凝ろうと思えば何処までも来れてしまう。 「あとはサヴァが願い込めろおお」 夜が明ける前にはなんとか完成した。 次の日よろよろしながら出勤すると肉屋の前にサヴァがいた。なんだおまえ。 「ゾンネ、出来た?」 「でぎまじだよおー」 「ありがとう。助かった、お礼はまた!」 奪っていった。
2015-12-10 19:00:16サヴァ、いいところの坊ちゃんなんだからお金出せば幾らでも良いの手に入るだろうに。なんでだろ。 欠伸をしながら思う。 でもまあ、誰かの為に祈りを込めて作るのは好きだ。 (何処の誰かわかりませんが、早く良くなりますように) 今度サヴァには美味しい肉買ってもらおうと思いながら祈った。
2015-12-10 19:02:58サヴァくんの頼み事(その2)
#綴る深緑 #肉への疾走 秋も深まる頃、来客があった。 「やあ、ゾンネ」 「サヴァ」 金髪で優しげな青年騎士は穏やかに微笑んでいた。 「うわあ、珍しい、どうぞですよお」 「御夫君は?」 「今日はお仕事です」 「そうか、じゃあ、庭でお願いする」 紳士な彼らしい物言いに苦笑する。
2016-01-01 09:58:38「旦那様は気にしませんけどねえ」 「私は気にするよ。御婦人一人のお宅にお邪魔するのはね」 「はーい。お茶用意しますから先に庭まわってください」 庭のテーブルにお茶を用意して差し出す。 「どーしました?」 「うん?挨拶にね」 「挨拶?」 「私は中央に行く事になったよ」
2016-01-01 09:59:15「ああ、噂は本当でしたか」 「ああ。君主交代による人事異動だ。現君主様が嫁がれて、軍トップのオスヴァルト様が君主を継がれる。その空席に私が就く」 頷く。春位から囁かれていた噂だ。 サヴァ・ウラッハは中央に出て、現在軍の頂点にいるオスヴァルト・グリューネワルトの座を引き継ぐ、と。
2016-01-01 09:59:37「そっかー。寂しくなりますね」 「実家はこっちだし、まあちょくちょく帰ってはくるよ」 「帰ってきたら、肉持って来てくれればご飯ご馳走しますよお」 「肉はいるんだね…」 「野菜でもいいですよ?」 「…両方持ってくる」 「あはは、期待してます。用はそれだけですか」
2016-01-01 10:00:20含んだ眼でかつての上官を見つめる。 サヴァは苦笑して思う。 この子は純真のようで強かだ。 「いいや、もう一つ。肉屋のままでいい。予備役のままでいい。森の警護をしてくれ。緊急時には出動もしてほしい。まあ、所謂休日のバイトだな。肉屋のほうには話はつけてある」
2016-01-01 10:00:53「うわー権力って汚い。もう話ついてる」 外堀埋めてからですか、人望無くしますよおと笑う。 「了解です。人を殺せではなく森を守れなら請けましょう」 「…ありがとう、ゾンネ」 「任せてください。この森は皆で守ります。安心して行って来い」 ゾンネが拳を突き出す。
2016-01-01 10:01:39「ああ、行ってくるよ」 サヴァも拳を突き出して、コツン、と合わせた。 「よし、ご飯も出してあげましょう。ちょっと待ってて下さいねええ」 したたたっと家に駆け込んでいく。 「そんなにお肉は要らないよ」 笑いながら背中に声をかけた。 森の庭に、秋の風が通り抜けていった。 【了】
2016-01-01 10:04:43