【アット・ア・デイブレイク】(忍殺テキストカラテ)

忍殺本編「グラウンド・ゼロ、デス・ヴァレイ・オブ・センジン」終了にインストラクションを受けました。センジンの前、ガンドー=サンとシキベ=サンがこんなやりとりをしていたら、という夢想です。
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赤い方の蟹 @kaori6113

【アット・ア・デイブレイク】(テキストカラテ) 出典:ブラッドレー・ボンド&フィリップ・ニンジャ・モーゼズ 「ニンジャスレイヤー」 公式アカウント: @NJSLYR ネオサイタマ電脳IRC空間: d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ #忍殺深夜の真剣創作一本勝負

2016-01-07 00:01:59
赤い方の蟹 @kaori6113

夜明け前。薄暗がりの事務所のすみに、白髪の大男が手足を伸ばしたまま、壁にもたれて眠っている。服はズタズタに破れ、血まみれだ。奥のキッチンから漏れる電灯の明かりにほの暗く照らされた室内。遠くで小さく、カラスの鳴く甲高い声が聞こえる。1

2016-01-07 00:02:26
赤い方の蟹 @kaori6113

タカギ・ガンドーはローカルコトダマ空間にいた。事務所の軋むパイプベッドから起きあがると、着替えてテーブルへ向かう。エントロピーがやや減少した室内。仕切り代わりの本棚の向こう、キッチンの辺りから、コーヒーとトーストの焼ける匂い。食器を並べる音も聞こえてくる。2

2016-01-07 00:02:39
赤い方の蟹 @kaori6113

「所長、遅いスよ」シキベはテーブルの準備をすでに終えていた。「ようやく仕事がひと段落したんだ、たまには寝坊くらいいいだろ」席に着いたガンドーはコーヒーを啜り、トーストをかじる。「……スゴイ!ここでオオキイウミが万札を掴んだ!」低俗なオスモウTVの音。シキベがつけたものだ。3

2016-01-07 00:02:57
赤い方の蟹 @kaori6113

「いつものことスけどね」シキベも向かい側に腰を下ろし、食べ始めた。その頬は赤く、膨れて見える。やはり、この姿には負担がかかっているのか。ガンドーは一瞬胸を痛めたが、あえて気づかぬ振りで食事を食べ進める。4

2016-01-07 00:03:14
赤い方の蟹 @kaori6113

「所長、今度のやつ、ちょっとマズイかもですよ」「何だ、首尾はまずまずだったぞ。行方不明だったタバト=サンの娘・クミは保護したし、殺人ストーカー野郎を捕まえる罠も張った」そう言いつつ腹をさする。「奴がニンジャだとは思ってなかったが。ちょいとケガしたが、そのうち治るさ」5

2016-01-07 00:06:31
赤い方の蟹 @kaori6113

「そうじゃないです、次のやつ」「ん?今は他に仕事は受けてなかったろ」「これからやってくるやつですよ」トーストを食べ終えたガンドーはごく自然に懐を探った。「ウェー……。またZBR探してるんスか」6

2016-01-07 00:06:52
赤い方の蟹 @kaori6113

「ちょっとズバリ・ガムがないかと思っただけだ。寝起きだから、頭がまだよく回らねぇんだよ」ガンドーは服のポケットを調べ尽くし、未練がましく机のうえと本棚を目で追って、諦めた。コーヒーカップを大きな手で掴み、シキベに差し出す。「この後に、何かヤバい仕事が来るッてのか」7

2016-01-07 00:07:06
赤い方の蟹 @kaori6113

シキベは無言でそのカップを受け取り、コーヒーを継ぎ足して渡す。「嫌な予感がするんス」「珍しいな、名探偵の勘か?」ガンドーはおどけてみせた。8

2016-01-07 00:07:26
赤い方の蟹 @kaori6113

「探偵が大事にするべきは裏付け調査だ……まだ来てない依頼がアヤシイってのはさすがに調べようがない」「そうなんスけどね」シキベはためらいながら言葉を次いだ。「今度のは何か、ホントにヤバイって気がして」ガンドーはまじまじとシキベを見て、頭を掻き、天を仰いだ。9

2016-01-07 00:07:44
赤い方の蟹 @kaori6113

「確かに、勘は俺よりシキベの方がいいかもな」ガンドーは腕組みして、これまでの仕事をざっと振り返る。シキベとともに手がけた事件を。琵琶湖クルーズ船、グランド・オモシロイの夜やキョート城で一緒に仇を討った時のこと。以後の事件の数々。10

2016-01-07 00:08:01
赤い方の蟹 @kaori6113

「だいたい、ヤバイ状況だった」ガンドーは天井から視線をシキベに戻した。「いつ死んでもおかしくなかった。優秀な助手と、ZBRのおかげかな。いや、もうやめるさ」ふざけてみせるが、助手は反応しない。11

2016-01-07 00:08:18
赤い方の蟹 @kaori6113

シキベは両手でカップを包み込み、俯いていたが、不意に顔を上げた。「所長、私がいなくなったらどうします?」真剣な眼差しだ。12

2016-01-07 00:08:35
赤い方の蟹 @kaori6113

「ちょっと想像できんな」ガンドーは正直に答えた。こんな時に虚勢を張っても仕方がない。「でもたぶん、いなくならないように手を打つさ……いなくなっちゃ困る。だいいち、あの時の打ち上げ、まだやってないからな」13

2016-01-07 00:09:06
赤い方の蟹 @kaori6113

「ウェー……シャンパンで乾杯でスか。まだ言ってるんスか」シキベがあきれた。「俺は諦めてないぞ」ガンドーは笑った。シキベも顔をほころばせた。14

2016-01-07 00:09:24
赤い方の蟹 @kaori6113

「いつもすまんな、心配ばかりかけて」「ウェー……所長どうしたんスか、トシヨリみたいスよ」シキベは言いつつ、顔を赤らめた。遠くで電話の鳴る音がする。タイムリミットだ。15

2016-01-07 00:09:44
赤い方の蟹 @kaori6113

「イヤーッ!」バターン!!その時、現実の事務所の戸が外側から蹴破られた!「テメッコラー!!クミダセッオラー!」モヒカン頭の男が怒鳴りながら入ってくる。男は寝込んだままのガンドーに近づき、その両手に生えてきたカマ・ブレードを大きく振り上げた!カマキリ・ジツ!アブナイ!16

2016-01-07 00:10:01
赤い方の蟹 @kaori6113

「KABOON!!」「アバババーッ!!」その瞬間、足元に仕掛けられていたスタン・グレネード弾が爆発!男は閃光に目を覆い、ひざをつく!起き上がったガンドーは49口径を構え、その頭に至近距離から銃弾を打ち込む!BANGBANGBANG!17

2016-01-07 00:10:23
赤い方の蟹 @kaori6113

「サヨナラ!」頭部が爆ぜ、男は爆発四散した。「……ようやく終わったか」ガンドーはふらつきながらゆっくりと立ち上がった。18

2016-01-07 00:10:44
赤い方の蟹 @kaori6113

すでに夜は明けていた。窓から外の明かりがぼんやり差し込んでいる。と、ふいにワータヌキの黒電話が鳴りだした。「畜生、朝からなんだ……」ガンドーは電話に向かってのろのろと歩き、受話器に手を伸ばす。その脳裏に、シキベが先ほど見せたあの真剣な眼差しが甦った。19

2016-01-07 00:11:01
赤い方の蟹 @kaori6113

【アット・ア・デイブレイク】終わり。

2016-01-07 00:11:17