戦車降下『ふわふわ作戦』

赤肩 @fuyutuki67

妹が黒森峰から去り、そして妹に敗北した西住まほは深い心の傷を負い正気を失った。旧知の仲である逸見エリカからの通信も途絶えた時、事態を重く見た軍神西住みほは古巣黒森峰女学園に密偵秋山優花里を派遣した。数日後、秋山から届いた映像は常軌を逸した内容だった。「みほの香りがする」

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「に、逃げて！」一瞬、聞き覚えのある声がした。カメラが声のした方に向くとそこには髪は窶れもはや服と呼べる代物ではない売女のような衣装を着た逸見エリカがいた。「どうしたのでありますか！」秋山が駆け寄ろうとすると逸見はこっちに来るなと声をあげた。直後、逸見の背後にある部屋の扉が開いた

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大洗女子学園の制服を纏い、腕にはボコぐるみを抱え、眼は虚ろ、口元は僅かに動くだけ。西住みほは驚愕した。姿形を自らに似せ、声にならない声で呟く姉の姿に驚愕した。西住まほは虚ろなままカメラに向かい歩いてくる。ふらり、ふらり、一歩一歩が浮いているかのような足取りだった。

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「み、みほ？」初めてカメラがまほの声を拾った。秋山は感じた、ヤバい。後ずさるカメラの主を視認したまほは先ほどとは違うしっかりとした歩調で彼女に迫る。「みほ、みほの香りがする。どこだ？どこにいる？」語気を強め、歩行から早足、早足から疾走に。秋山は逃げた。捕まったら無事では済まない。

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揺れる画面。何度かの暗転の後、ようやく画面が安定した。しかし画面は暗い、どこかに隠れたのだろうか。音声は秋山の乱れた呼吸のみを伝えていた。いや、足音がする。靴を履かず直に鉄の床を歩く湿った足音だ。「みほ、出てきてくれ。一緒にお母様に謝りに行こう。どこだ？隠れてないで出てきてくれ」

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一歩、また一歩と確実に近づいてくる。次第に音声は荒い息から震えた歯がぶつかり合う音に変わった。「大丈夫だ、もう怒ってないよ。一緒に帰ろう。私もお母様も、みほが大好きなんだ」狭い艦内に響く冷たい声。しかし足音は次第に遠ざかり声も薄れていった。

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行ったか。安堵した心が画面の震えを止め、張り詰めた息を微かに吐き出させた。「なんだ、ここにいたのか」画面が、再び途切れた。映像が切り替わり薄暗い部屋を映し出す。「みほはな、ボコのぬいぐるみが好きだったんだ。出掛ける時も寝る時も、ぬいぐるみが無ければ嫌だとよくぐずっていた」

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先程とは違い服を脱ぎ捨てたまほが映った。照明が中央の椅子を照らすとそこには逸見エリカと秋山優花里が縛り付けられていた。「いつも、いつもボコ、ボコって。でも、本当はそこに私がいたかった、私一緒に出かけて私と一緒に寝て欲しかった。私と一緒の側に……いて欲しかった」

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隣の机には包帯と、何に使うかを想像したくない道具が散らばっていた。姉は一本また一本と目を通し品定めをしているようだった。「でもみほはボコが好きなんだろう？大丈夫、お姉ちゃんはちゃんとみほのこと分かっているよ」彼女は指を自らの股に這わせうっとりとした目線でカメラを覗き込んだ。

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「ああ……みほの事を考えるだけですぐ……ッン。はぁ、みほ、早く帰ってきてくれ。お姉ちゃん、みほが好きなボコのぬいぐるみを沢山作って待っているぞ。みほが帰ったら一緒に遊ぼう」机から道具を掴み、自らの身体に傷をつける。「みほに遊んで貰えるなら私がボコになっても良い」鮮血が滴り落ちた。

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「隊長！止めて下さい！副隊長は、みほさんはそんなこと望んでいません！」逸見は椅子をガタガタを揺らし自らの隊長を止めようとするが彼女の声は届いていない。「ああ、逸見。待たせて悪いな、逸見もすぐボコにしてやろう。そうすればまた三人でいられるぞ」

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逸見の身体には切り傷、火傷、青あざが浮かんでいた。「すまない。お姉ちゃんボコはよく分からなくてな、図工も苦手だったし沢山失敗してしまった。でも今度は上手くできるはずだ。沢山、沢山練習したからな。上手くできたらみほにあげよう」逸見の腕に、異物を突き刺し西住まほは笑った。

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「だから、早く帰ってきてくれ。みほ」その後も映像は続いた。絶叫、鮮血、また絶叫。たまに姉が気をやり果てているシーンもあったか、だが冒頭の映像だけで西住みほが決断するには十分だった。秋山優花里はまだ無事だ、逸見エリカは命はまだあるだろう。でも、今止めなければならない。

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月の無い夜、サンダース大付属から借り受けたスーパーギャラクシーが黒森峰女学園上空を飛行していた。史上初、学園艦への戦車降下「ふわふわ作戦」である。古い友を救う為、今の友を救う為、この夜西住みほは真の軍神になった。「待っていて、お姉ちゃん」