#完全ノープラン艦これ与太話 【コレクティヴ・サブコンシャスネス】#7～#8

春魔解丼 @vespiking

謎の電波ジャック事件は終息を見た。翔鶴は自我科ドックへ入渠し、治療を受けている。多少の後遺症は残ることになるだろう。秋雲は容態が安定し、近く出渠する見込みだ。爆破事件の真相は未だ不明。数日経過しても犯行声明等のない事から、大本営はこれを通り魔的な自爆行為と発表。 #KZNPLN

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メディアはおぞましい事件の記憶を洗い流すように、急拵えの感動エピソードと愉快なニュースを集めた。川に現れたラッコの話などだ。すべてが少しずつ、元のかたちに戻ろうとしていた。不気味なほど強引に、謎と爪痕を遺したままに。見えざる人々の意思によって。 #KZNPLN

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弥生は、ネオヨコスカにいた。交通整理で押しやられる被害者遺族の一団を視界の隅に捉えながら、彼女はあの広場にいた。「チョットマッテ！通行の邪魔です」「帝国軍所属。駆逐艦、弥生」「アイエエエ！ヤメテ！これ、ほんの気持ちで」「……いりません。別に怒って、ないですから」 #KZNPLN

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逃げるように立ち去るマッポ妖精。弥生は溜息をついた。「……何も、ないか」何もない。何も、なくなった。ここに、彼女の求めるものはない。今あるのは、あのあと、空になったこの場所に流れ込んだ不純物。弥生は踵を返した。そこで背後の人影に気がついた。「……ア」「ドーモ」 #KZNPLN

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白いドレスに身を包んだ、黒髪の美しい女性。「……ドーモ、弥生、です」「お久しぶりです」女性は深くオジギした。白く大きな角状の髪飾りが、弥生の眼前にぐいと近付いた。あの時、あの事件の直前。インタビューしていた深海棲艦だ。「……ヨカッタ、ご無事、だったんですね」 #KZNPLN

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弥生は心の底から安堵した。「ああ、何か怪我とか、されませんでしたか」「エエ、大丈夫です。ありがとう」再び女性は礼をした。奇妙な沈黙が流れた。「……あ、スミマセン。仕事、ありますので。これで……」「知りたいですか。ワイオミング＝サンについて」「エッ？」 #KZNPLN

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思わず素っ頓狂な声が出た。思ってもみない名が、唐突に出た。だが不思議なことに、弥生の心に訝しみはなかった。頭の考えとは別に、その言葉がすうと、心に入り込むような感覚だった。「……ハイ」「どうしても？」弥生は肯いた。強く、思い切り強く。 #KZNPLN

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そこから先、記憶は曖昧だった。弥生は彼女に導かれるまま、気付けば見知らぬ廃墟にいた。擦り切れた門の表札には辛うじて『送放営民カスコヨオネ』の文字。NYTVの古い基地局か何かだろうか。探照灯で照らしながら、蜘蛛の巣と埃だらけの薄暗い廊下をずっと歩いた。 #KZNPLN

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ギイと軋む音を立て、大型のUNIXが並ぶ部屋に入った。墓標めいた筐体の奥、ぼんやりと薄明かりが見えた。「……アレ、生きてる」淡いLED光を放ちながら、なけなしの自己発電機構で辛うじて電源を保つ、小さなUNIX筐体。「そうよ。それが、ワイオミング＝サン」 #KZNPLN

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弥生はすぐさま携行式バッテリーを筐体に繋ぎ、パチパチとスイッチを切り替えた。ブウーウウンン……。鈍い起動音と共に、背後のモニタが起動した。ドクロめいた深海棲艦の顔がそこにあった。『……ザリザリ、ドーモ……ワイオミング、です……ハローワールド』 #KZNPLN

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「……」『ドーモ……実行コード、を、入力……ザリザリ、待機モード……知性レベル49……サブリミナル効果、ザリザリ……総じ緑な……』「……」弥生はドクロめいた深海棲艦を眺めていた。無邪気に口をパクパクと動かし、ノイズ混じりで軽快に喋るそれを。 #KZNPLN

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「もとは、ネオヨコスカ民営放送が制作したサブリミナル放送用AI。悪用してスポンサーに売り込もうとしたところ、予期せぬ誤動作による事故発生。……多重自我の気配のあった自我科患者が、実験用放送を見て発狂。同病棟の患者5隻と職員2隻を巻き込んで焼身自殺」「……」 #KZNPLN

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「秘密裏に帝国軍の制裁が下り、責任者は別件逮捕でセプク。この基地局も閉鎖。……でも、この子は生きていた。自分の頭で考えて、自分の頭で動いた」『……ザリザリ、次の指示を、クダサイ……』「……」「それを〈過激派〉の調査員が発見した。捨てられた、この子を」 #KZNPLN

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「それが……それで？」弥生は開いた瞳孔でそれを見つめながら、口走った。「そんな理由、で？」「……どうしますか？この子を。生き延びた命を。貴女は、どうしますか？」『……ザリザリ……言葉を教えて下さい……ザザザ』 #KZNPLN

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「……ウウウアアアアーーーッ！！」弥生は思い切り、筐体を殴りつけた。『ピガガーッ！？』「アーッ！アーッ！」『ピガッ、危険！危険！ヤメテクダサイ！破損！破損危険性！』「こんな！ものの！ために！誰だ！誰が生んだ！誰が、誰が！」『ガガピー！タスケテ……！』 #KZNPLN

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「その子の親は、もういないわ。セプクした」「違う！違う！……当人じゃない。誰が！誰がこんなものを！何が！何が生んだ！」『……ビガガガガガガガゴガカ』「こんなものは生まれてきちゃあいけなかったんだ！いてはいけないんだ！誰だ……誰のせいなんだ！」 #KZNPLN

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筐体の一部がもぎ取れ、断面から記憶素子が見えた。同時、モニタの映像が消えた。「ハァーッ！ハァーッ！……こんな、ものの、ために」弥生は膝をつき、筐体脇の仕様書をぐしゃりと掴んだ。消費を煽るきらびやかな商品広告のロゴが皺で潰れ、色褪せたグラビア写真が醜く潰れた。 #KZNPLN

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「そうですね。そんなもののために、皆生きているのです」「……」「皆、幸せになりたいから。欲しいものが欲しいから」「……」弥生は無言で位置情報を大本営に送った。明日にも、飼い主を失った忠犬の残骸は徹底破壊されるだろう。 #KZNPLN

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弥生の目の前にあるのは死体だ。先まで生きていたものの死骸だ。生きたまま大本営に引き渡してはならない。そう思って彼女は殺した。これは、葬り去らねばならない技術なのだ。妖精や艦娘、深海棲艦が欲望を持つ限り。あの日の光景が頭をよぎった。 #KZNPLN

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「……アリガトウ、ゴザイマス」「ええ。ドーモ」女性はおそろしく澄んだ声で答えた。「私も困っていたのです。お互い様。……一度作ってしまったものというのは、親の意図に構わず動いてしまうものですね。困ったものです。本当に。……誰にも殺して、貰えないから」 #KZNPLN

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「……あの」弥生は後ろを向かず、そのまま訊いた。「貴女のお名前、訊いてませんでした」クスクスと笑い声のあと、オジギの衣擦れが聞こえた。「ドーモ。パラダイスロストです」 #KZNPLN

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弥生が振り返ると、彼女はもうどこにもいなかった。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【コレクティヴ・サブコンシャスネス】終わり。 #KZNPLN