【ニンジャの二次創作】ストレイ・ストレンジ・スモトリ #1

ニンジャスレイヤー二次創作小説です。 拙作テキストカラテ【ストレイ・ストレイト・スモトリ】の続編。 とあるシックスゲイツの物語。 ◆前日弾【ストレイ・ストレイト・スモトリ】はこちら◆ 続きを読む
0
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

「タマキはどこだッ!」不意に巨漢が絶叫。「タマキは…もう大分前に…いなくなりましたよ…」白い顔の店員の震え声。「タマキと俺は、将来を誓い合った仲だった……それなのに!」大男のオニガワラめいた顔の中、両目から大粒の涙が二筋こぼれた。 20

2016-01-01 12:34:00
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

誰彼ともなく、呟く声が聞こえる。「タマキちゃん……」「いい子だったねぇ……」「ホントになぁ、あんなにオスモウ好きで明るい子はおらなんだ」「どこへ行ったやら……」 21

2016-01-01 12:36:15
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

さざなみのような客達の声。それらをかき消さんばかりの勢いで雨風が店の戸を叩く。隙間風に『不如帰』のショドーが踊る。『死んだヨタモノは二度とこの世に戻らない。死にたくなければ生き残れ』…仮に髑髏じみた月が姿を現せば、陰気な笑みと共にそう呟いたことだろう。……だが、今宵は、雨。 22

2016-01-01 12:39:26
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

「……みんな、すまなかったな」男は沈んだ声で店内に詫び、そのままカウンターへ寄りかかる。「一杯やらせてくれ。……恥ずかしいが、一杯分しかカネがない」「トックリ丸ごとサービスしますよ」悲痛な面持ちで店員がこれに答える。 23

2016-01-01 12:42:50
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

他の客もしんみりした顔で、降り続く雨を眺めながらそれぞれの思い出に話を咲かせる。傾けたトックリの懐かしい絵柄に、男はこの店での過去を思い返す。 24

2016-01-01 12:46:09
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

……オスモウニュービー時代に、他の部屋の奴らと夜な夜な押し掛けたこと。やせっぽちだが、愛くるしい笑顔で店内をくるくる回るタマキに惚れて、幾度となくアタックをかけたこと。趣味の刺繍を施したテヌギーを手に、はにかんだタマキの頬のえくぼ。 25

2016-01-01 12:49:19
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

……やがて負けがこんで、憂さ晴らしのオスモウバー通いが続き、生活がジリープアー(訳注:徐々に不利)になっていったこと。リョウゴクを揺るがした八百長事件のゴタゴタの最中に、様々なスモトリやオイラン、タニマチがいなくなったこと。 26

2016-01-01 12:52:26
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

……だが、タマキは、タマキだけは、変わらずいてくれるものと……思っていたこと。 27

2016-01-01 12:55:04
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

トックリから滴った、合成サケの最後の一滴がオチョコに波紋を浮かべる。男はカウンターにトックリを置き、懐かしい店内を振り返った。酔客は喧騒を取り戻し、チャンコやオーガニックトマト焼きを食べながら、思い思いの雑談に花を咲かせていく。店内のざわめきは昔のまま。タマキだけがいない。 28

2016-01-01 12:57:09
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

……だが、人は思い出だけでは生きられない。感傷を最後のサケに混ぜまいと、男が薄汚れたテヌギーで涙を拭った……その時! 29

2016-01-01 12:59:55
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

「スッゾオラー!」突如、店内にヤクザスラングがこだまする!「まあ待て、お前らの出る幕じゃねぇ」叫んだヤクザの後ろから低い声。重金属酸性雨のカーテンを掻き分け、不吉な影が現れる。 30

2016-01-01 23:13:33
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

「エッ」「あんたも……スモトリ?」姿を現した大男に店内が再びざわめく。「フーム……懐かしいな。タマキのいたバーじゃねえか。本当にここか?ここにターゲットがいるのか?」「ハイ」大男の問いかけに、従者じみた黒服のヤクザが素直に答える。二人の衣服には威圧的なクロスカタナの紋様。 31

2016-01-01 23:17:20
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

サイバーサングラスのヤクザがカウンターの大男を指差す。「ターゲットです」大男の目が見開かれる。「あァ…?奴がターゲットだと?」店員が慌てふためき、ヒノキで出来た床へ尻餅をつく。「あんた…何をする気なんだ…!」「お前に用は無い」爬虫類のような冷たい目の光を見、店員は失禁した。 32

2016-01-01 23:20:06
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

「用があるのはそこの男だ。そう、色々な意味でな」新たな大男の声に、カウンターの男は首をもたげ、うろんな目を入り口へ向け……その目が驚愕と怒りに見開かれる。「貴様は!なぜ!今!」「フン、それはこっちのセリフだ、スガキ=サンよぉ」 33

2016-01-01 23:23:13
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

「俺に用だと?」カウンターに突っ伏していた大男……スガキは、目の前の大男に怒りもあらわに突っかかっていく。「オットット、落ち着けよ、ここはドヒョー・リングじゃねえ」新たな大男はそれを口でいなした。「それに、今日はアンタに知らせてぇことがある。悪い知らせと……良い知らせがよ」 34

2016-01-01 23:26:17
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

再び沈黙に包まれた店内を、新しく入ってきた大男は冷たい目で一瞥し、「とりあえず外へ出ようや」言い捨て、重金属酸性雨降りしきる外へ出て行く。 35

2016-01-01 23:29:17
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

「スガキ=サン、あの人はもしや…」「ああ……たぶん」店員に小さく頷いて、スガキは薄汚れたテヌギーをポケットに突っ込み、入って来た時とは対照的な、重たい足取りで外へ向かう。 36

2016-01-01 23:31:27
篠@やさすい愛好家マグロ @simanezumi88_n

二人が出て行った店内には、重苦しい沈黙が残る。オスモウ放送が調子はずれにあたりをかき回し、『不如帰』と書かれたショドーが、チャンコ鍋から立ち上る湯気に白く濁る。 37

2016-01-01 23:35:20