自作選その二

忘れた頃に自分の作品の中で気に入っているものをピックアップ。 今回は30作品となります。 以前のお気に入り作品は下のURLになります。 併せてご覧下さい。 続きを読む
0
@keith_mild

#twnovel 錦に揺れる葉の幻に、淡い目眩を覚えた。煙に霞む山の様相は日々を経る毎に彩りを加えてゆく。まるで少女が寒さに頬を染めるように変わりゆくから、私はこの頃の山をじっと観ることはない。鮮やかな色合いの美しさに魅了されたのは決して少女愛によるものではないのだけれど。

2010-10-27 23:17:03
@keith_mild

#twnovel 季節外れの雪が降りしきる。地面を満遍なく隠す白いそれは綿のようでいて、けれど柔らかさだけは天に置き忘れたようだった。霞む視界の中、何もかもが雪に包まれている。でも、凍えそうなのは僕だけみたいだ。ふと足元を見やれば、踏みしめた雪が土と混じり合って茶に染まっていた。

2010-10-29 19:24:13
@keith_mild

#twnovel 頭の中で羊を数えていた眠気は、流星と共に誰かの瞼を下ろしに向かったようだった。中途半端に放り出された僕をシーツは冷たく突き放し、遮光カーテンは揺れることなく知らんふり。年老いた時計がチクタクと昔話をしているが、話すのなら夢のような話をして欲しいものだと思った。

2010-11-03 04:12:09
@keith_mild

#twnovel 蛇口から落ちる雫の音の煩わしさと、電話越しに聞こえる自分の声の不気味さ。軟体動物が私を見て、箪笥の裏にいるハエトリグモを殺すに殺せない。微炭酸のジュースが弾けるには蓋を開ける必要があって、もしかしたら誰かに手伝ってもらう必要があるのではないか。例えば、神様とか。

2010-11-06 05:47:02
@keith_mild

#twnovel 感情の揺らぎが人生に彩りを与えるのだとすれば、狂人のそれはさぞかし毒々しい極彩色だろう。多くの人は敬遠するはずだ。けれど、中にはそんな狂った様子に対し、怖いもの見たさで魅入られてしまう迂闊な奴がいる。狂人はそれを待っているだろうね。きっと、利き手に何か持ってさ。

2010-11-06 07:39:02
@keith_mild

#twnovel あの鳩を殺してしまったのは全くの不本意だった。適当に投げた石がまさか当たるとは、想像すらしていなかった。だから、墜落して無惨な死骸を晒した鳩を見て、罪悪感を抱いたし、しばらくは鶏肉が食べられなかった。あれは不幸な事故なんだ。わざとではない――最初のあれだけは。

2010-11-07 06:09:10
@keith_mild

#twnovel 夕日が射し込む教室の中、英雄気取りの少年が机に腰掛けている。余りにも様になっているから却って滑稽で、きっと彼はそうしている事こそが目的なのだろうと分かった。私はその場をそっと去る。彼の少年期はもう沈みつつある。良き思い出になるよう私は祈る。人生の先輩としてね。

2010-11-08 03:25:30
@keith_mild

#twnovel 竜の隣で揺れる一輪の白百合。滅多に人は竜の棲家に寄らなかったが、それでも傍らに咲く花は話の種になっていた。曰く、散る事を忘れた花。曰く、竜が唯一愛した宝。今や御伽噺の定番となっていた。無論、竜が身じろぎして潰してしまったという結末については誰も知らないのである。

2010-11-09 05:18:00
@keith_mild

#twnovel 角を捨てた鬼を祝福するように、ざんばら切りの髪は俄かに黒く染まり始めていた。所作はまだ甘いところもあるが、これならば何処へ行っても怪しまれる事はなさそうだ。鬼に人化の術を施した仙人はその仕上がりを確認して一つ頷く。そして鬼に声を掛けた。「It's over!」

2010-11-11 15:16:09
@keith_mild

#twnovel 街に天使がやって来ると知って、住人が用意したのは百万の花束だった。目も眩むような鮮やかな花々。舞い降りてきた天使に捧げられ、盛大に天使の来訪を祝った。だから、捧げられた天使は笑顔の下で密かに決意する。罪のない花の命を奪った住人に必ずや天罰を下さねばなるまいと。

2010-11-16 05:53:28
@keith_mild

#twnovel 火食い鳥が不死鳥と番になった。不死鳥は自らの羽を燃やして詩を諳んじ、火食い鳥はそれを啄ばんでは調べを奏でた。二羽はやがて世界中の木々を道連れに愛を作り上げる。残された生物と不毛の大地は残念ながらその愛を理解する事はできず、灰は風に乗って宇宙へと散らばっていった。

2010-11-20 03:42:17
@keith_mild

#twnovel 銀河の何処からか流れ落ちた電波の申し子は、平和主義者を見つけては首に縄を引っ掛けて遊ぶ。やがて相手が足らなくなると、ようやく遊ぶのを止めて散らかしっぱなしで次の街を襲いに行ってしまう。残るのは決まって親を喪った子供達だけである。果たして、これは天罰なのだろうか。

2010-11-20 04:01:12
@keith_mild

#twnovel 藁半紙をはみ出して走る赤鉛筆。思うがままに進んでゆく。無二の絵画が生まれようとしていた。立ちはだかる壁などものともせず、奇声をあげて鉛筆を縦に走らせる。ぐい、と力強く伸びた直線が新たな芸術となった瞬間、死角からやって来たママの怒声により、未完の大作と相成った。

2010-11-26 20:12:15
@keith_mild

#twnovel 自分の寿命を知った人間が自殺する割合はどのくらいだろう。芸を忘れた愛玩動物は果たして危機感を抱くのだろうか。赤い屋根の家に住む住人は肉食を好むそうだ。転げ落ちたぬいぐるみが痛がることはない。あるのは純粋な怒りだけ。貴方の後ろで糸を繰る黒子もそう頷いているのだよ。

2010-12-05 22:28:00
@keith_mild

#twnovel 身を切る風に対し誰もが首をすくめて隠す。それは人類の魂に刻まれた恐怖に他ならない。罪人が首を飛ばされる様を見てきた人間にとって、恐ろしい罰なのだろう。或いは歴史の中で誰もが一度は首を飛ばされてきたのか。輪廻の証拠と我々が背負う罪の証明がそこにあるのかもしれない。

2010-12-08 02:50:21
@keith_mild

#twnovel 私たちが花を捧げた愚か者どもは東へと向かい、そのまま海へと還っていくのだそうです。何故、他の大人たちは彼らを止めようとはしないのでしょう。巣に戻る事は生物として本能に刻まれているはずなのに。何に抗い、何を求めて往くのでしょう――その大きな背を私たちに見せたまま。

2010-12-19 03:47:20
@keith_mild

#twnovel 理性的な狼が己の牙を折った時、最も嘆いたのは襲われるはずの羊たちだった。貴方の牙は貴方が狼たる所以だったのにと甚く悲しみ、涙した。それでも狼は一切の後悔をしなかった。私は私の理想を追い求めたのだと厳かに語り、終末を知らぬ生物になりたかったのだと、小さく微笑んだ。

2010-12-19 04:50:51
@keith_mild

#twnovel 滑らかな断面を残して彼女は果てた。この世を憂い、鏡の世界へと向かおうとしたものの。しかし彼女は歳を取りすぎていた。古めかしい鏡台へ潜ったが美しいくびれを境界に引っ掛け、上半身だけを向こうへと。残ったのは臓物を撒き散らした下半身。彼女が嫌った世界の縮図だけだった。

2010-12-21 22:05:01
@keith_mild

#twnovel 鉄が融けて、大地に降り注ぐ。地面に刺さったまま冷えたら、それはまるで拷問器具のようで。だから皆は真似て武器を手に取ってしまった。次に真綿が降ってきても、もう誰も気にしなかった。隙あらば隣人を突こうと躍起になるばかり。結局、真綿は流血を吸えるだけ吸っただけだった。

2010-12-22 18:55:32
@keith_mild

#twnovel 開かずの扉の前に設置された絨毯の虚しさと、律儀に降り積もる埃の勤勉さ。錆び付いた鍵穴からは懐かしの悪臭が漂い、曇った窓から零れる光は床に撒かれたワインの染みだけを照らしている。振り子を失った大時計の脇、百年の間佇んでいた老執事が欠伸をして今日の終わりを告げた。

2010-12-23 16:17:28
@keith_mild

#twnovel Y字路で別れそこなった黒い貴婦人が粛々と着いてくる。髑髏を抱えて歩いているから、すれ違う人は皆、ぎよっとした顔で見つめてくる。どうしてこんな事になってしまったのだと後悔しても、彼女を置き去りには出来そうにない。道の先に沈む夕日へ向かって、私達は延々と歩き続ける。

2010-12-24 02:09:49
@keith_mild

#twnovel 世界の果てにある断崖。そこで仮面をつけた男が一つ呪文を諳んじた。びゅうびゅうと吹く強い風に遮られ、月ですら聴き取れなかった小さな調べが蛇のようにうねって雲となり、空を締め付けてゆく。まばらに降り注ぐ太陽の光が濃紺に染まる海を貫き、原始の生命を厳かに照らし出した。

2010-12-26 04:36:36
@keith_mild

#twnovel 煙をかき分けて届いたのは一葉の枯れ葉だった。燃え尽きた幾つかの死体の間で確かに残っており、それを見た野次馬たちは奇跡だと喝采を上げた。それを尻目に一人の賢者が涙を流す。件の枯れ葉を護った哀れな生物と、そしてそれに残る一滴の涙よりも少ない価値とを天秤に掛けた上で。

2010-12-28 19:53:48
@keith_mild

#twnovel 明るすぎる夜空に目を瞑り、祈願は遅い夢を見る。ちかちかと瞬く星を巡る夢。細い糸を辿り、繋がった幾億の未来を覗く。流れゆく栄光に目を細めたのは私達を知る者。無償の愛を受けて、道程は更に続く。これこそが愛の成せる奇跡なのかもしれぬと、祈願は微睡みの中で思うのだろう。

2011-01-02 17:03:43
@keith_mild

#twnovel 青い大気に沈んだ我々を掬うのは神が左手に持ったフォークだけだ。驚くほどの不器用さでボロボロと溢しながら御許に運ばれる様は、お世辞にも気分のいい光景ではない。しかも何回か手を動かしただけで満足してしまうものだから、残された者たちは皆、地球の上で息絶えてしまうのだ。

2011-01-11 19:02:25