【書きかけ】神通さんのおはなし

神通さんと軽巡棲姫さん関係のお話作ってみてます 更新中
8
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「神通、そのお腹の傷」 大規模作戦を完遂し、疲れと傷を癒すために入渠した皐月は、同じく修復材入りの湯に浸かる神通の腹部に目をやる 「この傷ですか? この作戦中に付いたものではありません。大丈夫です」 心配いらない、と微笑む神通だったが、無意識に傷を覆い隠すように手を動かす

2016-03-08 01:12:49
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「前にはなかったよね、その傷。…いつから出てきたの?」 自分の事のように悲痛な面持ちで問いかける皐月に、神通は答える。 「去年の、秋からです」 「秋って、輸送作戦の頃から?」 「ええ。厳密には、コロネハイカラ島沖での作戦が終わった辺りから」

2016-03-08 01:26:53
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「コロネハイカラ島沖ってそういえば、神通そっくりのアイツが居た海域じゃない」 コロネハイカラ沖海戦。大規模な海上輸送作戦の一環として行われたその作戦に従事する神通率いる水雷戦隊 その前に立ちふさがったのは、顔の上半分を覆う仮面を着け、異形と化した左腕を持つ人型の深海棲艦であった

2016-03-08 01:36:57
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

海上輸送の妨害を阻止せんがため、『軽巡棲姫』と仮称された深海棲艦率いる艦隊と相見えた神通たち あと一息で撃沈という場面で遁走する『軽巡棲姫』。それを追う神通と皐月が見たものは、仮面が割れ、剥がれ落ち、一部とは言えど月夜に照らされた「軽巡洋艦・神通」に瓜二つの顔であった

2016-03-08 02:10:02
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「その時からです。ここに違和感を覚えたのは」 そう言いながら、神通は自身の腹に在る傷痕をさする。 「…痛む?」 「いいえ、全然。ただ…」 いつもの神通の優しい微笑みに、少し暗い影が落ちるのを皐月は見逃さない 「ただ?」 「最初はこんなに大きくなかったんです」 大きくなかった…?

2016-03-08 02:39:12
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

訝しがる皐月だったが、すぐにそれは傷痕のことを指しているのだと気づく 「そうだよね、あの時にはそんな傷なかったもの…  ってことは、これ、少しずつ大きくなってるの?」 皐月の指が、神通の腹の傷に軽く触れる 「熱い!?」 燃え盛る炎の様な熱を感じるや否や、すぐに指を離す皐月

2016-03-08 02:44:44
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「…深海棲艦と戦って、彼女らを傷つけ、彼女らに傷つけられ  その度に、この傷痕は大きく熱くなっていく。…まるであの時のものみたいでしょう?」 自嘲気味の言葉と共に浮かべるその表情は、まるで痛みを我慢している幼い子供 「違うよ神通! 絶対に違う!」 声を荒げる皐月

2016-03-08 02:53:35
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

あの時のもの。皐月たち第二水雷戦隊の駆逐艦にとって忘れたい、しかし忘れてはならない過去 その再現とでも言うつもりなのか、そうであってたまるかと否定する。 「でもね、皐月。私そっくりの深海棲艦と対峙したその時にこの傷は浮かんできた  多分これは彼女の、もう一人の私の」 「呪い」

2016-03-08 03:01:31

神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「司令官! 入るよ!」 言うが早いか皐月は執務室の扉を開ける。 その日残されていた細々な事務仕事を処理していた提督は、驚きの目を皐月に向ける 「こら皐月、入室要領!」 そう窘めたのは、秘書艦として上番し、雑務を行っていた川内 「あ、川内もいる、丁度よかった。司令官、話があるんだ」

2016-03-08 10:25:18
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「だめだめ、あたしらまだ仕事中! そうじゃなくても入室要領やり直し!」 「そんな悠長なこと言ってられないよ! 川内、神通のお腹見たことない?」 「!」 秘書艦として皐月の闖入を咎めようとした川内だったが、彼女の問いかけに口を噤む 「あんたあの傷、見たの…?」

2016-03-08 10:25:32
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「傷だと?」 皐月と川内のやり取りを呆れ顔で見ていた提督が、そこでようやく口を挟む 「うん。さっき一緒に入渠してたんだけど、神通のお腹のとこにおっきな傷があったんだ」 自身の腹を袈裟懸けの様に指でなぞる皐月。 「高速修復材の使用を命じたはずだが、使ってないのか?」

2016-03-08 10:25:43
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「ううん、ボクも神通も、ちゃんと修復材入りのお湯に浸かったよ」 だから今回の作戦行動で出来た傷はちゃんと治ったんだ。と皐月は言う 「どういう事だ? 修復材を使っているのであれば治らない傷などあるはずは無いんだが」 「…皐月、神通はなんて言ってた?」 「ボクの口からは言いたくない」

2016-03-08 10:25:57
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「そう、だね」 下を向いて震える皐月を見て、川内は「ごめん」と言った 「提督、皐月が今言った通り、神通は今お腹に大きな傷痕を抱えてる  あたしも初めて見た時はびっくりして、提督に報告しようと思ったんだけど神通に止められて  …姉妹艦の異変の報告を怠りました。申し訳ありません」

2016-03-08 10:26:07
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「それについては後でいい。川内、お前も神通から話は聞いているのか?」 「うん。アイツが言うには、その傷は艦艇だった頃の最期の戦いでの傷なんじゃないかって」 視線を落とし続ける 「神通そっくりの深海軽巡が居たって報告あったでしょ? 神通はそれのことをもう一人の自分だって言ってる」

2016-03-08 10:26:18
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「深海棲艦たちの恨みが、それを介して自分のお腹の傷として顕れてるんじゃないかって…」 「呪い、か」 その言葉に泣きそうな表情を浮かべる川内と皐月 「艦娘のその身には過去の大戦で戦った艦艇の魂が宿っている。と言われているな」 お前たちには辛い言葉になるかもしれんが、と提督は続ける

2016-03-08 10:26:29
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「艦娘が魂をその身に宿すのであれば、深海棲艦は苦痛や恨み、憎しみに取りつかれているのでは無いか。  と俺は思う。神通に酷似した深海棲艦、本部では軽巡棲姫と仮称しているが  神通が軽巡棲姫をもう一人の自分だと思ってしまったのであれば」 言葉を切り、息を飲み込む

2016-03-08 10:26:46
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「心優しいあいつのことだ、軽巡棲姫だけにその苦しみを背負わせるわけにはいかないと  甘んじてその苦しみの総てを受け入れようとするだろう」 「それって」 「自分が沈むことで少しでも救える苦しみがあるのなら、というところか…」 まだ仮定にすらなっていないが。と締める提督に皐月は言う

2016-03-08 10:27:13
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「そんなの絶対だめだよ! もうあんなに辛いのは嫌だよ!」 ぼろぼろと大きな涙を流す。それを見る川内の目尻もうっすらと滲んでいた 「勿論だ。神通は、この警備府にとって、俺にとってなくてはならない存在だ。失うわけにはいかん」 よく教えてくれた、もう大丈夫だ。と皐月の頭を撫でる提督

2016-03-08 10:27:35
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

川内の方へ向き直り、言う 「川内、悪いが明日から神通と任務を交代してくれないか。上へはこちらから話を通しておく」 「もちろん、妹のためならなんだってする」 皐月の目線まで屈む 「皐月も当面の間、出撃任務や遠征任務には参加しなくていい。秘書艦補佐として、神通の傍に居てやってくれ」

2016-03-08 10:27:49
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「ボクで良いの…?」 「ああ、うちで神通と最も縁深い駆逐艦はお前だろう。務めて何かをしろとは言わない、いつも通りにしていてくれればいい」 他者の為にこんなに泣けるなんて、お前は強い子だなと呟きながら、皐月の頬を伝う涙を拭った 「俺の方でも手を尽くして解決の手段を探ってみる」

2016-03-08 10:28:00
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

「それまではすまないが、二人とも神通を頼む」 「了解」 「任せてよ!」 目を赤くしたまま、屈託のない笑顔で快諾する皐月 「いい返事だ。今日はもう戻りなさい、そろそろ点呼の時間だろう?」 「えっ、あ、本当だ! ごめんね司令官、こんな時間まで!」 踵を返し執務室を出ていこうとする皐月

2016-03-08 10:28:10
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

その背に向かって、川内が言う 「こら皐月! 退室要領!」 「あ、ごめんごめん。  駆逐艦皐月! 司令官への要件終わり、帰ります!」 規則通りの退室要領をこなし、悪戯っぽい笑みを浮かべて執務室を出る 「廊下は走っちゃダメだってば! もう、変なとこで子供っぽいんだから」

2016-03-08 10:28:23
神通狂信者きっ(ど @kid_kancolle

駆逐艦じゃ最年長なんだからさー、と愚痴を溢す川内 どこか吹っ切れたような、そんな顔をしていた そんな川内を横目に、開けてあった窓の前に立つ提督 「さて、どうしたものか」 そのつぶやきは、月夜に照らされた海へと吸い込まれていった

2016-03-08 10:28:42