個人線量計のバックグラウンド値をどう設定するか-D-シャトルを例に
(1) 以下,D-シャトルでのバックグラウンド(BG)をどう設定するのが良いかというぎ検討. 某先生へのDMにしようかと思いましたが間違いが無いか検証していただくためにもあえて公開で.
2016-01-07 12:26:22(2) 個人線量計のBGの設定は悩ましい問題.私自身,PDM-122を貸し出すときにつけるマニュアル ((PDF) docs.google.com/file/d/0B8kVtj… ) の初期版を記す時,数字1つを決めるのにずいぶん頭を悩ませ,調べたり考えたりした問題.
2016-01-07 12:27:35(3) 事故前の実測があればBESTで,ガラスバッジについては togetter.com/li/778890 の最後にまとめてある. しかし,今から事故前のBGの値は取れない.
2016-01-07 12:29:30(4) 他にも,機器が変われば特性も違いBGが変わること(厳密に言えば値を流用できない),地域による差をどう考えるか,そもそも一人一人BGが違う問題がある. 厳密なBGはそもそも決めようが無いというのが大前提で,それでも妥当な値を決めざるを得ないときにどう考えるかということ.
2016-01-07 12:31:28(5) 計測の問題としては,技術的にはどうするべきかという話と,結果の利用の観点からどうするかの2つの視点が必要. その上でいくつかの案を.
2016-01-07 12:32:54(6) 1つ目は誤差が入る事を理解した上でガラスバッジの0.54mSv/年を流用すること.誤差がさほど大きくなければこれも実用的な方法の一つ. 一方でD-シャトルで宇宙線の高エネルギー領域の感度が低ければわずかにではあるが過小評価側になってしまい,気にする人はいるかもしれない.
2016-01-07 12:33:17(7) D-シャトルのエネルギー特性は“「東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に係る個人線量の特性に関する調査」(個人線量特性調査)” (PDF) nirs.go.jp/information/ev… のp.23 図21 "個人線量計C" が該当.
2016-01-07 12:35:10(8) 2つ目の方法.ガラスバッジとの相互運用を考慮する場合.千代田テクノルのBG決定法と同等の条件でD-シャトルの値を取ってもらい,両者の差を使って事故前の値0.54mSv/年に補正値を加える (同環境での差分を事故前の値から引く).
2016-01-07 12:36:17(9) 現在測定可能なのは事故後の値であるのでそのままは使えないが,機器特性の差を補正するための差分値としては有効.もし千代田テクノルに依頼できるならこれが一番良いように思われる.
2016-01-07 12:36:44(10) 3つ目の方法.事故による放射性物質の降下が無かった地域,かつ,日本地質学会のマップ geosociety.jp/hazard/content… を参考に運用地域と地質的に似た地域でバックグラウンドを測定する方法. 多数で平均を取ればかなりよさそう.
2016-01-07 12:37:49(12) 4つ目の方法.宇宙線の寄与の差をおおよそ見積り,えいやと適度に丸めた値を使う方法.精度は劣るが,簡単かつ引きすぎでない値を採用するなら防護的には0.54mSv/年を引くよりは良いかもしれない.
2016-01-07 12:38:35(13) いずれの方法でも,不確定な部分はBGを低め側に(引きすぎないように)丸めて設定すれば防護的な考え方にも合致する.特に,個人線量計の値は実効線量に対して安全裕度が小さいので少し引き足りないぐらいで良いかもしれない. (もちろん,他の解析では目的が違うので中心を狙うべき)
2016-01-07 12:39:55(14) 元々の個人個人のBGの揺れを考えると0.1mSv/年オーダーの増減は実質問題にならないが,過小評価は防護的観点から批判を受ける.逆に言えばそのレベルで過大評価しても問題はないので,追加量が少し高めに出るようにBG低めで評価する方が運用の観点からは望ましいかもしれない.
2016-01-07 12:40:40(15) また,いずれのケースでもBGの値を減算した値を用いるのはなく,この記事 (pdf)jrias.or.jp/books/pdf/2014… の様に値を引かず元の値を示し,BGに相当するところに線を描く方法が様々な面からも望ましい.
2016-01-07 12:43:42(16) もう一つの案としては,BGの分,ベースラインを下にずらしたグラフを描けば元の測定値も再現でき,かつ,上乗せ分をうまく説明できるのではないかと.これは単なる思いつきなので,正しい方法かはわかりませんが. (以上)
2016-01-07 12:44:42以下余談
BG値が多少大きいか小さいかは実質的には影響のない問題.確かにその通り. しかし,使っている人と話すときには尋ねられれば適切に答えられないといけない問題.気にしなくて良いといっても気にする人はいる. そういう意味で現地で人と話す上では現実的な問題.ましてや機器の運用をしているなら
2016-01-07 13:51:28「科学的に意味は無い」「実質的には影響無い」と言うだけで済めば話は簡単. 細かい数字に意味は無いことももちろん説明はするけれど,フロントに立って説明する立場になるとそれだけでは済まない. 現地で運用を担当してくださった方はそれだけ苦労されてた(難しい話は私にまわしてもらった).
2016-01-07 14:42:00計測屋が通常は問題ならないレベルまで緻密に検討するのは「この方法で問題無い」と言い切るためなんですよ.たとえ最終的に値を示すときはざっくり丸めるにしても. 一見,やってることの方向は逆に見えても「私たちは子供を産めますか」に「何の問題もない」と言い切るのと根は同じ.
2016-01-07 18:55:08当然,場面による使い分けはしていて,現場ではざっくりした話しかしませんし,大雑把にとらえることの大事さも伝えます. そのざっくりした話の背景にその何倍もの検討の結果を持っておくということ.
2016-01-07 19:44:44前にもおんなじこと書いてるなあ twitter.com/clear_wt/statu… twitter.com/clear_wt/statu…
2016-01-07 19:53:14計測機器を提供する側や,対外的に数値を発表する側は,その精度を高めるために細心の注意,最大限の努力を払う必要がある.その数字を見て悩んだり,その数字を元に判断する人がいて,時に他人の人生に影響を及ぼしかねないものだから.こんなもんでいいだろうと手を抜いてはいけない.→
2013-02-19 23:58:58→逆に,数字を読む側も,計測には限界があること,測定値には必ず誤差があることを理解して,数字を絶対視せず,良い意味で適当に付き合っていく必要がある.「できるだけ良い測定を行うコツ」でも最初に記したように,目的を明確にして,結果をうまく使う意識がないと数字に振り回されてしまう.
2013-02-20 00:03:04