指先で送る【フルーツソングシリーズ①】

かおり @orange_shake_

【指先で送る・1】 「、」 仕事が早く終わったからお茶でもして帰ろうかな、と入ったコーヒーショップ。 あったかいキャラメルラテを手に椅子に座って、何気なくスマホを取り出した瞬間、ちょうど手の中で震えた。 ロック画面に表示された名前に、心臓が飛び上がりそうになる。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・2】 そりゃあ連絡したんだから返事が返ってくるのは不思議じゃないし、この連絡のやりとりだってかれこれ1ヶ月ぐらいになるだろうか。ずっと続いてる。 それなのにいくら繰り返しても慣れることはない、むしろ回数を重ねるごとにどんどん緊張が高まってきてる気がする。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・3】 メッセージを開くことなくスマホを置いて、深呼吸。 気分を落ち着かせようと一口飲んだキャラメルラテも、味なんてわかんない。 「まいったなぁ…」 こんな気持ちは随分と久しぶりだから忘れちゃってたけど、認めるのは怖いけど、きっと間違いない。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・4】 いい大人が恥ずかしいけど。 恋、してます。たぶん。 ＊＊＊

かおり @orange_shake_

【指先で送る・5】 ＊＊＊ 1ヶ月前、友達に引っ張って連れて行かれた合コンという名の罠。 人数がどうしても足りないの！って涙目でお願いされて渋々付き合いのつもりで参加したら、実は私とその人以外はみんな最初からカップルだったってオチ。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・6】 つまり、私と彼を引き合わせたかっただけの本当にお節介な会合。 "だって、そうでもせんと○○ちゃん全然男の人に興味持ってくれんのやもん！せっかく可愛いのにもったいない。もし興味なかったら友達としてもめちゃくちゃいい人やから♡"

かおり @orange_shake_

【指先で送る・7】 彼と同じ関西弁の友達が、わたしのことを本当に心配してくれてるっていうのはよくわかる。だから彼女を責めるつもりはない。 責めるっていうか… まさか本当に、彼女の思惑通りになってしまうとは。 ＊＊

かおり @orange_shake_

【指先で送る・8】 ＊＊ 冷めかけたキャラメルラテをちまちまと飲みながら、置いたままのスマホを睨む。 "返信はちょっと焦らすのがポイントやで♡振り回して追いかけさせたったらええんよ" あの子もそうやって、あの彼氏を夢中にさせたんだろうか。 「………」

かおり @orange_shake_

【指先で送る・9】 LINEって、やだなぁ。 既読とか誰が考えたんだろう。 相手が読んだかどうかなんて、知りたくないのに。 今だって、すぐにメッセージを読みたいっていう気持ちと友達の駆け引きアドバイスとの間でぐらぐらしてる。 既読つけちゃったらすぐ返信しないのは失礼だと思う。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・10】 気にしない人も多いみたいだけど、私は気にしちゃうからやっぱり相手に対してもそれはできない。 メッセージ受信時刻は、5分前。 うぅ、せめて10分は待っていたかったけど… 通知画面に見えるカラフルな絵文字や可愛い顔文字。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・11】 絵文字が多すぎて、本文は「うん」までしか見えない。 あ、メッセージ受信時刻が6分前になった。 「う〜〜…」 駄目だ、駆け引きなんて私の柄じゃない。 スマホを手に取って、もう一度深呼吸。 私、ちょっとやばい、かも。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・12】 ＊ "うん"の続きは、今日もええ天気やねとか会社の人とランチで入ったお店のハンバーグがおいしかったとか、他愛もない話。 そして毎回と言っていいほど、彼の見た素敵な世界が送られてくる。 今日は綺麗な夕焼けの写真と、おいしそうなハンバーグの写真。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・13】 絵文字だらけで目がちかちかしちゃう画面も、なんてことない日常の報告も、得意じゃなかった。 内容はシンプルに、一目で用件がわかるように。そんなビジネスメールの鉄則をプライベートでも忠実に守り続けてきた私。 絵文字なんてもってのほか。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・14】 初めて会った日だって、彼の私服はどこかの民族かヤンキーの進化系かと思って目を細めた。 なのに今は、送れるわけもないのに絵文字のボタンを押して眺めてみたり、古着屋さんで見かける派手な洋服に足が止まったりして。 あんな人を好きになるなんて夢にも思わなかった。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・15】 ＊＊＊ "ダメよ〜、ダメダメ！" 少し古いギャグを真似しながら友達が私の手からスマホを取り上げてスクロールしてる。 "これじゃどっちが女かわかんないじゃないの〜！どんだけ〜〜！！" いつもの関西弁はどこへやら。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・16】 なぜかオネエ口調で私と彼のやりとりに厳しいツッコミを入れる。 "絵文字には絵文字で返すべし、改行を駆使しながら複数の話題を同時進行させるべし、ここぞというときにハートマークをさらっと入れるべし…って安田くんハートマーク使いすぎやな！"

かおり @orange_shake_

【指先で送る・17】 私がそんなことできるわけないってわかってるから強要はしてこないけど、こうやってアドバイスをくれるのはありがたい。 彼女のテクニックを盗めるかどうかは置いておいて、知識として勉強にはなる。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・18】 背負い投げ〜とか言いながら画面をスクロールしてた彼女の手が止まって、いつもの笑顔が少し曇った。 「どうしたの？」 "ん？ん〜…" 彼女にしては歯切れの悪い返事。 気になる。 「いいよ？私に気なんて遣わないで、何でも言って？」

かおり @orange_shake_

【指先で送る・19】 "…どちらかというと、○○ちゃんが私に気ぃ遣ってない？" ちょっと困ったように差し出されたスマホの画面には。 「あ…」 それか。 1週間ぐらい前、安田くんから2人で食事でも行かへんかってお誘いのメッセージ。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・20】 それに対して、いつか機会があれば、なんて遠回しな断り文句でその話題を終わらせる私の返信。 "興味ないんやったらないって言ってくれてええんよ？無理にくっつけようとしてるわけちゃうし、○○ちゃんの気持ちが1番…" 「ち、違うの」

かおり @orange_shake_

【指先で送る・21】 自由に素直に生きてる彼女にはわかってもらえないかもしれないけど。 「…あのね、怖くて。LINEだけでもすっごく緊張するのに、2人で会うなんて。会話続く自信ないし、目も見れないかもしれない。つまんないって思われちゃいそうで、それで、その…」

かおり @orange_shake_

【指先で送る・22】 彼女の目まで見れなくなって下を向くと、いつもの笑い声が降ってきた。 "な〜んや、心配する必要なかったな♡ごめんごめん！でもね、大丈夫。安田くんやったらぜーんぶわかってくれるから" 「そう、かなあ…」 そんな自信、ない。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・23】 "なんとなく気づいてるやろ？安田くんが○○ちゃんのこと気に入ってるっていうのは" 「えっと…」 自惚れてしまいそうになったことは、何度もある。 別に鈍い方じゃないと思うし、でも彼のことになると話は別。 そうだといいな、っていう願望？

かおり @orange_shake_

【指先で送る・24】 そっちの方が大きすぎて、何が正しいのかわかんないんだ。 "安田くんさぁ、アホの子やんか？" 友達が開いたのは、安田くんが私に送ってくれた写真の一覧。 "空の写真。何か気づかん？" 「？……あ。」 綺麗な夕焼け、ロマンチックな星空。

かおり @orange_shake_

【指先で送る・25】 それから、明るくなりかけの明け方の空。 "○○ちゃんが眩しいの苦手って知って、送らんようにしてるんやと思う。写真なんやから眩しいわけないのに！ほんまアホの子♡" 安田くんは青空とお日様が似合う人なのに、そんな写真は1枚もなかった。