【GC/ifの日】焔ノ騎士【ウリエル生存】

つよくなる💪ウニ @lv100uni

必死な願いも虚しく頭痛は酷くなっていく。耳鳴りが激しくなって音が聴こえなくなった。 急速に身体が冷えていく。 ずる、と目の前の屍人を掴む腕から力が抜ける。 ついに闇の帳が下りて、何も見えなくなった。 #焔ノ騎士

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ふと、気づく。 (あぁ、俺……何を勘違いしてたんだろう……) そもそも自分は、ウリエル=トレーフルは。 とうに。 #焔ノ騎士

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最初から、生きてなど。 #焔ノ騎士 #焔ノ傀儡

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「終わったぞ」 頭上から冷たい声がかかる。 目を開ける。 洞窟の中のような天井。 手術台にも似た硬い机の上に縫いつけられた身体。 「……」 戻ってきたのだ。 この現実に。 #焔ノ傀儡

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ゆっくりと身を起こす。 先程まで行われていた『手術』のため、今は服を着ていなかった。目を落とせば腹部にうっすらと走る縫合痕。胎は僅かに膨れているように見える。 「服を着ても？」 傍らで血に汚れた手を洗う男に声をかける。素っ気ない声が返される。 「あぁ、もういいぞ」 #焔ノ傀儡

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意外にも几帳面なこの男――ヴァルハラは近くの棚にウリエルの服を全て折り畳んでしまっていた。のろのろとそれに袖を通しながら、身体の違和感を確かめる。屍兵となってからは慣れた作業だ。 五感は問題ない。 手足は揃っている。 神経の接続も良好。 他には。 #焔ノ傀儡

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「……腹がゴロゴロする」 「当たり前だ」 率直な感想を述べれば、苛ついたような施術者の声が背中越しに飛んできた。 「わざわざ胎の中にそんなものを仕込んでやったんだ。異物を入れているんだから違和感があって当然だろう。直にお前の内臓と癒着して安定するはずだ、我慢しろ」 #焔ノ傀儡

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極めて不本意だとばかりに男は舌打ちをし、水道の蛇口を捻って止めた。死体の身体を切り開くのに使った道具の数々を手早く消毒桶へ放り込んでいく。 「俺は最初から反対していた。それを強引に押し切ったのはお前だぞ、ウリエル」 「あぁ、分かっているさ。これは俺の意志だ」 #焔ノ傀儡

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そう、これは。 「まったく……せっかく全ての無駄を省き完璧に最適化された肉体を作ってやったというのに、なぜ俺の最高傑作は自らそれを崩すような真似をするというのか」 意志にして遺志。 「そんなもの、言えば幾らでも素体を用意してやる。わざわざ己に飼わなくてもいいだろうに」 #焔ノ傀儡

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「はは、分かってないな、ヴァルハラ」 魔術師の嘆きを屍兵は一蹴する。 「己の身に巣食わせるからこそ意味があるんだよ。『彼ら』は俺の罪の証。俺は自分が殺した数だけ強くならなければならない。そのための、我が身を糧とした贖罪さ」 「ハッ、くだらない。寝言は寝て言え」 #焔ノ傀儡

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「まぁ、その辺はこの際どうでもいい」 一通り始末を終えたヴァルハラは徐にウリエルへ近づき、その頬へ触れた。生暖かい生きた人間の熱量が伝わる。 「それより、主義を曲げてまで願いを聞いてやったんだ。対価は本当に払えるんだろうな？」 束の間歪む、男の笑み。 #焔ノ傀儡

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鮮やかな反転。理性的なこの魔術師の表面に、彼の抱える埋まらぬ虚が姿を現す。 「勿論。まぁ見ていろ、ヴァルハラ。……言った通り、近いうちにあんたがもう二度と俺以上の屍兵なんて作れないと思える程の、お前の最高傑作その全てを見せてやる」 #焔ノ傀儡

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使い魔とその主の契約に似ている。互いの心に巣食う沼を埋めるために、互いの利を取った。それだけだ。 「あんたが抱えるその虚無を埋めてやる。この俺の焔をもって。だから俺に、俺の元へ、あの子を連れてきてくれ」 #焔ノ傀儡

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――此処は魔境。パンドラの闇魔法師の力により投影された人工的な空間、その最深部には、魔境の核となる存在がいる。 高い天井、広々とした洞窟、一人では些か持て余す大きさの空間に男は独り立っている。此処で待っているのだ。 洞窟内は例にも違わずじめじめしている。 #焔ノ傀儡

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壁から滴った水滴が床に水溜まりを作っている。錆び付いた鏡のように朧に姿を反射するそれへ、ウリエルは視線を向けた。 水溜まりの奥から『影』がこちらを睨み返している。黒衣に身を包んだ陰気な屍兵がいる。その顔は古い火傷に蝕まれている。 #焔ノ傀儡

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ふとちらついた光が乱反射し、水溜まりが白む。一瞬、ほんの一瞬だけ、水溜まりの向こうで生気に溢れた槍使いの青年が笑った気がした。 ――夢を、見ていた。否、あれは夢だったのか。もしや交錯した現実だったのかもしれない。 幸せで、平穏で。 何度も望んだ未来を男は幻視した。 #焔ノ傀儡

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もし自分が生きていて、マヌエラの傍にあれたなら。 そんか幸せな、一つの結末。 「……くだらん幻想だ」 そう吐き捨て、男は水溜まりに背を向け指を鳴らす。パチン、音が響くとどこからともなく這い出した炎があっという間に洞窟内を満たす。その圧倒的な熱量に水分は一瞬で蒸発した。 #焔ノ傀儡

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ごうごうと炎が燃え盛る。壁を、床を、天井を、歪んだ変異律の炎が舐めていく。けれどもそれらは魔境の主には忠実で、彼だけは傷つけることはない。 火炎獄。 そう名付けるに相応しい深層で、屍兵は待っている。 #焔ノ傀儡

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「よく来たな」 幸運にも、いや不幸にも、魔境の深部へと至った目の前の人間へ男は話し掛ける。 相手の返答がなくとも構わない。屍兵は続けてこう質問する。ここまで辿り着く者がいる度、もう何百回と繰り返した問答だ。 「お前はマヌエラという少女を知っているか？」 #焔ノ傀儡

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困惑顔の君主と魔法師が首を傾げる。どうやら此度も外れのようだ。 「そうか。知らないか……なら、悪いな。お前達にもう用はない」 男が手で何かを招くような仕草をする。ざわりと場の混沌が粟立ち、彼へと集中する。屍兵の手が相手を指し示す際、その肌を這うように、刹那。 #焔ノ傀儡

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肌の上を網目状に、真紅の紋様が浮かび上がり、そして消えた。 「――混沌核となって俺の中で生きてくれ」 変異律が共鳴する。生き物のように炎が踊る。燃え上がる焔の一撃が、来訪者を無慈悲に呑み込んだ。 #焔ノ傀儡

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あの子を護る騎士になれたらと思っていた。 けれど騎士の身では彼女を護れぬのなら。 力が足りぬのなら。 俺は、例え傀儡に身を堕としてでも、君を護ろう。 焔ノ騎士から焔ノ傀儡へ。 此れは、騎士であることを棄てた男の物語。 #焔ノ傀儡