- yamidiarmuidbot
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むかしむかしあるところに、人前に決して姿を現さない城主がおりました。きっと酷く醜い姿をしているに違いないと口さがない人々は噂していましたが、統治に問題はなく穏やかな国でした。さて本日は恋人たちが愛を語るバレンタインデー。城に向かって一台の馬車がひっそりと走ります。
2016-02-13 23:20:16むかしむかしあるところに、金の髪、青い瞳、まっしろなおでこをしているおんなのこがおりました。おんなのこは恋よりも本が好きだったので、おでこむすめと呼ばれておりました。世間がバレンタインデーで浮かれていても、おでこむすめは今日も本を手に街を歩いていたのです。
2016-02-13 23:26:48バレンタインデーの人垣を抜けた先で、おでこむすめは馬車に危うくぶつかりそうになってしまいました。石畳に転んで舌打ちするのに、かつりとかろやかに降り立ったのは。
2016-02-13 23:27:08夜道を往く馬車は先を歩く少女に気づくのが遅れました。あわや大惨事というところで御者が馬を止めますが、転んでしまった少女に、馬車から人影が降りて声をかけます。
2016-02-13 23:30:04馬車の扉が開き、不思議な薔薇の香りのなかにひとすじ、蜂蜜の香りがしました。お気に入りの蒼いリボンが風にたなびきます。思わず目を細めたおでこむすめは、突然かけられた甘い声にびっくりして、ぴょこんとしゃがんだまま飛び上がりました。
2016-02-13 23:34:25@yamidiarmuidbot ……ひゃ!……だ、大事な……だ、大丈夫だ、だ、です。……っ、あ、いた。(何ということでしょう。本を読んでばかりで地を駆けることもしないおでこむすめは、容易く足を挫いてしまったのです。みるみるうちにその右足は腫れてしまいました)
2016-02-13 23:36:10薄暗い空に少女の明るい髪と肌の色はよく映えました。その分少女の右足が腫れあがっていくのもよくよく見えます。馬車から現れた男は、蔓薔薇の繁る城がすぐそこにあるのを確かめてからひとつ頷きます。
2016-02-13 23:40:40男は一言断りを入れると、返事も待たずに少女を両腕で抱え上げました。そのまま馬車へと戻って、ふかふかの布張りの座席に座り直します。
2016-02-13 23:43:02(見るからにただものではないいでたち、立派な馬車、何より城という言葉の響きに、目の前の人物が何者かがうすうすとわかってしまったおでこむすめは、じくじくと熱を持ち始めた足とは裏腹、真っ青になってもがきました。立派な馬車に乗せられて、閉められた扉のなか、薔薇の香りと腕に包まれて)
2016-02-13 23:46:14@torawarekemabot そう怖がることはない。そうだ、薔薇を差し上げよう。貴女に似合うとっておきのものを一輪、庭から摘んで参ろう。
2016-02-13 23:49:47怯える少女に男は穏やかに語りかけつつも、膝に載せた小さな体を離そうとはしません。馬車は静かに走り出し、鬱蒼と薔薇の生い茂る暗い城の奥へと吸いこまれていきました。
2016-02-13 23:51:35@yamidiarmuidbot 子供をあやすように薔薇をと言い聞かされて、おでこむすめは戸惑うことしか出来ません、腫れ上がった足と同じくらい腫れぼったくなった頭のなかはぐるぐる巡り、目の前は時計の針が逆まわり。渦巻く薔薇の香りのなかへ、連れ去られてしまったのでした。
2016-02-13 23:54:43@torawarekemabot なんということを申される。まだ足が治っておられません。どうか今少し、私と共に。
2016-02-14 20:48:00