ブラインド・ボトムズ#3(完結)

色々仕込みつつ冬イベ回終了。
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劉度 @arther456

【ブラインド・ボトムズ】#3

2016-01-23 20:35:56
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2016-01-23 20:37:40
劉度 @arther456

軽巡棲姫は探照灯で敵を照らし続けていた。敵は白昼同然に照らされ続けているが、彼女には見えていない。両目は分厚い装甲に覆われている。彼女が頼りにしているのは、調整された聴覚、艤装の複合センサー、そして眼下の潜水艦から送られてくる観測データだ。 1

2016-01-23 20:38:50
劉度 @arther456

目は見えなくていい。何も見ずとも瞼の裏には、敵で溢れる赤い海が焼き付いている。何十、何百と倒し続けても、なおも迫り続ける敵。「もう、来なくていいのに……何で来るの……ッ!?」ここで自分が踏み止まらなければ、後ろにいる提督が危ない。軽巡棲姫は歯を食いしばる。 2

2016-01-23 20:41:49
劉度 @arther456

背後で空気が掻き乱された。振り返った軽巡棲姫は、自身に向かって突き出された、高い魔力を備えたナイフを左腕で受け止める。「何ッ!?」驚愕した敵の声が聞こえた。探照灯の外の闇に紛れて不意打ちをしようとしていたようだが、目の見えていない彼女には通用しない。 3

2016-01-23 20:45:02
劉度 @arther456

右手で敵を殴りつける。「くっ!?」確かな手応え。水面を跳ねる音。まだ沈んでいない。これだけ近くにいるなら、艤装のセンサーだけで正確に位置を割り出せる。左手の副砲を向け、斉射!だが敵はそれを避ける。魚雷の投下音。軽巡棲姫はその場から動き、放たれた魚雷を避ける。 4

2016-01-23 20:48:19
劉度 @arther456

動きの軽やかさ、そして魔力からして相手は駆逐艦だ。不意を突ければ軽巡棲姫も危なかっただろうが、こうして真正面から向かい合えば、負ける要素はない。「逃がさないわ」駆逐艦の周囲に砲弾をばらまき、身動きを取れなくさせる。「貴方の帰り道は無いの……もう無いのよ!」 5

2016-01-23 20:51:36
劉度 @arther456

「逃げるつもりはありません」着弾音の中に、敵の声があった。「不知火は、貴方を確実に仕留めます」その高慢な物言いに怒りを覚える程度の自我は、軽巡棲姫にはまだ残っていた。「生意気な……少し、お仕置きが必要ね!」足を止めた相手に向け、必殺の酸素魚雷を放つ! 6

2016-01-23 20:54:50
劉度 @arther456

敵の方から水音がした。また魚雷を放ったのか。刺し違えるつもりだろう。軽巡棲姫は魚雷を避ける。そして爆発音。魚雷が敵の足元で炸裂――。「いや、違う!?」着弾には3秒早い。迎撃された。咄嗟に身構えた軽巡棲姫は、自身に飛来する金属体をレーダーで感じ取った。 7

2016-01-23 20:58:07
劉度 @arther456

人一人が入りそうな大きさ。艤装、あるいは何らかの新兵器か。構えたままそれに向けて主砲を放つ!砲弾は狂いなく金属体の中心を貫き、そして巨大な熱量が眼前に出現した。「なっ!?」爆発、それも自身の砲弾のものではない。戦艦の燃料庫を撃ち抜いたかのような大爆発だ。 8

2016-01-23 21:01:18
劉度 @arther456

軽巡棲姫がその目を開いていたのなら、何が起こったかは一目瞭然だろう。魚雷を吹き飛ばし、軽巡棲姫に投げつけられたのは燃料を満載したドラム缶だった。魔力により容量を拡張させたドラム缶には、見た目の数十倍の船舶用燃料が詰め込まれていたのだ。 9

2016-01-23 21:04:42
劉度 @arther456

そして爆風の、熱と音の壁を突っ切って、不知火が軽巡棲姫に躍りかかった。その時、軽巡棲姫の身を反らせたのは、蓄積された戦闘経験か。それとも勘か。弧を描いて振り上げられた刃は、しかし軽巡棲姫の心臓を突き刺すには至らず、その目を覆う装甲を切り裂くだけに留まった。 10

2016-01-23 21:07:56
劉度 @arther456

目は露わになったが、軽巡棲姫はなおも固く目を瞑る。見る必要はない。次々と繰り出される刃を、音で、肌で、神経で感じ取る。見たくない。自分が本当に相手をしているものが何で、今自分がどうなっているのか。閉じた視界を守るため、拳を敵に振り下ろす! 11

2016-01-23 21:11:12
劉度 @arther456

体が浮いた。腕を掴まれた、と思った時にはもう投げ飛ばされ、海面に背中を叩きつけられていた。追撃が来る前に転がり、振り下ろされたナイフを避ける。起き上がりながら足払いを放つが、敵はこれを避ける。立ち上がり、顔に向けられたナイフを右腕の艤装で受け止める。 12

2016-01-23 21:14:16
劉度 @arther456

鍔迫り合いになった。駆逐艦と軽巡、機関には差があるはずなのに、相手は一歩も引かない。だが軽巡棲姫も引くわけにはいかなかった。後ろにある指揮艦を守るために。「……え?」疑問が頭をよぎる。レーダーにはそんな船は映っていない。なら、自分の指揮艦は? 13

2016-01-23 21:17:24
劉度 @arther456

《アロー、アロー、神通ちゃん?》頭の中に知らない声が響いた。「誰!?」《あれ?……あー、頭のアレ、外れちゃったのか。ま、丁度いいか》敵と刃を交える軽巡棲姫は、困惑の極みにあった。初めて聞くはずの声なのに、まるで違和感を感じないほど聞き慣れている。 14

2016-01-23 21:20:28
劉度 @arther456

《僕たちはこれから撤退するから、最期までそこの輸送部隊を攻撃し続けてね。期待してるよー》「何ですか!あなた、誰なんですか!?」頭の中で何かが切り離される感覚。それっきり、声は聞こえなくなった。そして、送られていた指揮艦からの観測データも。 15

2016-01-23 21:23:31
劉度 @arther456

目の一つを失い、軽巡棲姫の動きが鈍る。脇腹をナイフで切り裂かれる。だがそんな事は彼女にはどうでもよかった。指揮艦はどうなったのか。護衛の僚艦たちはどうしているのか。彼女が慕う提督は。真後ろにいるはず。振り返った軽巡棲姫は、その目を開いて船影を探そうとした。 16

2016-01-23 21:26:40
劉度 @arther456

戦場はなく、黒い海が広がっているだけだった。視界の端、遠くで2隻の艦娘が戦っている。それを取り囲むのは、見たこともない深海棲艦。今しがたまで見ていたはずの、あの時の戦場も指揮艦もどこにもない。頭痛。封じていた記憶が、現実を目の当たりにして暴れだす。 17

2016-01-23 21:29:50
劉度 @arther456

そうだ。戦いはもう終わっている。あの時指揮艦を沈めたのは――。全ての記憶が戻る前に、冷たい刃が彼女の心臓に差し込まれた。背後から不知火のナイフが、軽巡棲姫の心臓を貫いていた。「か、は……?」両腕がだらんと垂れ下がり、黒い艤装が滑り落ちる。 18

2016-01-23 21:32:59
劉度 @arther456

体はとうの昔に冷えきっていた。深海の呼び声に苛まれながら、彼女は自分が提督を殺したという事実を上書きするために、瞼の裏に戦場を描き続けていた。それが何者かによって指向性を持たされ、艦娘だけを選んで沈めるようになったのはいつからか。沈む彼女には分からない。 19

2016-01-23 21:36:14
劉度 @arther456

「以上が、コロネハイカラ輸送作戦の報告です。輸送中の戦闘により戦略物資を少々失いましたが、暫く攻勢を凌げるだけの物資は搬入できました。また、敵の棲姫を一体討ち、通商破壊部隊もこの海域から撤退したので、以後の輸送はもっとやりやすくなると思われます」 21

2016-01-23 21:39:18
劉度 @arther456

『蔵王』艦長、東郷優月は佐世保鎮守府第1地区にいた。優月が話しているのはこの地区の提督、そしてこの鎮守府を治める最高権力者である河沙(がしゃ)元帥だ。「計画書は後ほど提出しますが、ガ島前線基地建設に関する大規模輸送作戦の承認を、今ここで頂きたくあります」 22

2016-01-23 21:42:30