなっちゃったから」「それは構わないでありますが」顔をしかめた家鳴が穴から飛び出す。その後に、まったく同じ顔、同じ体格の女が飛び出した。どれも蟻塚 家鳴その人だ。13 #4215tk

2015-12-22 20:45:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「少し億劫ではありますな。なにせそろそろ夕飯時」「あー、そうね。ちょっと間が悪かったか」茜は眉をひそめる。群体を維持するためなのか、家鳴はその小ささに見合わずよく食べるのだ。「んー、じゃあさ。妙な怪異が侵入したってことを頭領ちゃんに伝えてくれる?」14 #4215tk

2015-12-22 20:48:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

揃って小首を傾げる家鳴に、茜は悪戯っぽい笑みを向けた。「そのついでにお相伴してくればいいじゃない。あの子優しいからご飯くらい分けてくれるでしょ」「なるほど!」目を輝かせはじめる家鳴たち。茜は内心で苦笑した。慣れれば実に動かしやすい手合いだ。15 #4215tk

2015-12-22 20:51:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「では早速報告してくるであります!」「はいはい、いってらっしゃい……あ、こら!全員で行くんじゃない!もう!」どたどたとまとまって本殿に駆けていく家鳴たち。もはや止まるまい。小さく唸った茜は、開きっぱなしの穴を覗き込み叫んだ。「百恵ーッ!?見張り手伝ってーッ!」16 #4215tk

2015-12-22 20:54:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は硬直していた。正座を崩せない。なぜなら膝の上に白猫が乗っているからだ。彼に構わず呑気に欠伸をするその猫は、いくつもの尻尾を機嫌良さげに振っている。無論のこと、この異界にいる時点でただの猫ではありえない。「うむ、少し撫でてくれんかね頭領殿」18 #4215tk

2015-12-22 21:00:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

眠たげに白猫が言う。四季は大人しくその言葉に従った。ふわふわとした手触り。猫がゴロゴロと喉を鳴らし、七つもある尾を緩やかに揺らす。これこそ強大な霊気を持つ化け猫であり、龍造寺をまとめ上げる長たる夜桜その人……もとい、その猫である。戦いの時の覇気はどこにもない。19 #4215tk

2015-12-22 21:03:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

しかし、四季が強張っているのは彼女のせいではない。原型を見せるまでに心を許してくれているのは伝わっている。それはいい。しかし「…………」すぐ隣で無言の圧力を放ち続けている伊奈がただ恐ろしい。嫌みの一つも言わず、大人しくしているのが逆に不気味だった。20 #4215tk

2015-12-22 21:06:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「仲がよろしゅうございますな」平坦な声。四季はびくりと身を震わせる。「え、と」「ああ、お気になさらず若旦那。誰とでも仲良くなさるのは、ふふ、素晴らしい素質かと」表面上はにこやかだが、四季にはわかる。その目は決して笑っていない。冷や汗が噴き出してくる。21 #4215tk

2015-12-23 19:06:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そのとき、不意に膝の上の夜桜が身をもたげた。「これ、伊奈。頭領殿をいじめるな」「……いやですわ夜桜さんったら。あたしはそんな」「そんなことを言って、妬いておったろうによ。まったくわかりやすいやつ!」からからと笑う。「すまんの頭領殿。此奴、からかうと面白くてな」22 #4215tk

2015-12-23 19:09:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ひょいと膝から降りた白猫は、あっという間に黒い着物姿の女へと変化した。そのまま伊奈の隣に座り、もたれかかるようにして彼女を下から覗き込む。「心配せんでも、我輩が一番愛しておるのはお前だよ。ま、頭領殿が気に入ったのは否定せんが」「夜桜さん……!」23 #4215tk

2015-12-23 19:12:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

伊奈の頬が赤く染まり、瞳が潤む。先ほどまでとはまるで別人のようだった。目のやり場に困った四季は視線をうろつかせる。ふと目が合ったのは龍造寺の次女の式神、曳子だった。正座してなんとも言い難い顔を見せている。「……あれ?御笠さんはいないの?」24 #4215tk

2015-12-23 19:15:02
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