安子のバレンタイン

キャンジャニ学園×関ジャニ∞ @canjani8kanjani

1 「せやから学校でこんなんすんな言うてるやろ！」 部屋にビリビリ響く怒声。 もう声おっきいんだから。 こんなの慣れっこ。 怖くなんてないもん。 椅子に足組んで座る私を見下ろして溜息つく先生。 机の上に置かれた紙袋をガサッて開けて包みを一つ取り出した。

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2 「一個いくらで売ってたん？」 『…』 黙秘。 手作りのバレンタインチョコ。 私これでいて結構料理とか得意なんだよね。 どう頑張ったって下手な子っているじゃん。 その子たちの代わりに作ってあげてるだけだもん。 材料費と手数料貰ってね。 これが意外と需要があって。

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3 手作り渡すとやっぱり喜ぶんだって。 可愛いもんじゃん。 そんな目くじら立てて怒るようなことでもないじゃん。 「学校でやるな言うてるやろ」 『学校じゃなかったらいいの？』 「俺の目届かんとこやったらな」 『…』 「まあどこでも見つけたるけど」 『何それ』

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4 「お前のことやからな」 何、その意味深な…。 ちょっと睨み合って、目を反らした。 『…じゃあ外の先生のいないとこでやるから返して』 「あかん」 袋を取ろうと伸ばした手が宙を舞う。

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5 『何で！？学校じゃなかったらいいんでしょ！？』 「もう見つけてもーたからあかん。没収や」 『そんなこと言って食べる気でしょ！？』 「…俺がそんなんするように見えるか？」 『見える』 「おま…ま、ええわ。明日取りに来い。預かっとくから」 『そんな！』

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6 今日がバレンタインだから需要があるのに！ 明日になったらただの余り物じゃん！ 材料費とか色々お金かかってるのに！ 「…何や？文句あるか？」 『…』 あるけど…あるけど、でもここで噛みついたら後々面倒なことになる。 忌々しい気分で先生を睨んだ。

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7 「…んで隠したそれは？」 『っ！？』 「それも出せ。見つかってへんとでも思っとったんか？」 先生に見つかって咄嗟にポケットに押し込んだ包み。 『これは…』 「何や？」 先生の手がポケットに伸びる。 「出せ」 『嫌！』 阻止しようと掴むけどこの馬鹿力びくともしない。

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8 『あっ…！』 少し揉み合って、奪われたそれは先生の手の中に。 「…他とちょっとちゃうな？」 『返して！』 「…本命、か？」 『ッ…！』 思わず唇を噛んで顔を反らした。 …そうだよ。 受け取ってくれるかわからない。 それよりもどう渡したらいいかもわからない。

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9 ずっと持ち歩いてたし、さっき揉み合ったときにひしゃげて、綺麗に出来たはずの包装だってボロボロだ。 作ってるときはあんなに楽しかったのに。 ドキドキして、喜んでくれる顔想像して。 美味しいって、そう言って笑ってくれるかなって。 コトッて机に置かれた。

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10 「…これは返したる」 『…』 「売りもんちゃうんやろ？」 受け取って欲しかった人の手がそれから離れる。 届かない、私の想い。 歪んだ箱と皺の寄った包装紙にほどけかけたリボン。 私みたい。 何か惨めで涙が滲んだ。 『…いらない』 「いらないってお前…」

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11 『そんなのもうあげれないもん』 「…せやったら持って帰れ」 『いらないってば』 「…」 『…先生にあげる』 「あ？」 『ボロボロにしたんだから責任とって』 「責任って何やねん」 『…』 「それに生徒から物貰ったらアカン言うたやろ」 『…じゃあゴミだもん』 「ああ？」

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12 『ボロボロのゴミになったから捨てるの！もういらないの！』 「安子」 『先生が捨てて！いらないってば！バカ！』 「あ、おい！」 叫んで、教室を飛び出した。 頬を涙が流れていくのを感じる。 私、こんなんばっかりだ。 先生といるとおかしくなる。

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13 好きなのに、どうしたらいいかわからなくて全然反対のこと言っちゃう。 先生も怒ったり叩いたりするのに、急に優しく笑って触れてくるから…だから…。 わけわかんない。 どうしたらいいの？ もう来月は卒業式だ。 こんな関係ももう終わり。

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14 この気持ちを抱えたままどこへ行くっていうの？ 何もわからない。 （安子！？） 掴まれた腕。 目の前に吃驚してる村子がいて。 思わずその胸に縋りついてワンワン泣いた。 次の日の朝。 目が痛いし頭もガンガンする。

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15 結局あの後、家に帰って何もする気のないままただボーッとしてた。 今年のバレンタインは赤字。 あーあ…何か疲れちゃったな。 地面を見ながら歩く。 サボっちゃおうかな、もう…。 立ち止まって、向きを変えようとしたその時。 『いっ…たっ！』 後ろから頭を叩かれた。

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16 前もこんなことあった。 こんなんするのって…。 「どこ行くねん」 やっぱり、先生。 『どこって…別に…』 「学校あっちやで」 『…』 少し離れて並んで歩く。 私の歩幅に合わせて、すこしゆっくり。 …先行かないの？ チラッて見上げたら目が合った。

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17 「何？」 『…こんなとこ友達に見られたらやだなって』 「ほぉん…」 あ、また。 こんなこと言いたいんじゃないのに。 『…』 「ほな先行くわ」 『あ、…』 「サボりなや」 そう言った先生の手が私の頭でガサッて音を立てた。 『え？』 「ゴミはゴミ箱に捨ててくれるか？」

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18 そう言って手渡されたコンビニのビニール袋。 呆然とする私を置いて先生が歩き出す。 ゴミって、昨日の？ こんな風に突き返さなくたって…。 思わず地面に叩きつけようとして、あれ？ってなった。 何か手触りがおかしい。 『…あっ』

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19 その中に入っていたのは、丁寧にたたまれた包装紙とリボン。 それからコンビニで売ってるチョコレートドリンク。 何、これ？ よく見たら付箋がくっついてた。 【代金。美味かった。】 だって…。 生徒から物貰えないから？ 代金って…お金はダメだから？

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20 何、考えてるんだろう？ 思わず笑いが込み上げてきてクスクス笑った。 まだ冷たいカップにストローを刺す。 甘い。 でも少し苦い。 まるで恋愛みたい。 そんなこと思いながら、少し軽くなった足で学校へ向かった。

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21 「何作ってるん？」 『ん？チョコ』 「お前また…？」 『違うよ！今年は…』 「俺のん？」 『…ん』 「去年のん美味かった」 『あんなグチャグチャなの…』 「でもあれも俺にくれるつもりやってんやろ？」 『そ、だけど…』 「ゴミとか下手な理由つけてなあお前。バレバレやったで」

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22 『ッ…！なら素直に受け取ってくれたってよかったじゃん』 「お前そんなん言わんかったやん」 『…』 「ほら、焦げるで」 『あっ！』 「で、今年はどんななん？」 『…去年と一緒』 「それしか作られへんの？」 『違うよ！』 「ほな何で？」

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23 『…去年あんなんあげちゃったから…ちゃんとしたの作りたくて…』 「美味かったって」 『…それでも』 「…ふっ」 『…』 「これからどうするん？」 『オーブンで焼いて終わり』 「…ほな」 『ッ！ちょっと！』 「時間かかんねやろ？」 『でも！』

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24 「その指美味そ」 『ちょ、…！それ生地、生…！』 「ん、あま。もっと食いたい」 『焼けるまで我慢…！』 「生がええな、俺」 『ッ…！？』 「な、あっちでもっと甘いのん喰わして？」 pic.twitter.com/ioVzZhVPZU

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