俺屍版真剣文字書き60分一本勝負まとめ

Akakobe_orereで書いたワンライをまとめました。
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古縞(こじま) @Akakobe_orere

春という季節が好きだった。さんざめくような春の空気がことさら。血塗れの河岸で首を差し出していようとも鼻を掠めた春の浮き立つ薫りはいつもとなにも変わらない。妹たちの嗚咽も聞こえなくなったとき、湿った地面を見つめながら私は春の鬼になったのだった。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-11-29 02:07:47
古縞(こじま) @Akakobe_orere

あの方は約束を覚えているだろうか。鬼どもが己の体の肉を削っていく度に痛みと共にそう思う。血刀を翻し、己を切りつけた紅こべを真二つに切り殺した。瞬く間に死する己などに本当に魂などあるのかもわからないのに、今日も自分を迎えに来る蛍を探している。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-11-29 02:25:06
古縞(こじま) @Akakobe_orere

無我夢中で大将を退け、肩で息をしながら桔梗はふと辺りが異様に静かなことに気がつく。重い頭をめぐらせると血溜まりの中に己の娘が転がっていた。青白い頬に触れようと手を伸ばしたその時、鳩尾にどすりと衝撃。目を開けると朝日の中で娘が屈託なく笑っていた。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-11-29 10:27:57
古縞(こじま) @Akakobe_orere

卑弥子が嫌う血臭をまとった男は恭しく頭を垂れたあと、精緻な紙細工を拾うように彼女の手をとった。血の臭いの隙間に鼻を掠めたのは、いつも己の社に添えられる献花の香り。男の瞳がただ真っ直ぐ己を捉えているのを見て、卑弥子の頬はその花のように赤くなった。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-11-30 04:21:30
古縞(こじま) @Akakobe_orere

眩草から若草色を、矢車附子から黒色を、丁寧に染めた反物が出来上がった。染め師は己の仕事に満足して笑みを浮かべた。依頼に訪れた姉妹たちは美人揃いだった。量からして揃いの衣装でも作るのか。この反物は糸を通され、彼女たちをさぞかし美しく飾るだろう。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-11-30 05:24:01
古縞(こじま) @Akakobe_orere

ほたりほたりと音が響いている。朦朧とした意識のなかでただその音だけが聞こえていた。泥濘に沈んだかのように重い体が軽くなる。まるで天上に浮くようだ――。はた、と目を開けると眼前に泣き、笑い、 怒鳴る家族の姿。ああ、呼び戻してくれたんだ、かあさん。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-11-30 05:26:47
古縞(こじま) @Akakobe_orere

いとけなさの残る少女の白い人指し指が、執拗に右京の顎を行き来する。羽で擽られているような感触に背筋が粟立つのを感じて、その後ろめたさに右京はぐっと奥歯を噛み締めた。少女は気づかず、熱心に指を動かしている。男の髭がそんなにも珍しいのだろうか。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-11-30 05:28:24
古縞(こじま) @Akakobe_orere

寝太郎は陽が射し込み空が紫色に燃えたのを見た。天を衝く巨木の頂上は冬の朝のように寒々しく、まるで空気が光っているようだ。陽を浴びて、肩に留まった鷲の羽がつやつやと美しい。耳が痛くなるほどの静寂のなかで、今この時だけは眠ることなどできそうもない。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-12-01 03:19:30
古縞(こじま) @Akakobe_orere

@Akakobe_orere お題は「木霊ノ寝太郎」「鷲ノ宮星彦」。微かに腐ってますのでご注意ください。

2014-12-01 03:21:12
古縞(こじま) @Akakobe_orere

被衣を取り去った織姫が錦の箱から象牙の爪を取り出して、丁寧に指へ嵌めてゆく。爪を糸に置いてひと呼吸、その指はまるで音を織るかのように動き出した。星彦は爪弾く織姫から決して目が離せない。彼女の愛憎も諦念も寂しさも、音に乗せた方がよく響くのだ。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-12-01 03:54:28
古縞(こじま) @Akakobe_orere

@Akakobe_orere お題は「琴ノ宮織姫」「鷲ノ宮星彦」

2014-12-01 03:57:56
古縞(こじま) @Akakobe_orere

ふくりとした赤子の瞼に親指を乗せた福郎太は、そのまま目の縁をゆっくりなぞってゆく。常とは違って赤子は大人しく、そんなところまでただ可愛い。両の目をなぞり終えた頃、その目は黒い化粧に縁取られていた。赤子がひとつでも多く美しいものが見られるように。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-12-01 04:44:44
古縞(こじま) @Akakobe_orere

一月経たずに娘は三つほどの見た目になった。あすかは娘を捕まえて、金銀散りばめた群青の着物を着せてやった。赤い綸子の被布を羽織らせ、伸ばし始めた髪には己の白い羽根を差し、唇にほんの少しの紅。ほらよく似合う、と片目を瞑りながら小さな手を握り締めた。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-12-02 03:40:22
古縞(こじま) @Akakobe_orere

かあさま、お耳ふにふにさせて! 膝に座る息子が返事も待たずに円子の福々しい耳に手を伸ばした。ひどく嬉しそうにする子の顔を見ていると円子の頬までゆるゆるとほどけていくようだ。ああ、そういえばこの子の父親もこんな風に嬉しそうに耳を触っていたっけ。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-12-02 04:19:04
古縞(こじま) @Akakobe_orere

鏡台の奥底にしまわれた桜のように淡い紅は、英を一目で虜にしてしまった。手がつけられたことのない様子のそれを英は遠慮なく拝借して、小指に取って唇に塗りつけた。まるで憧れのお紋さまのようだと鏡を覗きこむ。あとはもう、この胸さえ育てば完璧だ。 #俺屍版真剣文字書き60分一本勝負

2014-12-02 04:45:48
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