【ミイラレ!第三十話:『サバト』のこと】(実況付き)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。この物語はコメディのはずでした。
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

巡の指示にトリルは露骨に嫌そうな表情になった。が、四季の視線に渋々といった様子で頷く。「わかったよ……四季、少し触るけど我慢してね」「う、うん。けどどうやって戻」答えは返ってこなかった。無遠慮に彼の両肩を掴むと、そのまま倒れたままの肉体に押し込んだのだ。63 #4215tk

2016-03-11 20:30:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

…………「う、う」暗転していた意識が元に戻る。起き上がろうとした四季は不快感に顔を歪めた。体が異常に重い。起き上がるのも億劫なほどに。「四季?大丈夫?」心配そうに覗き込んできたのは怜。さすがにもうバスタオル一枚ではない。浴衣を着込んでいる。64 #4215tk

2016-03-11 20:34:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「肉の体は重いだろ、四季。そういう意味でも霊媒物質の使い方を覚えておいたほうがいい。役に立つからね」ついで飛び込んできたのはトリルの声。傍らに腰を下ろしていた悪魔は四季の頬に手をかけた。「今夜はつきっきりで教えてあげる」「ちょっと!?」怜が抗議の声を上げる。65 #4215tk

2016-03-11 20:38:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

退魔師の怒りの眼差しを、悪魔はむしろ心地よさげに受けた。「んー、キミは四季が関わると直にそういう感情をぶつけてくるよね?すごくいいと思うよそういうの。うん。とっても魅力的」「それはどうでもいいが、悪魔の。まさかあんたも今夜はここに泊まる気かい?」巡が言った。66 #4215tk

2016-03-11 20:42:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「まさか」トリルは肩を竦める。「薫を放っておけるわけないだろ。今夜は戻る。四季と一緒にね」巡は無言。しかし、その表情だけで難色を示していることが見て取れた。トリルが鼻を鳴らす。「なんだよその顔。キミらといるより、ボクの側にいた方が遥かに安全だろ?」67 #4215tk

2016-03-11 20:46:35
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そんなの……ッ」怜が悔しげに言葉を飲み込む。彼女も理解してしまったのだろう。単純な力関係だけで見れば、トリルの言葉に嘘がないことに。悪魔は嗤う。「あはは!怜、キミ結構魅力的だね?ま、今夜はせいぜい嫉妬で蛇みたいにくねってなよ。明日には返してあげるから」68 #4215tk

2016-03-11 20:50:19
久慈良餅っ子 @Kuziramochikko

湯上がり(めいた体温)のあたたかみ…… #4215tk

2016-03-11 20:53:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そう言い放ち、トリルはいまだに起き上がれぬ四季を横抱きに持ち上げた。その背から大きな蝙蝠の翼が生える。「じゃあね」一方的な別れの言葉の後、悪魔は飛び上がった。天井にぶつかる瞬間、二人の姿が搔き消える。後には呆然と顔を見合わせる怪異と、俯く退魔師だけが残った。69 #4215tk

2016-03-11 20:54:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

一人の男が路上に倒れている。否、死んでいる。おびただしい量の血が道路に広がっていた。血溜まりの傍には、赤帽子の少女が恍惚とした様子でしゃがみこむ。そこに靴音を響かせ到着した影が一つ。『まったく、派手にやったものね』咎めるような声に、少女がびくりと顔を上げた。71 #4215tk

2016-03-11 21:00:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

少女の目に映ったのは黒衣の女の姿。腰のあたりまで伸ばされた癖のない髪も黒であれば、その肌もまた薄い黒。闇に染まった眼窩から覗く瞳だけが異質な金色の光を湛えていた。「こ、こんばんはサバト様」少女……赤帽子の妖精、リジーは慌てて立ち上がり一礼する。72 #4215tk

2016-03-11 21:04:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「その……こんなにしたのはリジーじゃない、です。影の」『私が言いたいのは』黒衣の女は釈明を断ち切る。『派手にやったあとにも関わらず、後片付けもしないで何をしているのか。ということなのだけれど』「ご、ごめんなさい」リジーは深く頭を下げる。その額に汗が滲んだ。73 #4215tk

2016-03-11 21:08:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『サバト』と呼ばれるこの怪異のことを、リジーはよく知らない。知っているのは自分が彼女の手によってこの国に召喚されたことと、自分よりも遥かに強大な怪異であること。加えて、最近は仲間の負傷のせいで機嫌が悪いということくらいだ。いずれにせよこれ以上怒らせたくはない。74 #4215tk

2016-03-11 21:12:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『我々の敵は強大。降って湧いた蠅の王はなんとか放逐できたけれど、それも『演者』の半身と引き換え。本来あの人が対処するはずだった竜の子はまだ健在だというのにね』黒衣の女は嘆く。同時にひときわ大きな靴音を響かせた。血溜まりがざわめき、形を変え始める。75 #4215tk

2016-03-11 21:16:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『サバト』はうっすらと目を細める。血が描き出した逆五芒星の魔法陣に。その中心に据えられた男の死体に。魔法陣の内側の地面が黒く染まり、その中から突き出した巨大な手が死体を掴み、引きずり込む。『だからこそ、素材は何一つとして無駄にはできない』76 #4215tk

2016-03-11 21:20:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

呆然とその様子を見やるリジーに構わず、黒衣の女は夜空を見上げる。そしてわずかに眉根を寄せた。『……今日はやたらと悪魔が飛び回る夜だこと。行くわよ、リジー。今夜はこれで切り上げるわ』「は、はい!」踵を返す女に、慌てて少女がついていく。そして夜は静かになった。77 #4215tk

2016-03-11 21:24:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第三十話:サバトのこと】終わり #4215tk

2016-03-11 21:28:13
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