ジャム【フルーツソングシリーズ②】

かおり @orange_shake_

【ジャム・1】 年始のバーゲンで衝動買いしてしまった、ホームベーカリー。 衝動買いの格安品にしてはいい仕事をしてくれていて、今はパンの焼ける香りに包まれる朝が毎日の楽しみだったりする。 「すばるくーん、起きてよぉ」 本日3度目。 しっかり閉じられた大きな目を縁取る長い睫毛。

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【ジャム・2】 安心しきったような可愛い寝顔を見てると、起こす決意も揺さぶられそうになるから早く起きてほしいんだけどなぁ… 時計をちらっと見て、寝室を出る。 もう、あと5分だけだからね。 キッチンに戻れば、焼きたてのパンの香りに混じるコーヒーの香り。

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【ジャム・3】 ちょうどコーヒーメーカーのランプが点いた。 「…起きないすばるくんが悪いんだからね」 冷蔵庫から取り出した瓶。 すばるくんが描いた何かよくわからない動物の絵のラベルを貼った瓶には、昨日の夜2人で一緒に作ったいちごジャム。

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【ジャム・4】 昨日、お昼にすばるくんのお友達の安田くんが家に遊びに来てくれて。 私に、って持ってきてくれたお土産のいちごを私よりキラキラした目で見てたすばるくん。 私よりも安田くんよりもぱくぱく食べて、残った分をジャムにしたいって言い出したのはすばるくんの方だった。

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【ジャム・5】 "渋やんがいちごジャムって、なんか似合わへんなぁ" 意外そうに、でも面白そうに笑った安田くんの言う通りだ。 今は髪が伸びて髭も剃って可愛くなってるけど、少し前まではあの目力のおかげで怖そうに見えてたし。

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【ジャム・6】 意外と甘党なのは、一緒に住むようになって初めて知ったすばるくんの新たな一面。 昨日のジャム作りも、普段はキッチンに入ろうともしないすばるくんが張り切って私のエプロンをつけて準備してるのを見たときは笑っちゃった。

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【ジャム・7】 出来上がったジャムを冷ましながらすばるくんが瓶のラベルを描いて、明日の朝一緒に食べようねって約束したんだけど。 起きないんだもん。 私、起こしたもん。 そーっと瓶の蓋を開けて、スプーンを入れる。 ちょっと、味見するだけ。

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【ジャム・8】 一口食べると、市販のものとは違う柔らかい甘さが広がった。 おいしい！ 大きな声は出せないから心の中で叫んで、何事もなかったように瓶の蓋を閉じてスプーンを洗った。 よし、証拠隠滅完了。 昔は、甘いものはあまり得意じゃなかった。

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【ジャム・9】 朝ごはんも食べたり食べなかったりだし、コーヒーも苦手だった。 それがいつの間にか、すばるくんと一緒にいる時間が長くなるにつれて味覚まですっかりすばるくんに毒されてしまった。 それだけじゃない。 彼が好きなロックバンド、古着、ゲーム。

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【ジャム・10】 別に合わせようと思ったことは一度もなかったのに、すばるくんの好きなものはいつの間にか私も好きになってた。 テーブルの上には焼きたてパン、淹れたばかりの熱々のコーヒー、上手に仕上がったいちごジャム。 あとは、すばるくんだけなんだけどなぁ…

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【ジャム・11】 時計を見上げると、ちょうど5分経ったみたい。 よし、起こしますか。 ＊＊＊ 「すばるくーん…」 わざと寝室のドアを開け放して、リビングからコーヒーとパンの香りを部屋に入れる。 おいしい匂いで目覚ましてくれないかなぁ… 『zzz…』

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【ジャム・12】 相変わらず、無防備な寝顔。 「すばるくん？」 ベッドの前にしゃがみこんで、目の前で呼んでみても全然起きない。 「すばるくんすばるくん」 身体を揺すってみても、ぴくりともしない。 ここまで起きないと、逆に不自然。 …本当は起きてるんじゃないの？

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【ジャム・13】 よく、寝たふりしてたすばるくんに近寄った瞬間に大きな声で驚かされたりする。 今日は、引っかかってやんないんだから。 …あ、そっか。 せっかくいい匂いを部屋に入れたのに、すばるくんマスクしてるからわかんないのかも。

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【ジャム・14】 起こさないように、そーっとマスクを顎の方に下ろす。 何気なく見えた唇が、ニヤッと笑った気がした。 その瞬間。 「…！！」 一瞬の出来事。 布団から出てきた腕が私をその中に引きずりこみ、抵抗する間もなく唇を塞がれた。 「ん、んーっ！」

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【ジャム・15】 苦しくても離してもらえないし、激しいキスに目を開けることもできない。 『…はぁっ、おはよ』 寝起きのとろんとした目と、満足げに上がった口角。 『何回この手に引っかかってんねん。もしかしてわざとちゃうん？』 「違っ…」 わない、かもしれない。

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【ジャム・16】 もしかしたら、こうなることを期待してた、かもしれない。 「ねぇすばるくん、遅刻しちゃう…」 『お前、先にジャム食ったやろ』 「え」 見てたの…！？ 『わっかりやすいやつやな(笑)！いちごの味、したからやんか』

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【ジャム・17】 もう一度唇を合わせて、チュッて音を立てて離れる。 「うぅ…」 がっちりと腰に回された手をどけようともがくけど、余計強く引き寄せられるだけで。 『俺、今日休み』 「…え！？」 うそ！ 昨日、明日いつも通りに起こしてって…あれ、気のせいだったかな。

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【ジャム・18】 やだ、お休みの日なのに起こしちゃった… 『ぷはっ！(笑)』 慌ててたら、すばるくんが吹き出した。 『大丈夫やで、起こせって言うたん俺やから。』 「え、なんで…」 『なんでってそりゃあ、ねえ？』 私の髪の毛をぐしゃぐしゃに撫でて笑う。

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【ジャム・19】 『起こしてほしかったから？♡』 「…もう！」 わざと膨れて、ベッドから抜け出す。 「パンもコーヒーもジャムも、ぜーんぶ先に食べちゃうから！」 『え、それはあかんやろ。待って、ごめんて！』 騒がしくて、でも嬉しい休日の始まり。

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【ジャム・20】 いつだって、すばるくんといると嬉しさが増えていくんだよ。 いたずらされてばっかりで悔しいから、直接は絶対言ってあげないけど！ 【おしまい】

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|ω・)おしまい(仮) 本当はこれでおしまいなんですが、最後に本当にいらないおまけを思いついてしまったので書かせてください。 本編はこんなつもりで書いたお話ではありません。 すばるくん呼びするとどうしてもかおりさんの中で彼女が暴れだすんだ…←病気

かおり @orange_shake_

【おまけ】 「…っていう初夢を見たんだよすばるくん！これ富士山超えの縁起の良さだよね( ✧Д✧) ｶｯ!!」 『で、やから何？』 「正ゆm『ヒナー、こいつにええ病院紹介したってー』 【おまけ・おしまい】