ぶら下がりおっさんの空◆2
_ぶら下がりおっさんは飛行船からロープ一本でぶら下がっている。 「近くで見させてもらっていいかな」 オメガは了承を取って、おっさんの近くに歩みだした。空中を弾むようにステップする。そしてそのまま空の上、おっさんの隣を歩いた。 11
2016-03-12 16:22:01_オメガは気になっていたことを質問する。 「で、何をしているのかな」 「それは言えないですねぇ! ぶら下がり師、とでも言いましょうか!」 おっさんは黒縁眼鏡を直しながら言った。どうやらぶら下がることが仕事らしい。それしか分からない。 12
2016-03-12 16:26:42_帝都の空に小鳥が行き交う。巨大飛行船の接近に驚き、四方に散っていく。おっさんは感心したように言った。 「変わってますねぇ! 帝都の魔法使いといったら、自分のことばっかり考えていて、他の人間なんか邪魔な置物にしか思っていないですよ」 13
2016-03-12 16:30:28「知らないことがあるのは居心地が悪いんだ」 そのための永遠の命。そのための全知。オメガはおっさんの隣、空中を歩きながらつぶさに観察した。男は自然体でロープにしがみついている。理由を話せないということは、何らかの秘匿性のある仕事ということ。 14
2016-03-12 16:34:22_おっさんが動いた! 突然のことだったので、オメガはびくっと身体を震わせ目をむく。何らかの魔法を行使している……収納の呪文だ。 仕事道具を取り出す気か、と興奮するオメガだったが、おっさんの取り出したのはサンドイッチだった。昼飯の時間。 15
2016-03-12 16:39:50_むいた目のまま、硬直し、照れくさそうに遠くを見るオメガ。彼もお昼にしようと思った。収納の呪文を発動させ、ビスケットの包みと水の入ったボトルを空中に浮かべる。 「ほう、位置コントロール、いやはや、あなたも相当な魔法使いと見えますね」 おっさんは驚いたように言う。 16
2016-03-12 16:43:32_オメガも、それを察せるだけの使い手だと分かって上機嫌になった。 「ありがとう、子供の姿をしていると見くびられることが多くてね、それが楽しいんだけど。分かってくれるともっと嬉しい」 今日の仕事は全部後回しだ、そう思って腕時計を見る。休憩時間はとっくに過ぎていた。 17
2016-03-12 16:48:42_どうせ溜まった仕事なんて大したことは無いのだ。給料も安いし、その分責任も軽くたっていいじゃないか。そういうセリフを言いたいがためだけに、オメガは安い仕事を気ままに受けている。 「おや、嫌な風ですねぇ」 おっさんがそれとなく話しかけてくる。 18
2016-03-12 16:52:28「僕は予知が得意でして、いやはや、悪い予感がするのですよ」 「奇遇だね」 オメガは袖の下に手を突っ込み、明らかに袖から出るサイズではない巨大な本を取り出す。ぺらぺらとめくるそのページには、赤いインクの文字が浮かんだり消えたりしている! 全知の具現化である。 19
2016-03-12 16:56:44「僕も……予知は得意なんだ」 オメガはこれから起こることを一瞬で理解し、その結末も完全に把握した。そしてにやりと笑う。オメガの脳裏ではすでに尻尾を巻いて逃げ出している魔法使いが……いま、嵐を身に纏って空の向こうからすっ飛んできたところだった。 20
2016-03-12 17:00:59【用語解説】 【収納の呪文】 物質を圧縮し、保管する魔法である。亜空間を利用するため、理論上無限に物を携帯することが可能だが、合計質量と合計体積は、術者の魔力コントロール量の制約を受ける。敵を圧縮し亜空間に追放する使い方もできるが、対象の意思によって抵抗されることも多い
2016-03-12 17:06:35