甘酸っぱい【フルーツソングシリーズ⑦】

かおり @orange_shake_

【甘酸っぱい・1】 『ただいまぁ』 「…おかえりー」 2人で過ごす休日。 せっかく部屋に呼んだのはええけど、彼女ときたらずーっと難しそうな本に夢中で全っ然構ってくれへん。 しびれ切らして黙って出かけてやったんやけど、帰ってきても無反応。

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【甘酸っぱい・2】 やっとの思いで声をかけても、俺の顔も見ずに生返事の「おかえり」だけ。 時間は、14時をちょっと過ぎたとこ。 買ってきた漫画をドサッと置いて、彼女に背中をくっつけて座った。 「ちょっと、何」 『俺も読書タイムにすんねん』 お気に入り漫画の新刊。

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【甘酸っぱい・3】 「出た、エロ漫画」 『失礼な。ただエロいだけちゃうねんで、こーいうのはストーリー性が…』 「はいはい」 ちらっと横目で、やっとこっち見てくれたと思ったらまた視線は小難しいビジネス書へ。 まぁえっか。

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【甘酸っぱい・4】 彼女に冷たくあしらわれるのも嫌いじゃない。 彼女のおかげですっかりMに振り切れてる俺はくっつけた背中をもっと擦り付けるみたいに密着して自分の読書を始めた。 ＊＊＊ 『はぁ…ええなぁ』 半分ぐらい読み進めたとこで、思わずため息と独り言。 「何が？」

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【甘酸っぱい・5】 彼女もちょうどいいとこまで読んだみたいで、本にしおりを挟む。 『なんかこう、甘酸っぱい感じ？きゅんきゅんすんねん、ほらこことか見て？』 イチ押しの胸キュンシーンのページを開いて彼女に見せると、「ふぅん」って気のない返事。

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【甘酸っぱい・6】 『大人になるとさ、こういう甘酸っぱい感じって忘れがちやん？あ〜なんか久しぶりになんかこう、なぁ！』 「甘酸っぱいって、どんなの？」 興奮してきた俺とは対照的に、真顔で質問する彼女。 『ええっと、それはぁ…』 何と説明していいのか。

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【甘酸っぱい・7】 「甘いの？酸っぱいの？どっちなの？」 『え、いやあの両方…』 「それってどんな感じ？食べ物に例えると何？」 『えーっと…』 なんか、思ってた展開とちゃうなぁ。 『あ！』 わかった！ 『これ、読んでみて！読んだらわかる！』

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【甘酸っぱい・8】 読みかけの漫画を渡すとちょっと嫌そうな顔をしたけど、俺が引き下がる気がないのがわかったのか渋々ページをめくり始めた。 「ちょっと、覗かれてると気が散る」 『ええやんか、邪魔したりせーへんって♡』

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【甘酸っぱい・9】 と言いつつも、背後から覗いてると漫画よりも彼女のサラサラの髪とかキレイなうなじとかそんなとこにばっか目が合って…あかん、邪魔したい。 1話分を読み終わって彼女が漫画を閉じる。 『なぁ〜♡』 すっかりイチャイチャしたい欲がピークに達した俺。

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【甘酸っぱい・10】 今がチャンスとばかりに後ろからハグ… 「コーヒー淹れよっと。丸ちゃんも飲む？」 『…いただきます』 抱きしめようとした腕は虚しく空を切った。 ＊＊＊

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【甘酸っぱい・11】 ＊＊＊ 「ちょっと何なのさっきから、気が散るなぁ」 キッチンでコーヒーの準備をする彼女の側をうろうろ。 『え？漫画の感想聞きたいなぁって♡』 それをきっかけに、イチャイチャしたいなぁって♡ 「うーん…わかんない」 『え？』 「わかんない」

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【甘酸っぱい・12】 『わかんない…』 何が？ 「丸ちゃんが言う、甘酸っぱいっていう感覚。どちらかというと丸ちゃんはひたすら甘いじゃん」 『そうですね…』 それは君がひたすら酸っぱいから、というのもありますが。 漫画作戦、失敗？

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【甘酸っぱい・13】 『あ、じゃあさ！あの漫画のキャラの中でどの男の人が好き？』 作戦変更。 好きなキャラクターの話で盛り上がって、それから… 「…あの、メガネの人。黒髪の」 『そ、そうかぁ…』 そっか、椎名くんがタイプか。クールなミステリアス系のイケメンな。

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【甘酸っぱい・14】 あの何とも見えない感じに振り回されちゃう女の子続出… って、俺と正反対やん！ 何なら数あるキャラクターの中で1番俺が共感できひんタイプやん！ 『あ、のさ』 「ん？」 コーヒーのいい香りがする湯気が立ち込める。 『なんで…』

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【甘酸っぱい・15】 何で、俺と付き合ってんの？ そう言いかけた言葉を、飲み込んだ。 聞けへん、怖くて。 目の前にある、さっき絶妙なタイミングで俺の腕から逃げた細い肩を見つめる。 最後にハグしたん、いつやったっけ。 ハグどころか手つないだり、ちゅーなんてもってのほか…

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【甘酸っぱい・16】 あれ？ これってもしかして。 『倦怠期…？』 「はい？」 怪訝そうな顔をした彼女が振り返る。 いや、倦怠期どころか。 『これは…危機やな』 ＊＊＊

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【甘酸っぱい・17】 ＊＊＊ 『付き合って下さい！！』 勢いよく頭を下げた俺に、困ったように笑う彼女。 「いいよ」 『…え？』 一瞬、言葉の意味がわからへんかった。 「だから、いいよって」 『え、それは、なんで…』 「何、嫌だった？」

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【甘酸っぱい・18】 『そんなわけ！ないやんか…でも』 「だって丸ちゃん、私がいないとダメなんだもん。私だって、」 『やったぁぁーー！！！』 想いが届いたあの日。 あれ？ これよく考えたら、届いてへんかった？ ＊＊＊ 「…るちゃん、丸ちゃん！」 『…はっ！』

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【甘酸っぱい・19】 袖を引っ張られて我に返る。 「どこ行ってた」 『ごめん、ちょっと過去にタイムスリップを…』 「…はぁ。」 わけわかんない、 2人分のコーヒーを持ってリビングに戻っていく。 『あ、待って待って！』 追いかけてリビングのソファに、くっついて座る。

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【甘酸っぱい・20】 「くっつきすぎ。はい」 差し出されたマグカップ ではなく、その手を握った。 「…何」 丸ちゃんさっきからおかしいよ？と首を傾げる。 『冷たい』 「ん？」 『手』 「…あぁ」 手だけちゃうけど。 あの日、初めて手をつないだ時と同じ温度。

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【甘酸っぱい・21】 …まぁ別に、ええんやけど。 『そんなとこも好きやし』 「はっ！？」 脈絡なく呟いた俺に、引いたような表情。 ちょ、そんな顔せんでもええやん。 一応恋人同士やで？ 彼女の手からマグカップを2つとも奪って、テーブルの上に。

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【甘酸っぱい・22】 「…ちょっと、何やってんの」 『何って…ハグ』 ええやんか、そういうことする関係やんか。 久しぶりにぎゅーってすると、冷たい手とは対照的にあったかい体。 ああそうや、冷え性やけど俺と一緒で体温は高めやったなぁってそんな些細なことと彼女の香りを思い出す。

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【甘酸っぱい・23】 …あかん、スイッチ入りそう。 「…ちょちょちょ！」 気がついたらソファに押し倒してて、いつもクールな彼女の珍しく焦った顔が俺の下に。 『…椎名くんみたいに、したらええ？』 「…はいぃ？」 ごめんやけど、クールに乱していくなんてそんな余裕はないけど。

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【甘酸っぱい・24】 『いつもみたいにヘラヘラせんと、めっちゃくちゃにしてもええ？』 「…何考えてんだか」 ぺちん、 冷たい手が軽く頬に触れた。 「甘酸っぱいのも椎名くんもいらないよ、私は丸ちゃんがいいの」 いつものポーカーフェイス、頬が少し赤らんだ。

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【甘酸っぱい・25】 「丸ちゃんには私がいないとダメだから」 『…おん』 それは認めるけど。 「今度こそ最後まで聞いてよ？」 あの日は言わせてくれなかったんだから、と睨む。 「私だって、丸ちゃんがいないとダメなんだもん」 『…え』 今、何て？